個別最適な学びが注目される中、日本個性化教育学会がこのほどオンラインで開催した第15回全国大会では、「初めて取り組む自由進度学習」をテーマにした分科会が開かれた。コーディネーターを務めた東京学芸大学の佐野亮子講師は「個別最適な学びの実現について最近、具体的にどういう授業をしていけばいいのか、迷ったり悩んだりしている学校や先生の話をよく聞くようになった」とコメント。長年にわたって自由進度学習に取り組んできた愛知県東浦町立緒川小の教諭らが、同校での基本的な進め方を説明したほか、最近、自由進度学習に取り組み始めた学校の教諭らも登壇し、実践の手応えや負担軽減の工夫などを語った。
分科会ではまず、東浦町立緒川小の教諭らが登壇し、同校の単元内自由進度学習「週間プログラム」を紹介。学習計画を立てて粘り強く取り組む、計画を見直したり調整したりするなどの「自己学習力」を育むことを目的とし、「一人一人の子供が学習課題に向き合い、自分の持ち味を最大限に発揮する。子供たちが試行錯誤しながら多様な学習の中で、体験を通して、発見や創造をしていく場面を大切にしている」と語った。
具体的な進め方については「年度初めにカリキュラムを見て学年で話し合い、どの単元で『週間プログラム』を行うかを考える。学期に1回は行うようにしているが、無理のない範囲で、協働的な学びとのバランスを考えて行っている」と述べた。取り上げる単元は、「学習作業が比較的多く、学習内容が自己チェックしやすく、集団で学習問題を練り上げる必要があまりない、一人学びに適した単元で設定する。国語は作文や説明文、算数は図形、理科は実験、社会は調べる単元などで行うことが多い」と説明した。
実施にあたっては、自分がどのように学習を行うか計画を立てるための「学習計画表」、活動の目標や標準時間数、学習の流れを記した「学習の手引き」、学習プリントやチェックテストなどを準備。つまずきやすい箇所に応じたヒントや見本を掲示するほか、学習に使える資料集や参考図書、映像、実験道具などは子供たちが使いやすいよう、学年フロアの一角に「学習コーナー」として準備しておく。学習が進んできたら、進度が早い児童の作品を掲示し、他の児童の参考になるようにしているとした。
「週間プログラム」では個に応じた学習方法で進めることができるよう、1~3個のコースを用意。コースは子供たちの学習スタイルや認知スタイル、学習内容や学習材に対する興味・関心などを注視して作成しており、「むずかしい」「ふつう」「かんたん」といった習熟度別にはしていないとした。具体的には「教科書に沿って学ぶコース」「実験から学ぶコース」「映像から学ぶコース」などを設定し、子供自身が選べるようにしていると語った。
通常は複数教科を組み合わせて行っているが、初めて行う場合は「1教科・1コース」からスタートし、次は「1教科・複数コース」、さらにその次は「複数教科・複数コース」とステップアップしていくと説明。複数教科を組み合わせる理由は「学習時間差に応じることができ、限られた実験器具でも十分に間に合うという利点もある」。また、新しい学年になって初めての時はガイダンスを行い、「週間プログラム」がどんな学習かを説明していることも紹介した。
授業中の教師の役割については①子供の学びを見取り、伝える②学習環境の整備③教科ごとの役割分担④安全面に十分に配慮した指導――を挙げた。「学習内容を伝達することではなく、学びにつまずいた子供たちに学習方法をアドバイスすることが重要。また、学習を評価して励ましの言葉を掛け、自力解決できる児童にはそれを見通して再調整させるように促す。一人一人に最善と思える支援を整えることが大切」と説明した。
緒川小の発表の後には最近、自由進度学習に取り組み始めたという山形市立第一小、広島県神石高原町立豊松小、軽井沢風越学園の教諭らがそれぞれの実践を紹介。取り組みを通して「その日に学ぶ教科、取り組む場所を自分で選択することで、自分事として主体的に学びに向かっていった」「周りを気にすることなく、児童が納得いくまで調べたり考えたりすることができた」といった手応えを感じたという。
一方で「単学級のため、担任一人での教材教具作りは負担が大きい」「単元に入るまでの準備には,膨大な時間がかかった。一人で全ての学習材を作るのは負担が大きく、複数で取り組むべきであると感じた」と語った。参加者からは「準備の大変さから取り組みにちゅうちょしている学校があるとしたら、何かアドバイスはあるか」との質問が挙がった。
これに対し、単元内自由進度学習の経験が長い緒川小の教諭からは「学年単位、学校単位で協力する体制があると、より自由進度学習の良さをぐっと引っ張り出して、子供の良さを引き出せる。もし学校全体、学年全体でなかなか広がっていかないとすれば、何か課題があるように感じる。本校では学習材などのパッケージを次年度に向けて共有しておいたり、T・Tなどチームで協力したりしている」との助言があった。
最近、実践を始めた学校の教諭からは「すごい掲示をいっぱい作ってからスタートしようと大変。学習の手引きや学習カードができたらスタートし、子供の様子を見ながら付け足していくやり方なら、少しハードルが下がるのではないか」「最初から完璧なものを作ろうとは思わず、管理職や他の先生たちと『みんなで作ろう』と決め、やりながら作っていくことにした。途中で増えた掲示や、プリントもたくさんある」などと語った。
各学校の実践発表やコメントを踏まえ、コーディネーターの佐野講師は「それぞれの学校が、子供たちの姿を見ながらやり方を進化させている。子供と一緒に作っていくのだ、というくらいの気持ちでチャレンジしてみては」と呼び掛けた。