永岡桂子文科相は8月23日、教育新聞など報道各社の共同インタビューに応じ、「学校の先生も男女の区別なく、しっかりと対応していただければいいなと、実は思っている。女子は文系が多いと言うが、そんなことはない。指導へのアンバランスを取り除いてもらいたい」と述べ、男女共同参画社会の実現に向けて教員の意識を変えていく必要があるとの認識を示した。また、休日の部活動の地域移行を実現するため、今月末に行う2023年度政府予算の概算要求に、部活動の受け皿となる運営団体と学校との連絡調整を行うコーディネーターや実技指導を行う指導者の配置、運営団体の体制整備を支援する予算を盛り込む考えを示した。経済的な困難を抱える家庭の児童生徒が部活動に参加する費用負担についても、支援する考えを明確にした。
永岡文科相は8月10日夜の就任会見で「母親の視点、またおばあちゃんの視点をしっかりと行政に政策を落としていきたい」と抱負を述べたことから、この日のインタビューでは母親やおばあちゃんの視点から、学校現場にどのような問題意識を持っているか、との質問が出た。
これに対し、永岡文科相は「男女共学(の学校)では、男女が当然いるけれども、意識しないで男性と女性(の区別)がある。重いものは体力のある男性が持つのは当たり前かもしれない。でも誰もが同じような立場で、学校も子供たちもやってもらいたいなと思う」と応答。「学校の先生も男女の区別なく、しっかりと対応していっていただければいいなと、実は思っている。これは男女共同参画社会を実現するという、ものものしい言い方にはなるが、そういう考えもある」と続けた。
さらに、高校や大学では理系を志望する女性が男性よりも少ないことを踏まえ、「女子は文系が多いと言うが、そんなことはないと思う。私は女子高だったけれども、女性だから全員文系というわけではなく、理工系が好きな子はたくさんいた。そういうことを考えると、頑張って女子力を強化して理工系にも進んでもらいたい。先生の指導へのアンバランスを取り除いてもらいたいなと思っている」と述べ、進路指導などの際に教員の意識を変えていく必要があるとの見解を明らかにした。
また、学校教育に対する問題意識として、「私がまだ子育てに一生懸命だった頃、何が大変だったかというと、高校・大学に子供が行ったときに、学費の工面が一番厳しかったなという認識がある。返済不要の奨学金とか、学費の軽減もやっていかなければいけないと非常に思っている」と、教育費の負担軽減に言及。その上で「普通の家庭の主婦だった私には、学費の捻出は大変だったという思いがある。家庭の経済状況に左右されることなく、実力のある子供ならば、『行きたい』『ここで勉強したい』と思う学校に安心して必ず行けるように、『育ち学べる環境整備』は非常に重要だ」と語気を強めた。
これに関連して、学校教育のあるべき姿として、「学校というのは、自分が行きたいと思ってそれだけの学力が身に付いていれば、どういう学校であっても、どのような家庭の子供であっても、ちゃんと自分の学びたいところで学べるというところ。そういうところが学校であると考えている」とも述べた。
休日の部活動の地域移行については、スポーツ庁と文化庁の専門家による検討会議がそれぞれ来年度からの3年間を改革集中期間とする提言をまとめたことを踏まえ、「移行の在り方については、地域の実情に応じて、本当にいろいろな方法がありうると考えている。大変困っている学校もあれば、『うちは大丈夫だよ』という学校もある」として、好事例集をまとめて紹介していく方針を示した。
その上で、8月末にまとめる文科省の来年度概算要求に向け、「受け皿となる運営団体と学校との連絡調整などを行うコーディネーターの配置、運営団体などの体制整備への支援を行っていく。また実技指導を行う指導者の配置など地方行政のための支援も行う」と、政府予算を投入して部活動の地域移行を支援していく考えを表明。さらに「経済的に困窮している世帯のお子さんのために参加費用などの負担も支援していきたい」と述べ、困窮世帯の児童生徒がこれまで通り部活動に参加できるように経済的な支援を行う考えを鮮明にした。
学校の働き方改革については、「何か一つやれば解決できる、といったものではない。国、学校、教育委員会が連携しながら、それぞれの立場で『教員が教員でなければできないことに全力投球できる環境を整備する』ことが重要だと考えている。文科省の調査結果では、時間外勤務は2018年以降、一定程度の改善傾向にある。学校における働き方改革の成果が着実に出つつあるものの、教職員には依然として長時間勤務はまだまだ改善できてないという感覚があるので、引き続き取り組みを加速させていく必要があると認識している」と説明。
給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しについて聞かれると、小学校の35人学級の計画的な整備、小学校高学年における教科担任制の導入、教員業務支援員の拡充、部活動の改革、教員用ICT端末の整備、働き方改革を巡る好事例の横展開などの取り組みを挙げた上で、「こうした働き方改革のさまざまな取り組み、成果などを踏まえつつ、本年度実施の教員勤務実態調査において、教員の勤務実態や働き方改革の進捗状況をきめ細かく把握する予定でいる。その結果を踏まえ、給特法などの法的な枠組みを含めた処遇のあり方も検討してまいりたい」と、前任の末松信介前文科相の言い回しを踏襲するにとどめた。
教員不足に関連して、教員採用選考試験の早期化や複線化を求める議論が出ていることについては「現在、中教審で議論が行われている。大学3年次からの受験ルートの設定なども含め、これまで通りのスケジュールや選考方法で優秀な人材を得られるのか、改めて検討する必要があると考えている」と述べ、教員採用選考試験を大学3年次に前倒しすることも選択肢の一つとの見方を示した。
改訂作業が進む生徒指導提要と校則については、「学校の校則について(生徒が)考えることは、身近な課題を自ら解決するといった教育的な意義があると考えている。学校のホームページで(校則を)公開すると、教職員や生徒だけでなく、保護者、そして地域の人々に、校則についての共通の理解ができることにつながるので、良いことなのかと考えている」と説明。文科省の協力者会議で議論されている改訂案の素案に、校則の内容を学校のホームページなどで公開し、校則を見直す際のプロセスを明確にする方向性が盛り込まれたことを評価した。
9月の学校再開を控えた新型コロナウイルス感染症対策では「もうすぐ新学期が始まる時期になる。ずっと家庭にいた子供たちがまた学校に戻ってくることになると、やはり新型コロナ感染症が心配になる。学校における感染症の拡大を防止するには、手指消毒であったり、うがいであったり、マスクの着用が重要。引き続き基本的な感染症対策を徹底することが重要であると思っている」と説明。
その上で、「マスクの着用は基本的な感染症対策である一方で、熱中症も本当に心配される。熱中症は特に生命に直接関わる問題なので、非常に悩みが深い。体育の授業とか、運動部の活動、登下校でマスクを外すのは、大変よろしいのではないか。その時にはマスクなしでの近距離の会話は控えるというような工夫が必要と思う」と、熱中症予防のためにマスクを外す場面があることに理解を求めた。
また、マスクを外さない児童生徒への対応については「マスクを絶対しなければいけない、それじゃないと心が落ち着かないという子供がいると思う。アフターコロナに向けて、保護者と学校の教員は、少しずつだけれども、考えていかなければいけない、ということが重要なのかなと思っている」と述べた。