こども庁有識者会議が報告書 「全ての子供の健やかな成長を」

こども庁有識者会議が報告書 「全ての子供の健やかな成長を」
有識者会議の清家座長(左)から報告書を受け取る岸田首相(首相官邸ホームページから)
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 新たな行政組織「こども庁(仮称)」創設に向けて子供関連の施策を検討してきた「こども政策の推進に係る有識者会議」は、「全てのこどもの健やかな成長、Well-beingの向上」などを基本理念に掲げた報告書をまとめ、清家篤座長(日本私立学校振興・共済事業団理事長)が11月29日、首相官邸で岸田文雄首相に手渡した。困難を抱えた子供たちへのプッシュ型支援などを通して全ての子供の成長を社会が支え、伴走していくことが必要だとして、具体的な支援策の方向性を示した。政府は報告書の内容を踏まえて、年内に子供政策の基本理念や新たな行政組織に関する基本方針を策定する。

 報告書では、はじめに子供や家庭を取り巻く現状について、出生数の減少は予測を上回る速度で進行し、特にコロナ禍が結婚行動や妊娠活動に少なからず影響を及ぼした可能性もある中、2020年の出生数が約84万人と過去最少となり、今後の出生数への影響が懸念されると指摘。こうした中で若い世代の中には出産や子育てに希望を見出しづらく、閉塞感を感じている人たちが少なからずいることや、児童虐待の相談対応件数や不登校などが過去最多となり、昨年は約800人の子供が自殺したことを挙げ、今こそ子供政策を強力に推進すべきだと強調している。

 こうした状況を踏まえた今後の子供政策の基本理念として6項目を掲げ、はじめにこれまでの子供政策が行政や学校など大人の視点中心に行われていた面は否めないとして、「こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策立案」を打ち出した。また、全てのこどもが安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、自己肯定感を持ちながら幸せな状態(Well-being)で成長できるよう、あらゆる分野の人々が一体的に取り組んでいくことが重要であると指摘し、児童虐待や貧困など困難を抱える子供や家庭には必要な支援が確実に届くようプッシュ型支援に転換し、「誰一人取り残さず、抜け落ちることのない支援」が必要であると強調した。

 その上で、今後の取り組むべき子供政策の柱として、▽結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指す▽全てのこどもに、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する▽成育環境にかかわらず、誰一人取り残すことなく健やかな成長を保障する――の3つを掲げ、具体的な施策の方向性を示した。

 この中では、若い世代への結婚や妊娠への不安を解消する経済的基盤の安定をはじめ、幼稚園・保育所・認定こども園など施設の種別にかかわらず、全ての子供が格差なく質の高い学びに接続できるような幼児教育の保障、子供にとって安全で安心できる居場所づくりを増やすことの必要性などを盛り込んだ。また、有識者会議の最終会合での委員からの指摘を受けて、「思春期から青年期、成人期への移行期にある若者の支援」を最終的に追加し、子供期から若者期まで連続性をもった支援の必要性も示している。

 報告書の提出に合わせてブリーフィングした内閣官房こども政策推進体制検討チームの長田浩志内閣審議官は「報告書の内容を具体的な施策にどう落とし込むかは、これから関係省庁で検討を進めてもらう。ただ、運用レベルでできるものはすぐやるべきとの指摘もあり、予算を伴わなくても対応できるガイドラインの整備や、対象者に浸透していない支援策の発信など、できることはすぐに精査して着手したい」と述べた。

こども政策の推進に係る有識者会議報告書(骨子)

Ⅰ.はじめに(こどもと家庭を取り巻く現状)(省略)

Ⅱ.今後のこども政策の基本理念
1.こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策立案
2.全てのこどもの健やかな成長、Well-being の向上
3.誰一人取り残さず、抜け落ちることのない支援
4.こどもや家庭が抱える様々な複合する課題に対し、制度や組織による縦割りの壁、年度の壁、年齢の壁を克服した切れ目ない包括的な支援
5.待ちの支援から、予防的な関わりを強化するとともに、必要なこども・家庭に支援が確実に届くようプッシュ型支援、アウトリーチ型支援に転換
6.データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案、PDCAサイクル(評価・改善)

Ⅲ.今後取り組むべきこども政策の柱と具体的な施策
 基本理念を踏まえ、今後、取り組むべきこども政策について、以下の3つの柱に沿って、具体的な施策についての提言を整理した。
①結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指す
②全てのこどもに、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する
③成育環境にかかわらず、誰一人取り残すことなく健やかな成長を保障する。

1.結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指す
〇若い世代の結婚や妊娠への不安や障壁の解消
〇子育てや教育に関する経済的負担の軽減
〇妊娠前から妊娠・出産に至る支援の充実
〇産前産後から子育て期を通じた切れ目のない支援
〇地域子育て支援
〇家庭教育支援
〇妊産婦やこどもの医療
〇女性と男性がともにキャリアアップと子育てを両立できる環境整備

2.全てのこどもに、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する
〇就学前のこどもの成長の保障、幼児教育・保育の確保と質の向上
〇全てのこどもたちの可能性を引き出す学校教育の充実
〇多様な体験活動の機会づくり
〇居場所づくり
〇こどもの安全を確保するための環境整備
〇思春期から青年期・成人期への移行期にある若者への支援
〇自らの心身の健康等についての情報提供やこころのケアの充実
〇こどもの可能性を狭める固定的性別役割分担意識の解消、固定観念の打破
〇こどもが安全に安心してインターネットを利用できる環境整備

3.成育環境に関わらず、誰ひとり取り残すことなく健やかな成長を保障する
〇児童虐待防止対策の更なる強化
〇社会的養護を必要とするこどもに対する支援の充実
〇社会的養護経験者や困難な状況に置かれた若者の自立支援
〇こどもの貧困対策
〇ヤングケアラー対策
〇ひとり親家庭への支援
〇障害児支援の充実
〇いじめ・不登校対策
〇自殺対策
〇非行少年の立ち直り支援

4.政策を進めるに当たって共通の基盤となるもの
〇こどもの人権・権利の保障
〇必要な支援を必要な人に届けるための情報発信やアウトリーチ型・伴走型の支援
〇関係機関・団体間の連携ネットワークの強化
〇こども・家庭支援のためのデータベースの構築
〇こどもや家庭の支援に関わる人材の確保・育成、ケア
〇財源と人員体制の確保

Ⅳ.政策の立案・実施・評価におけるプロセス
〇こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策の推進
〇地方自治体との連携強化
〇NPOをはじめとする民間団体等との積極的な対話・連携・協働
〇データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案と実践、評価

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