文科省はこのほど、「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」を公表した。これまでも就学手続きに携わる教育委員会や学校関係者に向け「教育支援資料」を作成してきたが、今回は障害のある子供が教育的ニーズの変化に応じて特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常の学級における指導など、学びの場を変えることを重視して改訂を行い、より幅広い学校関係者が参照できるようにした。
今年1月には「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」が報告をまとめ、障害の有無にかかわらず、さまざまな子供が共に学ぶインクルーシブ教育の考え方をベースに、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導のため、連続性のある多様な学びの場を充実させる方針などが示された。
こうした背景を踏まえ、今回の手引では、これまで教育委員会や学校が独自に定義する傾向があった「教育的ニーズ」の考え方を整理。「子供の自立と社会参加を見据え、その時点でその子供に最も必要な教育を提供すること」を最も大切にし、①障害の状態②特別な指導内容③教育上の合理的配慮を含む必要な支援の内容――の3つの観点を考慮することとした。
この3つの観点については、例えば①障害の状態については「医学的側面からの把握」「心理学的・教育的側面からの把握」が重要になるなど、より具体的な視点を示したほか、障害種に応じた考え方も詳しく整理した。
「これまでは教育的ニーズの考え方の整理が十分になされておらず、医師や保護者の意見が強く反映されて学びの場が決められるケースがあるなど、自治体や学校により対応に温度差があった。教育的ニーズの考え方を整理したことで、教育的ニーズが変化したら学びの場を変える検討をしなければならないという理解につながる」と、文科省初中局で特別支援教育を担当する分藤賢之視学官は説明する。
手引では、小学校6年間、中学校3年間の学校や学びの場が、就学時に固定されてしまうわけではないことを強調。「就学後の学びの場をスタートにして、可能な範囲で学校卒業までの子供の育ちを見通しながら、学校や学びの場の柔軟な見直しができるようにしていくことが必要」と明記した。
その上で、通常の学級での学びに通級による指導を加える場合、特別支援学級から通常の学級と通級による指導を組み合わせた学びに変更する場合などの具体的な事例を示しながら、教育的ニーズの変化と、学びの場を見直すための手続き、本人・保護者との合意形成などについて説明している。
また今回の改訂では、学校での医療的ケア児の増加を背景に、別冊として「小学校等における医療的ケア実施支援資料」も公表した。これまでも通知などで学校での受け入れ態勢の充実を呼び掛けてきたが、6月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立したことも踏まえ、具体的な体制整備の参考となる情報をまとめた。
文科省初中局特別支援教育課の小林美保・特別支援教育企画官は今回の手引について、「就学担当者だけでなく、関係する全ての人たちに読んでほしい」と呼び掛ける。