教員の働き方を改善するため、月額給与の4%に当たる教職調整額を支給する代わりに、残業代を支給しないとしている給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の抜本的な見直しを求めている「給特法のこれからを考える有志の会」は8月28日、オンラインイベントを開き、文科省や主要政党に提出する予定の要望書案を議論した。イベントでは、公立小学校の教員が時間外に行った業務について残業代の支払いや損害賠償を請求してきた「埼玉超勤訴訟」の控訴審判決について振り返り、給特法をどのように変えていくべきか、有志の会のメンバーが意見交換した。
有志の会では、4月28日からインターネット上でオンライン署名を開始。約4カ月後の8月26日時点で6万2000筆を超える賛同が寄せられているという。有志の会では秋以降に文科省や主要政党に署名を提出する予定で、それに向けて現在、給特法をどのように変えるべきかを提言した要望書案を作成しており、9月4日までパブリックコメントを募集している。
この日のオンラインイベントでは、まず、8月25日に東京高裁で二審判決が出た「埼玉超勤訴訟」について、原告の代理人を務めた若生直樹弁護士が登壇し、有志の会のメンバーの一人で、労働問題を専門としている嶋﨑量(ちから)弁護士と判決文の内容を議論した。
東京高裁では、原告の教員に対して労働基準法32条の制限を超えた時間外労働があったことを認めつつも、違法という判断を示さず、残業代の支払い請求については、教員の業務はその特殊性から、教員の業務は教員の自主的・自律的な業務と校長の指揮命令に基づく業務が日常的に混然一体となっており、厳格な労働時間管理はなじまず、給特法はこれらの職務活動や労務提供の包括的な対価として教職調整額を支給しているとし、原告の請求を棄却した。
また、損害賠償請求については、労基法32条を超えた労働が存在したとしても、直ちに校長の指揮命令に基づく業務に従事したとは判断できないとし、原告の教員が請求した時間外労働の時間を精査。このうち32時間47分を労基法32条に該当する労働時間であると認定したが、日常的に長時間の時間外勤務が常態化していたわけではなく、校長に職務上の注意義務違反があったとは言えないとして認めなかった。
判決を受けて若生弁護士は「教員が従事している時間外労働は労基法上の労働時間に当たり、時間外労働を強いられている現状は違法である。このことを明らかにしてもらうことが教員の働き方改革を正しい方向に進めるための大前提になる。そこを認めてもらわないと改革するといってもおかしい方向に進んでしまい、教員の勤務条件が守られないといったことになる。そこを司法で認定させることを目指していきたい」と力を込めた。
これに対し嶋﨑弁護士は、「労働安全衛生法上、労働時間の把握義務が法令上あるが、高裁の裁判官は『それは義務がない』『混然一体で把握できない』と言っている。この点は既存の法令に関する重大な法令違反なのだから、上告理由に十分なるのではないか」と指摘。「月に80時間も残業したら医師の面談を言われて、面倒くさいから過少申告するという話も教員から聞くが、あれは把握義務があるからで、把握できていなかったら法律の体系上成り立たない。高度な専門職であるから把握できないといっても、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制でも把握義務がある。全く法体系上、悪い意味での特殊性を持ち出してしまっている」と判決内容を批判した。
後半では、有志の会で検討している要望書に盛り込む提言案を紹介。提言案では、▽公立学校の教員の時間外の業務についても労基法を適用し、残業代を支給するようにし、時間外の労働時間管理について管理職側に罰則を設けて厳格にすることで、休憩時間の確保や持ち帰り仕事の把握なども含めて、実効的な教員の長時間労働の是正につなげる▽授業準備などの教員の裁量で使える時間を勤務時間内に確保するため、教員一人当たりの授業の持ちコマ数の上限を定めたり、他の業務を削減するかそれを代替する専門スタッフを増やしたりする▽残業代を捻出するために基本給を下げるなどの待遇悪化は教職離れを加速させることから、基本給は維持する――などを求める方針で、教職調整額の割合を変更することや、裁量労働制のような仕組みの導入は求めないとした。
さらに提言の中では、放課後や学校外のことについても学校がカバーしようとした結果、教員の業務が肥大化しているとし、保護者や地域社会全体で「学校依存社会」からの脱却に向けて理解を求めるべきだと指摘している。
有志の会のメンバーの一人である内田良名古屋大学教授は「教員の働き方の問題は、学校だけ変わってもどうにもならないし、保護者だけ変わってもどうにもならない。保護者が変わるには企業社会が変わらないといけない。もしも子どもの面倒を保護者が見ろというのなら企業社会の働き方改革を考えなければならないし、専業主婦の時代から共働きが当たり前になっている時代に、いかに第三空間で子どもをどう受け入れるか。これは学校問題ではなく社会問題。構造的な問題として捉えなければいけない」と、教育関係者だけでなく、広く社会で議論されるべき問題であると強調した。
要望書に関するパブリックコメントは、有志の会のアンケートフォームで受け付けている。