文科省は9月1日、新旧次官の交代に伴うあいさつ式を同省内で行い、柳孝新次官は「国民に信頼される、国民のための、そして時代の変化に対応できる文部科学行政を目指していきたい」と抱負を述べた。全日本私立幼稚園連合会の前会長らから不適切な飲食の接待を受けていたとして幹部6人が処分されたことを念頭に、「組織風土は一人一人の意識が作り上げるもの。みんなで思いを共有し、省改革をさらに推進していきたい」と信頼回復に取り組む考えを表明。国民のための文科行政については「現場が良い方向に変わっていることを見届けるのが、われわれの仕事。予算を獲得する、制度を作るだけではなく、実際に現場がどういう状況になっているのか、常に、フォローしていくことが重要と思っている」と説明した。
あいさつ式で、ほぼ1年の任期を終えた義本博司前次官は「職員の力を借りて前進したところもあれば、志半ばとなっているところもある」と回顧。「いろいろな困難な課題があった」として、▽コロナ感染拡大の中で、学校の機能をどう維持していくか▽大学入試共通テストの実施に向けていろいろな混乱があり、それをどう収拾していくか▽幼児教育を巡るこども家庭庁と文科省の関係をどう整理していくか▽私学のガバナンス改革の混乱を巡り、それをどう収拾して道筋をつけていくか▽佐渡金山の世界文化遺産登録の再申請を巡る難しい判断--などへの取り組みを挙げた。
その上で、「課題として、申し上げることがある。不祥事対策だ」と述べ、全日本私立幼稚園連合会の前会長らの飲食接待による幹部6人の処分について切り出した。「服務規律の違反で、大変残念だけれども、職員を処分しなければならなかった。職員が落ち着いて仕事ができる状況がここ数年間定着してきていただけに、自分の在任中にこうした事態になってしまったことには、大変申し訳なく、責任を感じている」と、集まった文科省の幹部たちに謝罪。
さらに「ここで言っておきたいのは、若手、中堅を含めて、職員は大変がんばっているということだ。今後は、国民の信頼を回復するために、新しい次官の下で積み上げていくしかない。幹部職員には、若手職員が伸び伸びと仕事ができる環境を作ってほしい。特に業務のスクラップ&ビルドとか、スラックなどのICTを活用して職員の業務負担を軽減していくことに取り組んでほしい。細かいようだが、これらに取り組むこと自体が職員の士気を高め、政策に向き合っていくことにつながる」と、言葉を強めた。
続いて壇上に立った柳新次官も、最初に全日本私立幼稚園連合会からの飲食接待を巡る幹部6人の処分に言及。「省改革に取り組んでいる最中に、このような事態が起こったことは大変重い。職務に精励している職員におわび申し上げたい」と述べた。
続いて、幹部職員に向けて「職務に臨む意識を共有しておきたい」と注意を喚起し、「国民に信頼される、国民のための、そして時代の変化に対応できる文部科学行政を目指していきたい」と、3つの観点で次官就任の抱負を明らかにした。
1番目には「国民に信頼される文部科学行政」を挙げた。「公正性・透明性の確保、そしてコンプライアンスの順守は、職務の基本だ。組織風土は一人一人の意識が作り上げるものなので、みんなで思いを共有し、省改革をさらに推進していきたい。厳しい環境の中であっても、風通しが良い、明るい職場をつくる、これが非常に重要だ。われわれの雇用主は国民ということを常に忘れてはならない」。
2つ目は国民のための文部科学行政。「学校、研究者、文化芸術を担う人たち、多くのアスリート、一般国民の全てが良い方向に展開していくように文科行政を行うのが、われわれの役割だ。霞ケ関だけのアリバイ作りの仕事や、やるぞと花火を上げるだけの仕事では、現場は変わらない。現場が良い方向に変わっていることを見届けるのが、われわれの仕事だと思っている。社会が変わっていくために予算を獲得し、制度を作るだけではなく、実際に現場がどういう状況になっているのか、常にフォローしていくことが重要だ」。
3つ目には、時代の変化に対応できる文部科学行政とした。「所掌にとらわれず、全体を見渡した政策実現を図っていきたい。常に変化する社会を前提に、柔軟な対応をしていく。そのためには、幅広い視野で連携の輪を広げ、チームとして組織力を発揮していく必要がある」と強調した。