政府の要請を受けて始まった一斉休校措置。教育法学や教育行政を専門とする埼玉大学の髙橋哲准教授は、さまざまな法的問題点があると指摘する。休校措置決定に至る手続きや、子供と教員の健康・安全を守るという視点における、法的な問題点を聞いた。
今回は首相単独での判断だと報じられています。科学的なエビデンスも示されないままの決定であり、これは本当に子供たちの安全を守るものだったのか、疑わざるをえません。
各自治体に要請が下りてきた場合、本来は学校の設置者である教育委員会が休校措置の決定権限を持っています。しかし、いくつかの自治体では首長が先導して決定しているケースがあり、教育の地方自治、あるいは、教育行政の独立原則が尊重されていなかったという点も問題です。
今回の休校に関する判断は、その地域の実情を踏まえて学校の設置者である市町村の教育委員会が行うべきでした。3月3日には栃木県茂木町が休校措置を取り止め、通常通り授業を行うと発表しましたが、これはまさに地域の実情に基づいて判断された事例です。他の自治体にも、教育法令にのっとった子供本位の判断を求めます。
これまで「教育は政治的判断で決められてはいけない」というガバナンスの仕組みを作ってきたにも関わらず、今回は緊急措置だということで法律上のルールが度外視されてしまっています。
私は、感染症問題だけでこの問題を見るのではなく、広い視野で教育と政治の関係、国と自治体の関係を捉えた分析が必要だと考えています。そうでないと、同様のケースが今後も起こってしまうかもしれません。
一部の自治体や学校では、保護者が面倒を見られない低学年の児童を学校で預かるなどの措置をとっています。
ある市では、当初、教育活動とはみなされないため、児童生徒に事故などが生じた場合、災害共済給付の対象外とされていました。
しかし、その後に文科省の一斉臨時休業に関するQ&Aの回答が「学校の教育計画に基づいて行われる課外指導として、児童生徒らを受け入れているなどの要件を満たす場合には、災害共済給付の対象となるものと考えられます」と変更されたことにより、一転、対象となる判断に変わりました。
また、学校や放課後児童クラブで子供を預かる場合に、子供の安全を守るためとは言え、「2メートル離れる」「私語厳禁」などと、子供の自由の剝奪が起こっているケースもあります。対応する教員やスタッフも、このような対応を取らざるを得なくなっていることにつらさを感じていると聞いています。
今回の臨時休校で、放課後児童クラブの職員確保が困難なため、学校の教職員が協力を求められるケースも出ています。
これが職務に該当するのかについて、文科省は「教師が常に対応すべきものではありませんが、今回の臨時休業に当たって、教師が職務である教育活動の一環として、各教育委員会等の職務命令に基づいて放課後児童クラブの業務に携わることは可能と考えられます」と回答しています。
しかし、放課後児童クラブの業務は教員の職務ではないため、これを命じることは公務員法上、違法な職務命令になる可能性もあります。こうした職務を拒否した場合に、教員は職務命令違反となるのか、あるいは、給与が支払われないのかなど、どのような対処が行われるのかということも、今後、問題として出てくると考えられます。
働かせる側である教育委員会には、教員への安全配慮義務があります。教員にも子供への安全配慮義務がある中で、子供たちの世話をどのようにしていくべきなのか。このように、子供の安全と、労働者の安全、両方の権利を守るにはどうすれば良いのか対応が難しい問題が次々と出てきています。このような葛藤状況に子供や教職員を追い込んでいる政府の施策に憤りを感ぜざるを得ません。
両者ともに不利益をかぶらないように、国や教育委員会が十分に検討の上、各問題に早急に対応していくことを望みます。