英語教育アクションプラン 個別入試に予算措置、地域差解消も

英語教育アクションプラン 個別入試に予算措置、地域差解消も
閣議後会見で質疑に応じる末松文科相
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 児童生徒の英語によるコミュニケーション能力がなかなか高まらない中、文科省は8月8日、学校英語教育の地域差解消や、大学入試の個別試験における英語4技能評価の導入拡大などを盛り込んだアクションプラン「英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて」を公表した。中高生の英語力を巡る自治体間のばらつきを解消するため、次期教育振興基本計画で、国際的な語学力基準「CEFR」に基づいた政府目標を全ての都道府県・政令市がそれぞれ達成することを目指す。また、大学入学共通テストでの英語民間試験の活用断念を受けた高大接続改革の一つとして、個別入試で英語4技能の評価を行う大学に対し、私学助成や国立大学運営費交付金によるインセンティブの付与を行い、必要な予算措置を2023年度政府予算の概算要求に盛り込む考えを示した。

 末松信介文科相は同日の閣議後会見で、アクションプランをまとめた狙いについて、「グローバル化が進展する現代において、英語力や対外発信力がこれまで以上に求められている。各種データでは課題が指摘されており、英語教育に関するさまざまな改善に関する提言が打ち出されている。折しも、次期教育振興基本計画の検討が開始され、海外との交流が再開されたことを受け、ポストコロナを見据え、わが国の未来を担う若者の英語力や対外発信力の改善について検討すべきだと判断した」と説明した。今年5月、末松文科相の下に省内のタスクフォースを設置し、取り組むべき事項を検討した、という。

 政府は第3期教育振興基本計画(18年~22年)で、国際的な語学力基準「CEFR」のA1レベル(英検3級)相当以上の英語力を持つ中学3年生と、A2レベル(英検準2級)相当以上の高校3年生の割合を、それぞれ全国で5割以上にする政府目標を掲げている。しかし、5月18日に文科省がまとめた21年度の英語教育実施状況調査によると、目標を達成している割合は中学3年生で47.0%、高校3年生で46.1%といずれも未達だった。政府目標の50%を達成した自治体は、中学3年生で20都県・政令市、高校3年生で8都県だった一方、最低の自治体では中学3年生で31.9%、高校生で36.3%にとどまっており、自治体間の差が一段と顕著になった。CEFRでは、「読む」「書く」「聞く」「話す」の英語4技能が問われる。

 こうした現状を踏まえ、アクションプランでは、まず学校英語教育の底上げを掲げた。自治体間の差の解消に向け、従来の政府目標の確実な達成とともに、次期教育振興基本計画に、全国全ての都道府県・政令市がそれぞれ、A1レベル(英検3級)相当以上の中学3年生と、A2レベル(英検準2級)相当以上の高校3年生を5割以上にする、という目標を新たに盛り込む考えを示した。

 文科省では「特に中学校は義務教育なので、ミニマムスタンダードとしての学習指導要領の趣旨を踏まえたとき、全国どこの自治体であっても5割以上という政府目標を設定することには意味がある」(初等中等教育局教育課程課)と説明。高校生については、グローバル学科、国際関係学科を設置するなど高校の多様化が進んでいることを踏まえ、「グローバルに活躍する層」を対象にさらに高い目標を設定することも検討する。

 こうした目標を全ての都道府県・政令市が達成できるよう、毎年冬に実施している英語教育実施状況調査における分析単位や調査項目を工夫する。学校による違いや、英語教員のパフォーマンスによる違いなどをできる限り可視化することで、その結果から好事例を読み取り、児童生徒の英語力がなかなか上がらない自治体の改善プランに反映させることを狙う。

 英語4技能を踏まえた指導法については、英語で授業を行うために必要となる語彙(ごい)や表現など、基礎的な知識・技能を身に付けられる学習プログラムを国が開発し、教職員支援機構から提供する。このプログラムを修了したことを証明する試験も合わせて導入し、「英語で授業」のレベルアップを図る。

 また、昨年度の英語教育実施状況調査によると、英語によるコミュニケーション力を育成する授業中の言語活動が75%を超える学級数の割合は、小学校(50.6%)、中学校(18.2%)、高校(14.8%)と、学齢が上がるとともに小さくなっていることが分かった。背景には「大学入学者選抜で、英語によるコミュニケーション力よりも、知識を求められることが影響していることは否めないだろう」(同省初中局)と、大学入試との関連が指摘されている。

 こうした英語4技能を巡る高大接続改革については、19年11月、共通テストでの英語民間試験の活用が「公平性の確保」などを理由に頓挫。その後の対応策をまとめた「大学入試のあり方に関する検討会議」の提言で、大学入試における英語4技能の評価については各大学が「実現可能な方法」で行うこととされ、各大学の個別試験での取り扱いに委ねられている。

 こうした経緯を受け、今回のアクションプランでは、各大学が個別試験に英語4技能の評価を取り入れるよう、私学助成や国立大学運営費交付金によるインセンティブの付与を盛り込んだ。私立大学に対しては、私学助成の調査項目を見直し、英語4技能を評価した入試を行っている大学に対し加点する。国立大学に対しては、英語4技能の育成や評価への取り組みに対する支援を来年度予算の概算要求についての事務連絡で明確化する。

 実際の大学入試で英語4技能を評価する出題が行われたかどうかについても、20年度入試に続いて22年度入試でも選抜区分ごとに実態調査を行う。調査結果では、英語4技能の評価に取り組んでいる大学名を公表し、各大学の取り組みの見える化を図る。

 20年度大学入試の実態調査によると、各大学が一般入試の個別試験で実施した「英語」の出題を技能別にまとめたところ、「読む(筆記試験)」92.6%、「書く(記述式の筆記試験)」45.6%、「聞く(リスニングテスト)」2.4%、「話す(スピーキングテスト) 」0.2%で、「話す」を含めた英語4技能をバランスよく出題している大学はごくわずか、という実態が浮き彫りになった。一方、民間の英語資格検定試験について「活用あり」「今後活用予定」と答えた大学は、国公私立合わせて一般入試で21.1%、AO入試が36.8%、推薦入試が24.4%だった。今後、各大学の個別試験で英語4技能を評価する場合、民間英語試験の活用が現実的な選択肢として広がる公算が大きいとみられる。

アクションプラン「英語教育・日本人の対外発信力の改善に向けて」の主な内容

基本的な認識
  • 英語は世界で最も話者が多く、インターネット上でも最も使用される言語。グローバル化に対応する中で、英語によるコミュニケーション能力はこれまで以上に必要となっており、「読む」「書く」「聞く」「話す」のバランスのとれた育成が重要。
  • 初等中等教育段階の全体を通して、わが国の魅力や立場を効果的に対外発信できる人材を意識的に増やしていくことが不可欠。その際、全体レベルの向上とあわせ、特にグローバルに活躍することを目指す層を効果的に育成していく視点も必要。
  • こうした取り組みを進める上では、従来、文部科学省の施策の中心であった授業の改善のみならず、これまでは強く意識されてこなかった、教育課程外・学校外の活動の充実も必要。とりわけ、若者が海外に飛び出して文化や価値観の多様性に触れ、世界中の多様な人々と協働する力や広い視野で課題に挑戦する力を身に付けることが重要。
1.学校英語教育の底上げ

 英語力に関する新たな目標を設定するとともに、自治体の取り組み状況を一層可視化し、改善を加速させる。また、デジタル教科書やパフォーマンステストなど、指導・学習の改善に資するツールの活用を促すとともに、教育課程外の学習活動の充実に資する施策も講じる。

①英語教育改善に向けた取り組み状況の一層の可視化・好事例の横展開

 次回の「英語教育実施状況調査」(本年冬予定)以降、分析単位・調査項目を改善し、成果に繋がる取組や課題を徹底的に可視化。その結果を分かりやすく公表するとともに、各都道府県・政令市の「英語教育改善プラン」に反映する。

②デジタル教科書・教材等による学びのDX

 義務教育段階:本年度、デジタル教科書・教材等を活用した効果的な取り組みモデルの開発や好事例の収集・分析を行う実証事業を実施。
 高校段階:デジタル教科書・教材等の活用に積極的に取り組む自治体を支援(家庭学習を含め、ICT機器の有効な活用方法を調査研究)。

③英語4技能の総合的な育成に向けたパフォーマンステストの実施促進

 「英語を使って何ができるか」を評価するパフォーマンステストを「話すこと」「書くこと」の両方について行っている高校は全体で4割に満たない。このため、パフォーマンステストの問題、採点基準、具体の評価事例を豊富に盛り込んだ参考資料を作成。全国の指導主事が集まる会議等を通じて活用を推進する。

④学校外における自主的・自発的な学習意欲の向上

  • 外国語指導助手(ALT)や英語が堪能な地域人材の活用を一層促進(ALTを指導者とする課外活動を好事例の横展開など)。
  • 各種団体が実施する英語でのディベート、スピーチコンテスト等を積極的に支援
  • 1人1台端末を活用した海外との交流の促進(好事例の横展開)。

⑤中高生の英語力に関する新たな目標値の設定

  • 次期教育振興基本計画において、現行の目標の確実な達成を目指すことに加え、全都道府県・政令市で一定割合(例:5割)の達成を目指すことを検討。
  • 高校について、特にグローバルに活躍する層を対象として新たな目標を設定することも検討。
     ※現在開催中の中教審教育振興基本計画部会での議論を経て結論を得る
2.教員採用・研修の改善

 英語教育の指導力・指導体制の強化を図る観点から、教師の採用段階における各地域の取り組みの可視化による地域差の解消、「英語で授業」のレベルアップに向けた学習プログラムの開発、特別免許状の活用に向けた取り組みなどを行う。

①教員採用段階の取り組み差の可視化

  • 英語教師の採用選考試験に当たり、特別免許状を活用しているかどうか、英語力に関する資格・検定・スコア保持者に対する特別措置(加点、一部試験免除、特別選考など)を実施しているかどうか、などについて定期的に調査を行い、取り組み状況を分かりやすく公表。
  • 特別免許状の授与基準の策定・公表の有無、手続の内容(申請受付時期等)、学校種別・教科別の授与件数を自治体別に分かりやすく公表。

②「英語で授業」のレベルアップ

 英語の指導法について、基礎的な知識・技能を身に付けられる学習プログラム(英語で授業を行うために必要となる語彙・表現等を網羅的に習得させるなど)を国が開発。教職員支援機構において提供。プログラムを修了したことが証明されるための試験などもあわせて作成・実施。

③特別免許状等を活用した英語教師登用の拡充

  • ALT経験者、民間英会話教室経験者などの登用促進。
  • 中期的には、国で開発する学習プログラムを修了した者を登録するデータベース(人材バンク)を構築し、当該者に対する教育委員会による特別免許状の授与審査や採用試験の簡略化を促進。
3.大学入試・社会との接続

 初等中等教育段階で英語4技能を総合的に育成する教育を受けてきた生徒が大学に入学してきていること、また大学卒業・就職後の産業界などでも英語力の必要性が高まっていることを踏まえ、高等学校教育と大学教育をつなぐ大学入試における英語力評価の充実を図る。

①4技能の総合的な英語力評価も含めた入試の好事例の公表

 4技能の総合的な英語力評価を導入している好事例について、その導入に至る背景・課題、制度設計のポイント、実施体制などを入試の好事例集としてまとめて公表し、各大学の取組を促進する。

②私学助成・国立大学法人運営費交付金によるインセンティブの付与

  • 私立大学等改革総合支援事業(私立大学等経常費補助金)における調査項目を見直し、4技能の総合的な英語力を評価した入試を行っている大学に対し加点する。
  • 国立大学法人運営費交付金において、4技能の総合的な英語力の育成・評価に関する優れた取組等を進める組織整備に対して支援することを、2023年度概算要求に係る事務連絡上で明確化する。

③4技能別出題状況・英語資格試験導入状況の実態調査・可視化

  • 入試の英語科目における4技能別の出題状況及び英語資格・検定試験の活用状況について、20年度入試に続き22年度入試に対しても選抜区分ごとの実態調査を行い、全体としての傾向を把握し、今後の政策立案に活用する。
  • 入試における総合的な英語力評価や英語資格・検定試験を導入している大学については、英語力を高めたいと努力している受験生への情報提供の充実を図るため、大学名を公表し、各大学の取り組みの見える化を進める。

④アドミッション・ポリシー見直し促進のための教学マネジメントのあり方の検討

⑤大学教育における英語教育の充実

⑥大学生に期待する英語力等に関する積極的な情報発信の要請

4.国際交流体験活動・文化発信の推進

①留学生との国際交流キャンプの実施

②国立青少年施設における国際交流事業の実施

5.海外留学の促進

①海外留学の拡大と段階に応じた留学支援の強化

  • 日本人学生の海外留学(海外留学支援制度など)の強化。
  • 高校生への留学支援の強化。
  • 高校段階における国際交流体験の充実。
  • 留学を希望する生徒・学生の段階(高校生、学生(学部、修士、博士))に応じたシームレスな留学支援・促進策の最適パッケージ化の推進。

②「トビタテ!留学JAPAN」の発展的推進

 企業・地方自治体等の参画を促進することで、官民協働により「トビタテ!留学JAPAN」を発展させた事業を推進。

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