地域住民や保護者が学校運営に参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の導入促進や充実策を議論する文科省の検討会議は6月24日、第3回会合をオンラインで開催し、文科省がこれまでの議論を基に中間まとめの骨子案を提示した。骨子案は「コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進」に力点を置き、人材配置や財政支援の必要性を指摘。これに対し、委員からは「地域貢献が強調されると、校長にとってはコミュニティ・スクールを導入するハードルが高まってしまう」などと当惑する声が上がった。
骨子案は、①コミュニティ・スクール推進の必要性②コミュニティ・スクールの推進のための方策③今後の検討事項--の3部構成。7月下旬に中間まとめとして①と②について取りまとめを行う。その後、今後の検討事項を取り上げ、今年12月に最終まとめを行う見通し。このため、今回の骨子案では、今後の検討事項は項目だけを挙げた。
コミュニティ・スクール推進の必要性について「校長や教職員だけではなく、保護者や地域住民が参画し、目標の共有・その目標達成のための対話・協働、そして評価する令和型の新たな学校改革が必要」と指摘。同時に東日本大震災の経験に触れながら、「震災復興の中でコミュニティ・スクールは非常に重要な役割を果たした。防災活動に地域との協働は確実に欠かせない」として地域と協働する意義を説明した。
次にコミュニティ・スクールの推進のための方策では、「地域と学校が目標を共有し、ともに子供たちを育てる『地域と学校の連携・協働』にコミュニティ・スクールと地域学校協働活動は重要な仕組み」と位置付け、両者を一体的推進する重要性を強調。円滑に導入するためには的確なアドバイスができる人材が必要だとしたほか、運営を持続させるには、教員の負担増にならないように総合調整や事務局機能を担う人材の配置や、そうした人材への報酬など財政支援の必要性も明記した。また、コーディネーターとなる地域学校協働活動推進員のスキルを高めるために、段階的な研修や養成講座の実施も必要とした。
こうした骨子案に対し、委員からは、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進について、懸念や戸惑いを表明する意見が相次いだ。
安齋宏之・福島県本宮市立本宮まゆみ小学校長は「各学校の校長の話を聞くと、地域への貢献が非常に重く、難しいという声をよく聞く。行政によるサポートがないまま、コミュニティ・スクールは地域貢献だというメッセージが伝わると、学校に導入する校長から見ると、非常にハードルが高くなってしまう。コミュニティ・スクールの推進を考える中で、地域学校協働活動のウェイトが非常に強まっているような印象を持つ」と、地域学校協働活動が学校に与える負担感を懸念する声を上げた。
福田範史・鳥取県南部町教育長は「かなりの量の提言がなされている。これからコミュニティ・スクールを導入しようとする教育長の立場でこれを読むとき、これを全部やっていかないと推進できないんだとなると、ハードルが逆に上がってしまうことにならないか。導入初期、中期といった段階に分けるなど、書きぶりを検討する必要がある」と指摘した。
一方、基礎自治体の首長の立場から、吉田信解・埼玉県本庄市長(全国市長会社会文教委員会委員長)は「学校が果たしている本分は、子供たちの学力の増進、あるいは体力の増進、そして知徳体の徳を伸ばしていくこと。その延長の中に地域との連携があるべきだろう。本来の学校のあるべき教育の本分に立脚した中での、コミュニティ・スクールであってほしい」と述べ、地域学校協働活動への取り組みは学校教育が本来持っている目的の範囲内で行われるべきだとの考えを表明した。
また、認定NPOカタリバの菅野祐太ディレクター(岩手県大槌町教育専門官)は「学校が地域に使われる、という事態が起きないことが非常に重要。学校運営協議会は地域側の組織ではなく、学校と地域の間にあるような組織だと思う。『これはちょっと違うのではないか』と思ったら、地域を説得しにかかれるという正当性を持つのも学校運営協議会なのではないか。この部分を強調した方がいい」と指摘。
さらに「学校運営協議会には、ある程度の段階化が必要なのではないか」として、「学校運営協議会で、もっとこういうところまでできるという、頂を高く見せることも可能性としてはあるのではないか。例えば、予算権や、自分たちで教員を採用するとか、学校運営協議会をどこまで自分たちで高めていけるのか、それを示していくこともできると思う」と踏み込んだ。
意見交換の最後には、コミュニティ・スクール制度のスタート時から積極的に関わってきた貝ノ瀨滋・東京都三鷹市教育委員会教育長(全国コミュニティ・スクール連絡協議会会長)が「コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進」の考え方について、議論を整理した。
貝ノ瀨教育長は「2004年に法律で定められたコミュニティ・スクールは、だんだん時代や社会の状況が変わる中で、いろいろな機能が付与され、期待されるようになってきている。初めは法律に書かれているように、学校の仕組みの一つであり、学校経営を強化していくために作られた制度。それに対して、地域学校協働活動が出てきたのは、7、8年前から。東日本大震災があって防災を学校で取り上げないといけないとか、社会に開かれた教育課程として地域貢献などが学校に期待されるようになった。それを一括して全部学校がやらなければならないと捉えると、学校はもうアップアップになってしまう」と経緯を説明。
続けて「原点に返って、制度として法律に位置付けられている学校運営協議会と地域学校協働活動では、次元がちょっと違う。一体的に運用していく必要はあるといいながら、そこには違いがある。地域基盤の強化をダイレクトに担う地域学校協働活動と、学校経営の助けになる学校運営協議会の違いを意識しながら、一体的にやったほうが効果がある。そういう原点を押さえながら考えると、少しすっきりするのではないか。校長が全部仕切らなければならないと考える必要はもともとない」と述べた。
検討会議の正式名称は「コミュニティ・スクールの在り方等に関する検討会議」。コミュニティ・スクールの導入を教育委員会の努力義務と定めた「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地教行法)改正が、2017年の施行から5年後をめどに在り方の再検討を求めていることから、今年4月に検討会議が設置された。
コミュニティ・スクールを導入している公立学校は、昨年7月1日時点で全体の27.2%に当たる9788校。前年度より2187校増加した。教育委員会単位では48.5%となっている。