内閣官房こども家庭庁設立準備室は8月30日、来年4月に発足するこども家庭庁の初めての予算となる2023年度当初予算の概算要求を公表した。これまで厚生労働省と内閣府が所管していた子供関連施策の予算が骨格となり、総額4兆7510億円で前年度当初予算とほぼ同水準。ただし要求内容には金額が提示されていない事項要求が多数含まれている。概算要求では、これまでの両府省の施策に加え、地域におけるいじめ防止対策の体制構築の推進や子供の居場所作りモデル支援事業、未就園児を定期的に預かるモデル事業、子供関連業務従事者の性犯罪歴確認の仕組みである日本版DBSの導入検討などが新規事業として盛り込まれた。
小倉将信こども政策担当相は同日、閣議後の会見で概算要求について「これまで行政の縦割りの中で一人一人の子供の困難にしっかり支援の手が差し伸べられてこなかったという点があるとすれば、こども家庭庁が省庁横断的に支援していく役割があると思っている。そのような役割を果たせるだけの予算をしっかり計上していきたい」と述べた。
公表された概算要求概要によると、一般会計が1兆4961億円(前年度予算1兆4133億円)、児童手当などの年金特別会計が3兆2549億円(同3兆2738億円)の合計4兆7510億円(同4兆6871億円)。
岸田文雄首相は、子供関連政策を防衛や脱炭素などの分野とともに国の重要政策として位置付け、予算編成にあたって金額を記載しない事項要求を認める方針をとったため、こども家庭庁は予算の全体像を提示しない要求となった。事項要求については、年末に向け予算編成の過程で細部をつめていくことになる。
こども家庭庁は厚労省の子ども家庭局と内閣府の子ども・子育て本部などが所管してきた国の子供施策を一元化して発足する。その予算編成にあたって野田聖子前担当相は「子供政策は国の未来への投資であり、子供への投資の最重要の柱。その実現のためには将来世代につけを回さないように、安定財源を確実に確保する」「単年度だけではなく、複数年度で戦略的に考えていく」「子供の視点に立ち施策を立案し、国民に分かりやすい目標を設定して進める」「こども家庭庁の初年度にふさわしく、制度や組織による縦割りのはざまに陥っていた問題に横断的に取り組む」「支援を求めている子供の声を聴き、支援を求めている者にしっかりと届ける」とする基本姿勢を示していた。
それに基づいた今回の概算要求は、▽子供の視点に立った司令塔機能の発揮、こども基本法の着実な施行▽結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会の実現、少子化の克服▽全ての子供に、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する▽成育環境にかかわらず誰一人取り残すことなく健やかな成長を保障する――を予算編成の柱とした。
まず、「子供の視点に立った司令塔機能の発揮、こども基本法の着実な施行」では、こども家庭庁設置法と同時に成立した、子供の意見表明権などさまざまな権利を保障するこども基本法に基づき、▽こども大綱の策定・推進▽児童の権利に関する条約の普及啓発▽子供の意見聴取と政策への反映▽子供政策に関するデータ・統計とEBPM(証拠に基づく政策立案)の充実などを推進――するための予算を求めた(事項要求)。
「結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会の実現、少子化の克服」では、地域の実情や課題に応じた少子化対策に60億円、子育て世帯を優しく包み込む社会的機運の醸成のための情報発信に3億円、妊娠期から子育て期の包括的な切れ目のない支援に171億円計上した。また、高等教育の修学支援新制度の実施に向けては5196億円プラス事項要求とした。
「全ての子供に、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する」については、未就園児を定期的に預かるためのモデル事業の実施のほか、就学前の全ての子供の育ちを支える指針の策定・普及等(事項要求)や、NPO等と連携した子供の居場所づくり支援モデル事業の実施(事項要求)を盛り込んだ。子供の安全・安心には23億円を充て、子供関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み (日本版 DBS)の導入に向けた検討(事項要求)や、予防のための子供の死亡検証 (Child Death Review) のモデル事業の実施などを行う。
「成育環境にかかわらず誰一人取り残すことなく健やかな成長を保障する」では、児童虐待防止対策・社会的養育の迅速かつ強力な推進に1741億円を計上し、児童相談所の職員の採用活動への支援の強化、若手職員を指導するOB・OG職員の配置促進等による児童相談所の体制強化の推進、児童養護施設退所者等への支援の年齢要件の緩和等による社会的養育の充実、未就園児等のいる家庭を支援につなぐ伴走型の支援の実施などを盛り込んだ。
ひとり親家庭等の自立支援の推進には1806億円を充て、必要な支援につなぐ伴走型の支援の強化、職業訓練に係る給付金の対象資格拡充等の措置の継続等を行う。いじめ防止対策を社会全体で推進するため、文科省と連携しながらの学校外からのアプローチによる取り組み体制の構築を事項要求とした。