コロナ危機下での舵取り 全日中新会長に第一声インタビュー

コロナ危機下での舵取り 全日中新会長に第一声インタビュー
全日中の新会長に就任した東京都八王子市立第七中学校の三田村校長
【協賛企画】
広 告

 5月21日に開かれた全日本中学校長会(全日中)の総会で、新会長に東京都八王子市立第七中学校の三田村裕校長が就任した。新型コロナウイルスの感染防止対策やオンライン授業、部活動の大会の中止、9月入学といった課題が山積する未曽有の事態に、どのような舵(かじ)取りをしていくのか。三田村新会長に聞いた。

コロナ危機への対応を今後に生かす

――コロナ危機の中学校への影響を、どう捉えていますか。

 喫緊の課題は多く、最も重要なのは教育課程の再編成です。不確定なことが多々ある中で、新たな教育課程をどう作り上げていくのか。特に中学3年生は高校入試を控えています。国は都道府県教委などに十分な配慮を求める通知を出しましたが、都道府県によって大きく対応が異なれば混乱を招きます。他の都道府県に進学する生徒もいることを考慮し、配慮の内容を一律に、より具体的に示していただきたいと考えています。

 次に、各地の学校の感染予防です。国から基本的な対処方針が示されていますが、地域の感染状況に応じて、予防に最大限配慮した環境を整えていく必要があります。さらに、感染の第2波・第3波が来た時の想定をしておくことも求められます。

 それから、生徒の心の状態がとても心配です。人と会話をすることが減り、生きる意味を見失いかけている生徒もいるようです。非行の問題も気になっています。そうした生徒の状況を把握して、生徒に寄り添った相談・指導体制を築かなければなりません。

 一方、今回の新型コロナウイルスへの対応として、在宅勤務や動画配信、遠隔授業など、各地でさまざまな取り組みがなされています。その中で、今後も生徒指導や教員の働き方改革に生かせるものがかなりあるのではないでしょうか。こうした取り組みを集約し、よい教訓としていくことが中長期的な課題です。

 本校でもウェブサイトに授業動画を100本ほど掲載しています。休校期間への対応として始めたことですが、今後はライブラリー化して、補習が必要な生徒や不登校の生徒へのフォローに使うなど、さまざまな活用が考えられます。教員には今後、ICT機器を活用できる力が必須になってくるでしょう。

――今年度の部活動や大会運営については。

 夏の全国中学校体育大会や全日本吹奏楽コンクールの中止は、本当に残念なことですが、状況からして致し方ないでしょう。今後の活動については、各学校の教育計画を描く上での指針が明確になってから方針を決めることになります。

 昨年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によれば、男女とも8~9割が運動部・文化部に参加しています。部活動が中学校教育において果たす役割は大きい。大会などに向けて努力してきた生徒、特に中学3年生は今回の中止で、「燃焼しつくした」という実感を持てなくなってしまいました。少しでも達成感を味わうことができるよう、それに代わる何かを考えていかなければなりません。

 授業時数を確保することを最優先とするならば、大会や部活の時間を短縮して授業にあてる可能性も出てきます。とはいえ、知・徳・体の調和のとれた人間形成を目指すとすれば、授業時数は確保しながらも、真に必要な行事と部活動とをバランスよく組み合わせていくことを考える必要があります。

9月入学、議論を進めるべき

――9月入学の議論が浮上しています。

 議論の余地は大いにあります。個人的にはメリットが大きいと考えています。現状、海外との行き来がある保護者の子供に対しては、タイムラグを埋めるための特段の措置が必要です。また、生徒自身が留学する場合にも、現地の入学時期に合わせるという問題があります。9月入学でそうしたケースは円滑に進むようになるのではないでしょうか。

 また、現状では冬の時期に入試が行われるため、インフルエンザなどの感染症の流行や積雪による公共交通機関の乱れで入試に影響が出ることがありますが、9月入学に移行すればそうした問題は生じにくくなります。9月の新学期の前に長い夏休みを設けられれば、生徒や教員の気持ちの切り替えにもなるでしょう。

 今年度に限って言うならば、次の9月から新学期を始められれば行事を削減することなく授業時数を確保でき、生徒や保護者も安心できます。

――その一方で、現場の混乱も想定されます。

 一番大きな課題は、学校以外の社会のさまざまな仕組みとの整合性が取れるのかということです。学校についても学齢を半年早めるのか遅らせるのか、変更によって生じた学級数や教員定数についてはどうするのか、という問題が出てきます。さらに、教員の退職・採用・異動などの人事についても時期の検討が必要になります。

 こうした課題がクリアできる体制ができない限り、9月入学への移行には踏み切れないでしょう。ただグローバル化への対応を考えると、結論がどうなるかはともかく、検討は行うべきだと考えています。

新学習指導要領実現のための働き方改革

――全日中の会長就任に当たっての抱負は。

 第一に、新学習指導要領の実施に伴い改訂される「全日中教育ビジョン―学校からの教育改革―」を推進していきます。来年度には新学習指導要領が全面実施となり、実際に教育を担う教員が新学習指導要領を理解した上で、自らの授業でどのように実践していくかを具体的に描く必要があります。ただ、教員は目の前の生徒の指導で手いっぱいになりがちです。じっくり腰を据えて創意工夫を図れるよう、働き方改革を併せて進めなければならないと考えています。

 また、環境整備に向けて行政への働き掛けも行っていきます。現状、学校によりインターネット環境や端末の整備の状況が異なり、生徒が1人1台のタブレットを持っているところもあれば、パソコン室に旧型パソコンが並んでいるところもあります。教員の働き方改革につながる在宅勤務などの実施状況もさまざまで、全国一律に整備を進めるには行政の理解が欠かせません。

 新学習指導要領のキーワードである「社会に開かれた教育課程」の実現も課題です。地域の人に対して、学校の運営方針や人事について理解を得るためには、相当分かりやすく丁寧に伝えなければなりません。学校によっては、PTA組織がないところもあります。社会に開かれた教育課程を効果的に実現していく方法を模索していく必要があります。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止についての策を講じながら、これらの課題を解決していくには、これまで以上に全日中と各都道府県校長会との相互の連携を深め、問題意識や実践例の共有を進めることが求められます。

――読者へのメッセージを。

 「主体的・対話的で深い学び」という新学習指導要領の理念は、これからの時代に必要なものです。中学校教育への期待は今後も高まっていくでしょう。未来の人材を育成するという尊い仕事を担う誇りと責任感を持ち、前に進んでください。

 学校現場がブラックであるというイメージが広がり、教員採用試験の低倍率化に拍車をかけていることを懸念しています。人材確保は大きなテーマです。子育て中でもやりがいのある仕事ができるといった働き方改革を進め、教師の魅力をポジティブに発信していきたいと考えています。

【プロフィール】

三田村裕(みたむら・ひろし) 1960年生まれ。東京都出身。都の国語の教員として教職生活をスタート。府中市立府中第五小学校校長、府中市教育委員会学校教育部副参事兼指導室長などを経て、2016年から八王子市立第七中学校校長。信念は「公平・冷静」、座右の銘は「われ以外みなわが師」。趣味は鉄道のある風景の写真を撮ること。

広 告
広 告