社会の変化に対応した革新的な教員養成カリキュラムの研究開発を行う「教員養成フラッグシップ大学」の事業がスタートしたことを受け、国立の教員養成大学・学部などで構成される日本教育大学協会は8月19日、オンラインシンポジウムを開き、フラッグシップ大学に指定された4つの大学が計画構想を発表した。各大学では今後5年間をかけて、新たな教育課題に対応した科目の創設をはじめ、教育委員会、企業、他大学などと連携したカリキュラム開発・普及に取り組んでいくことになる。
フラッグシップ大学には、申請のあった大学の中から、中教審の教員養成部会の下に設置された教員養成フラッグシップ大学推進委員会による審査に基づき、昨年度末に東京学芸大学、福井大学、大阪教育大学、兵庫教育大学が指定された。フラッグシップ大学に指定されると、教育職員免許法施行規則などに定められた一部の科目に代わって、独自の科目を設置できる特例措置が適用される。フラッグシップ大学ではこの特例措置を活用しながら、教育委員会やNPO、企業、他大学、研究機関などと連携し、新しい教育課題に対応した教員養成カリキュラムを研究開発。そこで得られた知見を他の教員養成大学・学部や教職課程を置く大学に展開させることで、日本の教員養成に変革を起こすことが期待されている。
フラッグシップ大学の指定と共に、東京学芸大学では今年度から先端教育人材育成推進機構を創設。同機構には「教育・学習デザイン」や「高校教育」「データ駆動型教育」など、8つのテーマごとにユニットを設け、教育委員会や産業界などと連携して研究開発を進めていく。同学の計画を説明した佐々木幸寿理事・副学長は「狙いとしては、大学として政策をつくっていく力を付けていきたい。それから大学としてのリーダー層をこの研究開発を通じて養成していきたい。3つ目としては教職協働、つまり大学教員と事務職員が一体となって新しいものを開発していく、そういった動きをつくっていきたいと考えている」と強調。
学部教育では「チーム学校と多職種協働」「教師のレジリエンスと自己管理能力の育成」などの特例科目を置き、約50科目ある「教育創成科目」と位置付けられた科目群の中から、学生が目標としたい教員としての資質能力に応じて、自ら履修計画をデザインして選択できるようにする。
教員養成大学以外から唯一指定された福井大学の松木健一理事・副学長は発表の冒頭で、「グローバル化が進み、ダイバーシティとインクルージョンを同時に実現しなければいけない社会が顕在化してきている。こういった中で年齢や性別、国籍や障害を乗り越えて直面する課題に、みんなで協働して取り組める能力を子どもたちに育成することが重要な課題だと考えていた。教免法は教師としての最低限の資質能力を保障する機能なので、どうしても全ての分野にわたって細かなコンテンツを提供していくことをせざるを得ない。こういった中で少しでもコアカリキュラム化を進め、プロジェクト型の学習を展開したいと、20年ほど前から進めてきている」と話し、これまでの同学の取り組みの延長線上にフラッグシップ大学を位置付けていることを強調する。
同学では教員が在籍校に勤務しながら学べる教職大学院があることを生かし、他大学や教育委員会とのネットワークを強化。総合教職開発本部を設置し、日本の教師教育の世界的な展開や、教員研修プログラムの開発、ギフテッドなどのインクルーシブ教育などに力を入れる。
「ダイバーシティ大阪の諸課題に応え、学習者の学びに寄り添う教師の育成」をテーマに掲げる大阪教育大学では、大阪市教育委員会と協働で、天王寺キャンパスに「大阪アドバンスト・ラーニング・センター(OALeC)」を開設。同センターには企業との連携で最先端の設備を備えた未来型教室フロアや研修室などを設け、学部生や大学院生、現職教員などの学びの拠点をつくる。学部教育では、「ダイバーシティ教育」をテーマに、基礎(1年生)、展開(2年生)、応用・発展(3・4年生)と積み上げ型のプログラムを創設。学び続ける教師の育成に向けて、省察と協働を促す実習系科目を充実させるほか、地域や学校現場を再現し、さまざまな教育課題を仮想空間でシミュレーションできる教職実践教材「バーチャルスクール(仮称)」を開発する。
同学の岡本幾子学長は「本学はこれまで実践力を備えた教員や教育支援人材の養成、教育のグローバル化などに対応すべく、抜本的な大学改革や地元教育委員会、産業界との連携を着実に推進してきた。今後は2024年度に完成を控えるOALeCを拠点に、教員養成フラッグシップ大学として、ダイバーシティ教育、教育DXの推進、学習観・授業観の転換といった教員養成の高度化に全学を挙げて取り組み、多様な教育課題の縮図とも言える大阪から、令和の日本型学校教育をけん引していく」と力を込めた。
TEXプログラムと名付け、プロトタイプを素早くつくりながら、すぐに提供し、改善を加えながら完成度を高めていく「アジャイル開発」の手法を採用して研究開発を推進するのは兵庫教育大学。新しい科目の創設では、①コア要素開発②シラバス開発③科目開発④普及版開発――の4つのフェーズでアジャイル開発を機能させながら、より完成度の高いカリキュラムの開発に挑む。こうした新たな教職科目の開発は、教職大学院にも及ぶ。
また、同学が2011年度に策定した教員養成スタンダードを、時代に合わせたものに見直していくことも視野に入れる。
同学の吉水裕也理事・副学長は「文科省や教員養成フラッグシップ大学推進委員会と連携し、TEXプログラムの成果を広く普及させる取り組みを行うということとともに、新しく開発した特例教職科目と教職課程コアカリキュラムを有する科目との関係の整理、どの部分を強化したらいいかといった提案を報告できると思う。教員養成大学ならではの教職アドバンスト科目の設定や5年一貫性による教員養成制度の検討といった、フラッグシップの取り組みを踏まえた研究も進めて、制度改善に貢献していきたい」と展望を語った。