夏休みの終わりから2学期の始まりにかけて例年、「学校に行くのがしんどい」と感じる子どもが増えることを受け、子どもの居場所づくりを支援するNPO法人などが協力して、「#学校ムリでもここあるよ2022キャンペーン」を8月17日~9月9日に展開する。同キャンペーンを前に8月16日に開かれたオープニングイベントでは、子どもの自殺予防教育に取り組む髙橋聡美中央大学人文科学研究所客員研究員と、精神科医の松本俊彦国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長が講演。コロナ禍で増加する子どもの自死を巡り、子どもたちが抱えている心の中のしんどさに対して大人が理解すべきことや、自殺予防教育、薬物乱用防止などの学校で行われる指導の盲点を議論した。
キャンペーンは今年で4年目。期間中はフリースクールや子ども食堂、プレーパークなど、家庭でも学校でもない第三の居場所や子どもの相談窓口の情報を特設サイトで発信するほか、キャンペーンに賛同する団体・個人向けにバナー提供などを行う。
キャンペーン開始の前日にオンラインで行われたオープニングイベントでは、「子どもの自死を防ごう『人には居場所が必要』」をテーマに、コロナ禍の2020年に、1980年以来過去最多となり、21年も高止まりの傾向が見られる子どもの自殺者の増加を踏まえ、講演とディスカッションが行われた。
講演に登壇した髙橋客員研究員は、子どもの自殺の増加は、コロナ禍よりも前から子どものメンタルヘルスは危機状態にあり、コロナ禍で耐えられなくなった結果であるとの見方を示し、子どもの自殺の原因は多様であり、どんな家庭でも起こり得ると指摘。学校で行われている自殺予防教育の問題点として「子どもがSOSを出すようになっても、受け止め方が今までと変わらない状態なので、子どもにとっては『言わなければよかった』と傷つく体験につながってしまう。大人の受け止め方の教育も両輪でやっていかなければいけない。『いじめはだめ』『命を大切に』『SOSを出せるように』など、子どもに行動変容を求めてばかりで大人が変わっていない」と述べ、自殺予防教育のカリキュラムや教材づくり、誰がやるのかなどがそれぞれの自治体任せになっている実態があると指摘した。
次に講演した松本部長は、子どもの自殺の中でも高校生の女子が顕著に増えている点に着目。精神的な苦痛から逃れようと市販薬を乱用する「オーバードーズ」が、ここ最近の10代の薬物乱用のケースとして大幅に増えていることや、自傷行為をする子どもの低年齢化が起きている可能性があることをデータで示し、子どもたちのこれらの行為に対して、大人が理解を深めないといけないと強調した。
その上で、自傷行為は不快な感情を誰の助けも借りずに手早く解消する方法であり、体の痛みの鎮痛効果は慣れが生じやすく、自傷行為に代わる行為としてオーバードーズにつながると解説。自傷行為やオーバードーズは長期的には自殺の危険因子だが、短期的には自殺の保護因子にもなるとして、「自傷行為やオーバードーズは最悪のことではない。それよりも人に助けを求められない、信頼できないことが問題だ。学校現場にこういったことが届いていない」と指摘した。
また、自傷行為を相談する相手は友人である場合が最も多いことを挙げ、「学校では『命を大切に』『自分を大切に』ということを強調し、薬物乱用は『ダメ絶対』などとして、こうした行為をしている人をコミュニティーから排除してきた。でもそういうことをしている人は友達にしか言えない。学校でメンタルヘルスや自傷、薬物乱用を扱うときには、そういうことをしない多数派の子どもたちに何を伝えて、どんなサポーターになることが望ましいのか、そういう観点で啓発や予防をしていかないといけない。現状は、少数派の当事者たちを孤立させる教育になっていないか」と問題提起した。