学校の統廃合や小規模校の魅力的な学校づくりについての事例を発表する文科省主催の「学校魅力化フォーラム」がこのほど、オンラインで開催された。7校あった中学校を1校に統合した大分県玖珠町や、学園制加配を活用して3つの小学校が合同授業をしている山口県美祢市などが、それぞれの取り組みで見えてきたメリットや課題について報告した。
同フォーラムは、学校統合による魅力ある学校づくりの取り組みや、小規模校のメリットを最大化し、デメリットを最小化する好事例の発表を通して、少子化や人口減少社会に対応した活力のある学校づくりの積極的な検討を支援するため同省が開催している。今回は、岡山県高梁市教委、長野県栄村教委、鹿児島市教委、秋田県北秋田市教委など、6つの市町村教委が事例を紹介した。
大分県玖珠町教委の梶原敏明教育長は「“極”小規模地域の小学校再編と中学校統合の必要性とその違い」について事例を発表。同町は人口約1万5000人、児童生徒数は約1000人と小規模な自治体で、2011年度時点では小学校10校、中学校が7校あったが、今年度までに小学校6校、中学校1校に統廃合されている。
特に7つあった中学校を1つに統合することを選択した理由について、梶原教育長は「生徒数の減少により、生徒の人間関係の固定化や教育活動の制約が深刻化していた。また、教職員の各教科の適正配置が難しく、免許外教科担任になるなど、教育の質の保障が困難になっていた」と述べた。
統合により起こる遠距離通学については、安心・安全な通学環境やスクールバスの運行など、事前にしっかりと説明し、対応したという。また、統合前から7校の交流事業として合同学習や、合同修学旅行を実施するなどして、児童生徒の環境変化への対応にも力を入れた。
梶原教育長は「統合後もスムーズにいっている。統合により、生徒の学力向上や人間関係が多様になるなど、メリットもたくさん感じている。また、教職員やスクールカウンセラーの配置、ICT設備などの学習環境も充実した」と強調した。
また、同町では今後、休校や廃校を地域コミュニティーに開放していくとし、例えば学校の家庭科室や図書館を開放し、コミュニティー全体が勉強する場として活用したり、体育館や運動場などを地域住民に開放し、住民の交流の場として活用したりすることなどを検討している。梶原教育長は「地域にとって小学校は大規模な施設であり、その地域のシンボルでもある。小学校を地域コミュニティーが安心できる場所にしていきたい」と力を込めた。
山口県美祢市教委は「学園制加配の活用による3小学校合同授業と公設塾mineto」について発表。同市は小学校11校、中学校6校があるが、ほぼ全校が小規模校・過小規模校となっている。そこで、2以上の小学校および1以上の中学校を含む学校群(学園)で学園運営を行う学園制加配を活用して、同市の美東中学校区の3小学校の合同授業を行っている。
取り組みは昨年度からスタート。今年度は週1回、5・6年生が美東中に集まり、美東中教員による外国語授業と、小学校教員による合同授業が行われている。合同授業を行っているうちの一校である同市立大田小学校の池田洋一校長は合同授業の成果について、「中学校の英語科教員による専門性の高い外国語授業が受けられることは大きい。また、3校の児童間の人間関係づくりや、中学校教員の児童理解なども進んでいる」と話す。
ただ、3小学校の合同授業の事前計画や実践の負担が大きいことと、美東中までの移動時間が最大30分かかる小学校もあるなど、課題も見えている。池田校長は「今後は小中教員間の交流機会を拡大し、相互理解を深めていくなど、この取り組みを持続可能にしていくために協議し、工夫していきたい」と述べた。
また、同市では公設塾「mineto」を昨年度から開設。同市教委の八木下理香子さんは「小規模校が多いため、クラス替えの経験がない子が多く、人間関係が固定化している。また、本市の一番の課題は、少人数で目が行き届き過ぎるため、失敗しないように手をかけてしまう傾向があることだと感じている。素直で大人の言うことをよく聞くいい子が多いが、学習意欲は低く、家庭学習時間も少ない」と話す。
そのため、受験指導や学力向上を主目的とした塾ではなく、学びに向かうモチベーションを育てるために、公設塾を開設。個別学習をする時間もあるが、興味関心のあることを深める時間や、PBLに重きを置いている。
塾の講師には、地域おこし協力隊制度を活用し、市外から元U-16サッカー日本代表の人や、フィンランドへの留学経験がある人などを任用。子どもたちに新しい刺激を与えてくれる存在になっているという。
開設して約10カ月で、塾生も増えてきており、八木下さんは「子どもたちにはさまざまなことに興味を持ち、多様な人と協働しながら失敗を恐れずチャレンジしていってほしい。また、minetoが家でも学校でもない、第三の居場所になってくれたら」と展望を語る。