「不登校という概念がなくなる」 熊本市の遠藤教育長が講演

「不登校という概念がなくなる」 熊本市の遠藤教育長が講演
熊本市の不登校支援について説明する遠藤教育長
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 「誰一人取り残さない いじめ対応・不登校支援を考える」をテーマとしたオンラインイベントが8月23日に開催され、熊本市の遠藤洋路教育長が講演した。主催はいじめなどの匿名報告・相談プラットフォームを開発するスタンドバイ。遠藤教育長は同市が今年度から取り組んでいる、いじめ重大事態の早期発見に関する取り組みを紹介。また、昨年度からスタートした不登校児童生徒へのオンライン学習支援「フレンドリーオンライン」の現状も説明し、「学校でも自宅でも、地域でも授業に参加できるようになりつつある。不登校という概念自体がなくなるのではないか。今はその過渡期だ」と話した。

 遠藤教育長は全国的にいじめの認知件数が増加していることについて、「本市でもいじめの認知件数は増えているが、いじめの件数が増えたのではなく、いじめだと認知する数が増えてきたということ。今後さらに認知率を向上させ、早期に対応していかなければならない」と力を込めた。

 同市でいじめの認知率向上のために取り組んでいることとして、▽心のアンケート(無記名で毎年実施)▽きずなアンケート(記名もしくは無記名で毎月実施)▽いじめ認知へのボトルネックの解消(いじめの定義、管理職への報告、教委への報告)――の3つを上げた。また、相談しやすい環境づくりや、いじめを受けたときの対応についての学習、教委の学校サポート体制の強化なども進めていくとした。他にもウェブアンケートを実施したり、報告にアプリを使ったりするなど、ICTの効果的な活用も進んでいる。

 さらに、今年度から同市では全ての長期欠席児童生徒に、欠席の要因にいじめが含まれていないかどうかを本人および保護者に確認するようにしている。これは「まだ認知できていないいじめの重大事態が多い」との考えからで、長期欠席の要因にいじめが含まれる場合、全てのケースを重大事態に認定している。

 積極的に重大事態の認知を行うことで、遠藤教育長は「学校で抱え込まず、教委と情報共有することで、対応の選択肢が広がっている」と手応えを話した。また、「これまでの『重大事態が多い=悪いこと』という認識から、『認知が進んでいる』という認識に変えていく必要がある」とも強調した。

 次に不登校支援に関して、遠藤教育長は「これからは、どこで学んだかの把握を厳密化するよりも、何を学んだかを把握・支援する方法を開発する必要がある」と指摘。同市ではそのためにICTや教育データの活用に取り組んでいるという。

 昨年度からは、登校が難しい児童生徒へのオンライン学習支援「フレンドリーオンライン」を開始。現在も100人ほどが参加している。この事業を始めた背景について、「コロナ禍で臨時休校をした際に、これまで不登校だった児童生徒の3~5割が、オンラインでのやりとりやオンライン授業に参加することができていた。また、学校再開後は3~4割の児童生徒が登校できるようになった」と説明した。

 遠藤教育長は「従来の学校になじみにくい児童生徒も含め、今後は学習保障の場が拡大・融合していくだろう」と話し、「例えば、教室に行って授業を受ける以外にも、オンライン授業など、いろいろな学びにつながることができる。1人1台端末をどこにでも持ち運びできるなら、フリースクールに行きながら学校の授業を受けることも可能だ。いろいろな学び方や人との関わり方ができるようになってくる。不登校という概念自体がなくなるのではないか。まさに今はその過渡期だ」と考えを示した。

 講演後の質疑応答では、「重大事態を早期発見する体制をつくるには、難しい課題もたくさんあったと思うが、なぜできたのか」との質問に、「重大事態は手続きが大変ということがネックになっている。重大事態について、誰がやってもできるような報告や対応の仕組みづくりに取り組んだことがポイントではないか。それを昨年1年かけてやった」と答えた。

 不登校支援に関して「学校に登校することを重視しているのか?」との質問には、「一番の目的は社会的自立。そのためには、孤立しないことが重要で、ICTを活用するなどして学校から遠のかないようにしたり、いつでも学校とつながれる環境をつくったりしておくことを意識している。学校でなくても、どこかでサポートしてもらえる環境があることも大事だ」と締めくくった。

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