新型コロナウイルスの感染拡大による学校休校の長期化を受けて急浮上した9月入学(秋季入学)への移行について、政府は7月20日、首相官邸で開いた教育再生実行会議で、関係府省の次官級協議が整理した15項目にわたる課題を公表した。議論の進め方については「『学びの保障』とは切り離して、ポストコロナ期の学びの在り方について検討していく中で、議論する」と位置付け、長期休校に伴う授業時数の確保など当面の学校運営とは分離する考えを鮮明にした。萩生田光一文科相は「いま学校が再開している状況で、改めて秋季での入学、進学を考える事態にはなっていない。この段階で(学校の)学期が変わることは全くない」と述べ、新型コロナに伴う学校休校への対策としては、9月入学を考えていないことを強調した。
教育再生実行会議に提出された、最近1年間の教育政策をまとめた資料では、9月入学を導入するメリットについて、(1)休校が長期化する状況でも、学校行事や実習の機会なども含めた教育機会を確保できる(2)学年の途中に夏期休業を挟まず、学年を通じた効率的な学習・学校運営が期待できる(3)研究者の人事交流、共同学位課程(ジョイント・ディグリー)の設置など、海外との交流拡大が期待される――の3点を挙げた。
同時に、9月入学への移行に伴って生じる課題について、省庁横断による次官級会議が整理した、4分野15項目にわたる内容を示した。
まず、保育関連では、就学が5カ月遅れ、約100万人の未就学児が発生。保育園や幼稚園のスペースや、保育士・教員の要員確保は困難と説明。小学校入学後の放課後児童クラブでも待機児童が発生し、育児休業の延長など各家庭の負担が増加すると指摘した。
就学範囲の変動に伴い、幼稚園や保育園のクラスの約半分が予定より早く小学校に入学するため分断が生じるほか、生まれ月によって受験や就職などの有利、不利が変わる恐れがあること挙げた。
初等中等教育では、2021年9月の入学者が約40万人増加し、その卒業まで教員約2万人や教室の確保が困難となる。1学年だけ、17カ月の発達差のある140万人の学年ができるほか、保護者の教育費負担も5カ月分延びることが課題とされた。
このほか、就職や定年の変更に伴う一時的な人材不足、児童手当など給付期間の変更に伴う自治体の負担など社会全体に影響を与えるほか、桜の季節の卒業式や入学式など、世代を超えた国民共通の記憶が損なわれる恐れも指摘されている。
会議後、記者会見した萩生田光一文科相は「文科省だけでなく、関係省庁全てで、9月入学になった場合の財政、人事、制度的な課題について、しっかり整理した。この成果物を再生会議でスクリーニングし、(9月入学が)向かうべき方向としていいか悪いか、予断を持たずに議論してもらう」として、あくまで将来の課題として9月入学のメリットやデメリットを議論していく考えに理解を求めた。
また、「一番心配しているのは、一度収束した『9月入学』というワードが新聞紙面に踊ると、『また来年4月から、そういうことが起こるのか』と心配する人が出ること」と、学校関係者や保護者に制度変更による混乱が広がる事態に懸念を表明。「『学びの保障』のために半年遅れの秋季入学を採る案は、現段階ではない」と説明した。