新しい教育課題や社会の変化に対応し、積極的な生徒指導を推進していくため、「生徒指導提要」の改訂作業を進めてきた文科省の協力者会議は8月26日、最終回となる第9回会合をオンラインで開き、改訂版の最終案を取りまとめるとともに、今後の活用方法などについて意見交換した。改訂版では全ての子供の発達を支える「発達支持的生徒指導」の観点を充実。教職員に対して、子どもの権利の理解に基づいた対応を求めた。今回から新たにデジタル版も制作される予定で、委員からは教職員だけでなく、子供に関わるさまざまな関係者に共有することや、細かなバージョンアップを高頻度で行っていくことが提案された。
生徒指導や教育相談のガイドラインである「生徒指導提要」が改訂されるのは約12年ぶりで、協力者会議では昨年の7月から約1年をかけて改訂に向けた議論を重ねてきた。
改訂版は第Ⅰ部「生徒指導の基本的な進め方」(1~3章)と第Ⅱ部「個別の課題に関する児童生徒への対応」(4~13章)の2部構成とされ、第Ⅰ部では生徒指導を「社会の中で自分らしく生きることができる存在へと児童生徒が、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動」と定義するとともに、その目的を「児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支える」と明記した。
その上で、児童生徒の観点から生徒指導を①全ての児童生徒の発達を支える発達支持的生徒指導②全ての児童生徒を対象とした課題の未然防止教育と、課題の前兆行動が見られる一部の児童生徒を対象とした課題の早期発見と対応を含む課題予防的生徒指導③深刻な課題を抱えている特定の児童生徒への指導・援助を行う困難課題対応的生徒指導――の3つに分類し、4層で構成される重層的支援構造を持っていると解説(=図)。
先の通常国会で成立したこども基本法や国連の児童の権利条約(子どもの権利条約)に基づき、子供の基本的人権に十分に配慮し、一人一人を大切にした生徒指導を、教員だけでなく保護者や地域、関係者、専門スタッフを交えた「チーム学校」の体制で、あらゆる教育活動を通じて取り組んでいく考えを示した。
第Ⅱ部でも、新しい教育課題や社会の変化に応じて内容を大幅に刷新。例えば、性的マイノリティーをはじめとする性に関する課題、発達障害、精神障害、健康問題、家庭的背景といった、多様な背景を持っている児童生徒への対応など、新たなテーマを追加した。
4~13の各章では、④いじめ⑤暴力行為⑥少年非行(喫煙、飲酒、薬物乱用を含む)⑦児童虐待⑧自殺⑨中途退学⑩不登校⑪インターネット・携帯電話に関わる問題⑫性に関する課題⑬多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導――について、関連法規・基本方針、学校の組織体制と計画、未然防止・早期発見・早期対応、関係機関などとの連携体制を解説している。
また、学校現場でICTの利活用が進んでいることを見越して、新たな「生徒指導提要」ではデジタル版も作成し、外部の関連資料や目次・索引と本文をリンクさせ、必要な情報をすぐに参照できるようにすることで、より活用しやすくする。この日の会合では、出席した委員から、動画を作成して研修で活用することや、学校外の関係者との共有、デジタルの利点を生かして、小改訂を頻繁に行っていくことなどが提案された。