中教審教員養成部会は2月8日、今期の最終回となる会合を開き、教員免許更新制に関する申し送り事項を取りまとめた。教員免許更新制について、その効果や制度設計、教師や管理職の負担、退職教員の活用など、さまざま面から厳しい評価が出ていることを指摘。こうした課題を解消するために「何らかの前提を置くことなく抜本的な検討が求められる」として議論を急ぐよう求め、その方向性について「『教師の資質能力の確保』『教師や管理職等の負担の軽減』『教師の確保を妨げないこと』のいずれもが成立する解を見出していかなければならない」と明記した。
申し送り事項はA4版15ページにわたり、都道府県教委や各校長会、講習開設者である大学からのヒアリングなど、これまで6回にわたる審議で指摘された教員免許更新制の問題点を多角的に記載している。小学校全学年の「35人学級」を定めた義務標準法改正案の国会提出などに伴い、「教師の人材確保と質向上をめぐる状況には大きな変化が見込まれている」ことも前提に挙げた。
まず、2009年4月の創設から11年が経過した教員免許更新制の評価について、これまでの審議で出された意見を「その趣旨である『最新の知識・技能の修得』には一定程度の効果がある一方で、費やした時間や労力に比べて効率的に成果の得られる制度になっているかという点では課題がある」と集約。「学校内外で研修が実施されていることに鑑みれば、10年に一度の更新講習の効果は限定的である」と、従来の研修との重複についても問題視した。
教員免許更新制の課題については、▽制度設計=更新手続きのミスによる「うっかり失効」が、公務員としての身分を喪失する思い結果をもたらす▽教師の負担=講習に費やす30時間や費用面などで負担感がある▽管理職の負担=手続きや教師への講習受講の勧奨が多忙化を招いている▽教師の確保への影響=免許状の未更新を理由に臨時的任用教員等の確保ができない事例が多く、退職教師の活用も困難になりかねない▽講習開設者である大学側の課題=講習を担う教員の確保や採算の確保に課題を感じている--と、さまざまな角度から現状の問題点を指摘した。
こうした課題を踏まえ、残された検証の論点として、コロナ禍で学びの保障が求められる中で教員免許更新制が及ぼす影響の分析や、現場教師の認識を把握する調査の実施、講座を開設している大学や教員免許状を持ちながら民間企業に勤務する人に対する調査などを挙げた。
次期教員養成部会での検討作業について、「包括的な検証の中で教員免許更新制については厳しい評価がなされており、指摘された課題については真摯(しんし)にその解消を図る必要がある。このため、何らかの前提を置くことなく抜本的な検討が求められる」と、抜本的な見直しに取り組むよう求めた。さらに「『教師の資質能力の確保』『教師や管理職等の負担の軽減』『教師の確保を妨げないこと』のいずれもが成立する解を見出していかなければならない」と、検討作業の方向性を鮮明にした。
出席した委員からは、教員免許更新制の見直しを急ぐよう求める声が相次いだ。
喜名朝博・全国連合小学校協会会長(東京都江東区立明治小学校長)は「今、学校の人材確保、教員の質の担保については、待ったなしの状況。教員免許更新そのものの存続も含めて、在り方を検討してほしい。存続にするにしても、今までの研修履歴の活用などを議論してほしい』と述べ、教員の負担軽減を念頭にスピード感のある取り組みが必要だと強調した。
教員養成に関わっている安部恵美子・長崎短期大学長は「教員養成校としては、学び続ける先生を作るのが大きな目標になる。教員免許更新制には、そうした大学教育の成果を担当者が感じられるという役割もあると思っている。社会が急激に変化する中で、教育に関する最新の総合的知見や最新の教育技術を身に付け、学び続ける先生を養成するための研修の在り方を総合的に考えていくように、次期教員養成部会の議論をつなげていってほしい」と述べ、教員養成課程全体を見渡した議論が重要との見方を示した。
高橋純・東京学芸大准教授は「ICTが社会に及ぼす影響を考えると、これまでの最適化する観点ではなく、根底から覆されるような変化が起こり始めている。知人の中学校教諭は、知識は動画で学べると分かり、『これで研修は楽だ』と思った瞬間、自分の授業が知識伝達になりがちで、『これでは生徒から動画でいいんじゃないのかと言われてしまう』と気付き、一生懸命、自分の授業を変え始めた。今後の検討は、もっとアンテナを高くして変化を感じ取っていくことが求められているのではないか」と指摘。ICTに対応した教員養成は、従来の延長線上だけでは対応できないのではないか、と問題提起した。
今期の中教審は1月26日に答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」をまとめ、約1年9カ月間をかけた議論に区切りを付けた。教員養成部会も今回の会合で今期の議論を終え、教員免許更新制を見直す具体的な検討作業は次期の部会に引き継がれる。文科省は1月19日、教員の人材確保と質向上に部局横断で取り組む「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上に関する検討本部」を設置。本部長を務める萩生田光一文科相は2月2日の閣議後会見で、教員免許更新制の見直しについて「スピード感を持って制度の見直しなどの取り組みを具体化していきたい。本気で取り組む」と意気込みをみせている。