教員免許更新制の抜本的な見直しを審議している中央教育審議会(中教審)の教員免許更新制小委員会は5月24日、第2回会合をオンラインで開催。文科省は席上、先の中教審答申が描いた、生涯を通じて自ら学び続ける教師の姿を実現するため、▽教師の研修受講履歴の記録・管理▽教師と任命権者等との「対話」や研修の奨励が確実に行われるための制度的な措置▽研修プログラムについて、教育委員会だけでなく、大学や民間事業者が提供するものも含めて質保証を行い、ワンストップで提供する仕組みの構築--などを論点として提示した。これに対して委員からは賛同する意見が続出。加治佐哲也主査(兵庫教育大学長)は「こういったことができれば、免許更新制はなくてもいいのではないか」と議論を引き取り、次回会合で免許更新制の存廃を含めて審議する考えを示した。
文科省が提示した資料は「『令和の日本型学校教育』を担う教師の学び(新たな姿の構想)」。前回会合で委員から、教師の自律的な学びや個別最適な学び、ICTを活用した良質なコンテンツの集約、研修履歴の記録による学びの支援が重要との意見が出たことを踏まえ、加治佐主査が教師の学びを支援する仕組みづくりを構想する必要性を指摘したことから作成された。
資料では、教師はそもそも学び続ける存在であることが強く期待されており、主体的に学び続ける教師の姿が児童生徒にとっても重要なロールモデルになることを明記。教師の学びは必然的に「個別最適化」された内容となり、任命権者などとの積極的な「対話」や、研修のコンテンツがワンストップ的に集約・提供するプラットフォームの構築などが必要な項目として列記されている。デジタル技術の積極活用は、こうした仕組み作りの前提とされた。
その上で、こうした仕組みの実現に向けた具体的な検討内容を「『新たな教師の学びの姿』について議論するに当たっての論点」として示した。
論点では、まず教師が自らの学びを振り返り、主体的に今後の学びを考えるために教師の研修受講履歴の記録・管理が重要と指摘。その記録によって、管理職や任命権者が個々の教師の学びを把握し、人事配置やキャリア形成支援につなげることを挙げた。
次に、こうした研修受講履歴や公立学校の教員に適用されている教員育成指標を活用して、「教師と任命権者等との『対話』や研修の奨励が確実に行われるよう、制度的な措置を講じることが必要」と打ち出した。この仕組みは公立学校の教師にとって「継続的な教師の学びの契機と機会を確実に提供し、その資質能力の向上を担保するための中核的な仕組みとして機能する」と位置付けている。
研修の内容については、教職員支援機構が公開している「校内研修シリーズ」などのオンライン講座の積極的活用を促した。また、各教委が実施する研修や、大学や民間事業者が提供するプログラムについて、コンテンツの質保証を行った上で、ワンストップで提供するプラットフォームを作り、そうした学びの成果を全国的に通用するものとして証明する仕組みを教職員支援機構が都道府県教育委員会と連携して構築する、とした。
こうした論点について、松田悠介・Teach for Japan創業者・理事が「冗談抜きに感動した。強いビジョンを感じた。これこそ、抜本的な改革と思う」と述べるなど、出席した委員から評価する声が相次いだ。
そうした中で、貞廣斎子・千葉大教授は「養成・研修の段階で学びの精緻化、規格化、厳格化が、場合によっては過剰に進むのではないかと考えてしまう。社会は今後も変化し、育成すべき能力も変化していく。その中で教師には革新や創造が求められていくことを考えると、こうした厳格化も必要だが、それと合わせて、直接は教育活動に結びつかないかもしれない、多様な経験を許容する必要がある。こうした部分がないと教員は元気を出して働くことができないし、学生にとっても魅力的な職業には見えない」と指摘した。
任命権者として教員との「対話」を求められるかたちとなった藤田裕司・全国都道府県教育委員会連合会長(東京都教育長)は「都道府県は任免権者として、人材育成としての研修を管理する立場にある。都道府県によって進んでいるところとあまり進んでいないところがあるが、今後はかなり力を入れていかないといけなくなる。そのために、教育委員会がいつ頃までにどんなことをしなければいけないか、工程表や、最終的に目指す完成形を分かるように示してほしい」と要望した。また、教員の魅力アップ策として、「10年たったら教職大学院で教員個人が関心のある分野を研究できるとか、研修の一環で実務と研究の両方から視野を広げていくインセンティブがあるといい。教職大学院と体系的にタッグを組んで、教員が学び続ける後押しをできるといい」と述べた。
文科省の平野博紀・教育免許企画室長は「新しい時代に求められる新しい教師の学びの姿をどう考え、どう実現していくのかは、免許更新制の在り方と分かちがたく連動している。研修履歴の管理がしっかりみえてくると、逆に言うと、学んでいる先生と、任免権者として期待する水準に至っていないところに気付くことができるようになってくるのではないか。その中で、任免権者や学校管理者が現場の教師にどのようにアプローチして、実質的な学びを確保していくのか、その個別の対応も可能になっていくのではないかと思う。この論点をたたき台として議論を進めてほしい」と指摘した。
こうした議論を受け、加治佐哲也主査は「新たな教師の学び姿についての構想には、反対意見はなく、おおむね賛同を得ることができた」と総括。その上で、「この小委員会は教員免許更新制の在り方に結論を出していかなければならない。新たな教師の学びとして、教師の研修を記録管理し、任免権者のと対話や研修の奨励が確実に行われるように制度的な措置を講じるのであれば、教員免許更新制がなくてもいいのではないか、と思う。ただ、教員免許更新制の存続を前提に、新しい学びの姿を生かしていくという意見もあった。また大学はさまざまな取り組みをしている」と説明。「もう教員免許更新制を存続するのか、廃止するのか、一定の結論を出す必要がある。存廃も含めて次回議論したい」と述べた。
教員免許更新制について、萩生田光一文科相は今年3月、中教審に対する諮問で、「現場の教師の意見などを把握しつつ、今後、できるだけ早急に当該検証を完了し、必要な教師数の確保とその資質能力の確保が両立できるような抜本的な見直しの方向について先行して結論を得ていただきたい」と求めている。