NPO法人「みんなのコード」は8月18日、今年度から実施がスタートした「授業時数特例校」の活用に関するセミナーをオンラインで開催し、全国の小中学校の管理職や教員らが参加した。学校や地域の実態に応じた効果的な教育を実施するため、学校裁量の幅を拡大させ、授業時数の配分の変更を認める「授業時数特例校」の制度だが、周知が十分ではなかったことなどから、今年度の申請は全国で28校にとどまっている。実際に同制度を活用している東京都東大和市立第八小学校の吉行一敏校長と埼玉県戸田市立戸田東中学校の鈴木研二校長が、その実施内容やメリットなどについて紹介した。
「授業時数特例校」制度は、教科横断的な視点に立った資質・能力の育成や探究的な学習活動を充実させるよう、カリキュラム・マネジメントに関して学校裁量の幅を拡大し、教科ごとの授業時間数の配分について一定の弾力化を認めるもの。具体的には、学年ごとに定められた各教科の授業時間数について、ある教科の授業時間数の1割を上限に減らすことを特例的に認め、その分を別の教科の授業時間数に上乗せできる。
充実させる学習内容例としては、学習の基盤となる資質や言語能力、情報活用能力などの育成、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力(伝統文化教育、主権者教育、消費者教育など)の育成などが挙げられている。制度の対象となるのは、小中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程だが、今年度から実施されたばかりの新しい制度であるため、指定を受けた学校は全国で28校にとどまっている。
東大和市立第八小学校の吉行校長は、コロナ禍で急速に進んだGIGAスクール構想について、「昨年度はとにかく1人1台端末の活用を進めてきたが、教員の負担も大幅に増え、もっと時間が欲しいと声が上がっていた」と話す。
そうした状況の中、昨年度の夏休みに「授業時数特例校新規指定案内」が届き、吉行校長は教員らに相談の上、すぐに「情報活用能力の育成」のため、同制度の申請をした。
同校では具体的には、1・2年生では国語科を15時間減らし、生活科に15時間上乗せ。3年生以上は国語科を15時間減らし、社会科に10時間、総合的な学習の時間に5時間をそれぞれ上乗せして、情報活用能力の育成に充てている。実施にあたっては、事前に保護者や地域に説明し、学校ホームページでも公表している。
吉行校長は「ただひたすら活用することにチャレンジしてきた昨年度は、教科の目標を達成するためのICT活用にはなっていなかった。また、個別最適な学びや協働的な学びの実現にも至っていなかった。今年度は、研究主題を『自律的学習者の育成』とし、授業改善を目指してICTの活用に取り組んでいる」と話す。
戸田市立戸田東中学校の鈴木校長は「本校の研究の柱であるPBLを総合的な学習の時間の中でさらに充実させていくために、もっと自由な時間を確保したいと考えていた」と、同制度に申請した経緯を説明する。
同校では、各学年で国語科、社会科、数学科、理科、保健体育科、外国語科をそれぞれ3時間ずつ減らし、計18時間を総合的な学習の時間に上乗せしている。鈴木校長は「総合的な学習の時間を充実させ、PBLを推進することで、豊かな人間性を持つ生徒、可能性に挑戦し続ける生徒、主体的に学び続ける生徒を育てていきたい」と展望を語った。
両校長と情報通信総合研究所の平井聡一郎氏との鼎談では、平井氏が「授業時数を減らした教科について、保護者や教科の教員から反発はなかったか」と質問すると、全学年で国語科を15時間減らした吉行校長は「当初は保護者から心配の声が上がった」と明かした。「国語の時間が減ることで、子どもたちの書く力が落ちるのではないかとの意見が多かった。しかし、ICTでも書く力は必要だ。今は手書きよりもパソコンで考えをまとめて打ち込み、発表することがほとんど。子どもたちが生きる未来はなおさらだ。そうしたことを丁寧に説明していった」と振り返った。
また、鈴木校長は「保護者から主要教科の時数を減らすことで受験に対する不安の声もあった。ただ、一つの教科を大幅に減らすのではなく、6教科をそれぞれ3時間ずつ減らす形で対応したので、大きな反発にはなっていない」と工夫を説明。保護者への理解を高めるために、同制度を活用したPBLの授業を見てもらうようにしているとし、「これまで午後の授業だと寝ている子もいたが、PBLの授業ではそういう生徒はいない。保護者に子どもたちが生き生きと発表する姿を見てもらい、理解してもらった」と話した。
最後に、吉行校長は「これからの社会では、さらにICTが発達していく。小学校からICTの活用を学ぶことは、子どもたちの未来の安心につながる。授業時数特例校制度はその一つの手段になる」と強調した。また、鈴木校長は「裁量の自由があってこそ、子どもたちが自走する学びもできていくと実感している。この制度を活用しながら、子どもたちも教員もワクワクして、楽しくなるような教育を創っていきたい」と話した。
来年度から同制度を利用する場合の申請は12月末日までとなっており、文科省のホームページから申請書類などがダウンロードできる。