教師の主体的な学びは保障される? 新指針の問題を検討

教師の主体的な学びは保障される? 新指針の問題を検討
緊急公開学習会の開催目的を説明する学会長の浜田博文筑波大学教授(Zoomで取材)
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 教員免許更新制に代わって新たに導入される教員研修の在り方を巡り、日本教師教育学会は8月21日、「緊急公開学習会」をオンラインで開き、文科省が示した教員の資質向上の指標策定の指針や教員の研修履歴の活用に関するガイドラインの案に関する問題点を議論した。研究者からは、新しい仕組みにおける研修履歴が管理されることへの懸念や管理職の負担の大きさなどが指摘され、本当に教師の主体的・自律的な学びの保障につながるのか、疑問が投げ掛けられた。

 改正教育公務員特例法を踏まえ、文科省は6月末に来年度から教員免許更新制に代わって導入される新たな教員研修の仕組みや考え方を整理した「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」や「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン」の案を公表し、パブリックコメントを実施。指針では、教職に必要な素養として、変化に合わせて常に学び続けようとすることを強調するとともに、校長に対しても教育者としての資質に加え、マネジメント能力やアセスメント能力、ファシリテーション能力を求めているほか、ガイドラインでは研修履歴の記録方法や活用の考え方、どのような内容を記録するのかなどを定めている。

 同学会では昨年6月に、これらの議論を行っていた中教審の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」に対し、教員免許更新制に代わる研修の仕組みとして「各教師・学校の自律的で主体的な研究活動を促進する環境条件整備を進めること」などを求める要望書を提出。その後もこのテーマについて公開シンポジウムなどを開催してきた。

 この日の学習会では、「中教審による『新たな教師の学び』は何をもたらすか?―教師の主体的な研修の保障という視点から―」というテーマで、文科省が示した指針とガイドラインの案を軸に、政策の動向や地方教育行政、学校現場への影響を検討。教員免許更新制の創設時の議論から、今回の法改正までの政策議論を振り返った岩田康之東京学芸大学教授は、今回の審議まとめの方針を「免許更新制をやめて研修履歴の管理にする方向性は、教師の資質向上を教員免許制度に委ねるのではなく、研修にウエートを移す政策だと読み取れる」と分析した。

 その上で「新たな教師の学びの姿として『主体的な姿勢の尊重』や『学びの内容の多様性の重視』『学びのスタイルの多様性』がうたわれているが、どう確保するのか。これになぜ疑問符を付けたかというと、ここしばらくの教員養成施策を見ていくと、前提としている教師像がすごく幼いように見えるからだ。一人前の実践研究をして、自分の実践をつくっていくクリエーティブな教師というのが、あまり期待されていない」と指摘し、背景として2005年ごろから教員養成分野での規制緩和が進み、特に小学校の教員養成に参入する大学が増加した結果、教職入職者の質が多様化し、教育委員会ではボトム層に合わせた教員の育成方針が強化される方向性になったとの見方を示した。

 また、長野県の教育委員を務めた経験のある伏木久始(ふせぎ・ひさし)信州大学教授は地方教育行政の観点から、「今回の研修履歴の活用に関しては、タイミング的に教育委員会の中で議論する時間が全くと言っていいほどなかった」と述べ、文科省の方針が教育委員会で十分に審議されないまま、学校現場に下りていくことや、校長に求める資質が過大な要求になってしまっていることを懸念。「今回の指針やガイドラインでも、教師が子どものモデルになるということが書かれている。それならば、もっと教師に研修の自由と自律性を高めるような制度設計が必要だ」と提言した。

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