教員の93.5%「配置増が優先課題」と回答 連合総研調査

教員の93.5%「配置増が優先課題」と回答 連合総研調査
学校の働き方改革を議論したパネルディスカッション
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 学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題について、教員の意識を調べたところ、学校現場に対しては「(登下校指導、学校徴収金の外部委託など)教員の業務の役割分担の見直し」、国や都道府県などの行政に対しては「学校への教職員配置増」がそれぞれ首位になっていることが9月7日、連合総研が教員を対象に行った調査の中間報告で分かった。特に、教職員の配置増については、回答した教員の93.5%が優先課題に挙げた。また、教員の長時間勤務が7年前に比べて小幅な改善にとどまっているとの結果も出ており、同日行われたシンポジウムの席上、調査に当たった油布佐和子早稲田大学教授は「教員にしかできない本質部分での業務負担が増えていて、労働時間を減らしたくても、思うように減らせない実態があるのではないか」と指摘した。

 この調査は「2022年 教職員の働き方と労働時間の実態に関する調査」で、日本教職員組合(日教組)の依頼を受けて連合総研が実施した。今年6月、日教組を通じて調査票を配布し、回答する教員が調査票のQRコードを読み取ってインターネット上で答える方式で行われた。調査対象は、小中高と特別支援学校にフルタイムで勤務し、授業を持っている教員1万10人で、このうち9214人から回答があった。回答した教員を学校種別でみると、小学校64.3%、中学校26.9%、高校5.3%、特別支援学校3.1%。日教組を通じて調査票を配布したため、東京都と大阪府の教員は調査対象に含まれていない、という。調査の実施は15年に前回調査を行って以来、7年ぶり。

グラフ1:学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題(学校現場)
グラフ1:学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題(学校現場)

 調査では、学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題について、学校現場と、国、都道府県、市町村に分けてそれぞれ聞いた。学校現場では、教員の業務の役割分担の見直し(登下校指導、学校徴収金の外部委託など)が77.3%で首位となり、▽支援スタッフ(教員業務支援員・部活動指導員など)の活用 49.6%▽校内会議の精選・会議時間の短縮 39.8%--と続いた=グラフ1参照。部活動ガイドラインの順守は17.6%で6位となったが、学校種別の集計がまだ行われてない点に留意が必要となっている。

グラフ2:学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題(国、都道府県、市町村)
グラフ2:学校の働き方改革を進めるために優先して取り組むべき課題(国、都道府県、市町村)

 国、都道府県、市町村の行政機関が優先して取り組むべき課題としては、学校への教職員配置増が93.5%を占めて首位、▽持ち授業時数の削減を含めた定数改善 66.4%▽少人数学級編制の推進 64.5%--と続き、教員の増員につながる施策が上位3つを占めた=グラフ2参照。次に、▽支援スタッフの配置数の改善 49.1%▽標準授業時数の見直し 33.6%--と教員の負担を減らす施策があがった。給特法の見直しと時間外手当の支給は30.6%で6番目となっている。

 この結果をシンポジウムで説明した油布教授は「全ての学校種で、学校への教職員の配置増が1位、持ち授業時数の削減を含めた定数改善が2位を占めていることから、教員の仕事の本質部分で業務負担が増していることが想定できる。学校の働き方改革では『教員は教員にしかできない仕事に集中できるようにする』としているが、教員の仕事の本質部分に関わる負担に課題があるのならば、どのようにしても一定以上、労働時間は減らせない。教員の本分である授業の時数を減らしてほしいと考える人が多い背景には、努力をしても思うように労働時間を減らせない可能性があることを考慮すべきではないか」と指摘した。

 調査ではまた、教員になりたい人から相談を受けた場合、教員の仕事を勧めるかどうかを聞いたところ、「勧めない」が57.6%と過半数を占めた一方、「勧める」も41.8%で4割を超えた。「勧める」と答えた人に理由を4つ以内の選択で聞いたところ、最大の理由は「働きがいがある」(85.4%)で、「雇用が安定している」(44.3%)が続いた。一方、「勧めない」と答えた人が挙げた理由は「業務量が多い」(78.3%)、「勤務時間が長い」(75.3%)、「精神的負荷が大きい」(73.8%)がそれぞれ7割を超えた。

 この項目について、調査結果を報道機関向けに説明した平川則男連合総研副所長は「教員の仕事を勧めたいと思う人は、働きがいや達成感があるからだと答えている。その半面で、勧めたくないと思う人は労働時間や業務量の問題を挙げている。この結果をみると、労働時間や業務量などの労働条件を改善できれば、教員を勧めたいと考える人が増えると見て取れる。やはり、労働条件を改善していかなければならない」と指摘した。
 
 教員の労働時間については、調査対象となった6月の勤務日の在校等時間は11時間21分で、15年の前回調査(11時間29分)に比べ、8分減った。一方、自宅での仕事時間は46分で、前回調査(43分)に比べ、3分増えた。勤務日の労働時間は12時間7分に達しており、1日の所定労働時間である7時間45分を4時間22分も上回っている。休日の在校等時間は2時間6分で、15年の前回調査(2時間42分)に比べ、36分減った。一方、自宅での仕事時間は1時間18分で、前回調査(1時間14分)に比べ、4分増えた。

 この結果、1カ月の労働時間は293時間46分にもなっており、6月の所定労働時間170時間30分を123時間16分も上回った。時間外労働の過労死ラインと言われる月間80時間を大きく超えた「高止まり」状態が続いていると、連合総研は指摘している。

 ただ、文科省が昨年12月に公表した学校の働き方改革の取り組み状況調査の結果によると、昨年6月の時点で、時間外労働が法定の月45時間以下となっている教員の割合は、小学校53.8%、中学校39.6%、高校61.2%、特別支援学校78.5%で、段階的に増えてきている。文科省の調査が都道府県などの教育委員会経由で毎年行われている一方、連合総研の今回の調査は日教組を経由して調査票が教員に配布されており、調査手法に違いがあるが、両者の結果の乖離(かいり)はあまりにも大きい。

 文科省調査との結果の違いについて、連合総研では「まだ中間報告の段階で、学校種別の集計もできてない。長時間働いている人と時間外勤務が45時間以内に収まっている人がどれくらいいるのかなど、きちんと分析してみないと分からない」(平川副所長)と説明。今年12月ごろに、最終的な調査結果をまとめるとしている。

 シンポジウムの後半に行われたパネルディスカッションでは、文科省の村尾崇初等中等教育局財務課長、学校現場の教員、油布教授らが登壇した。

 村尾課長は学校の働き方改革の進展状況について、「長時間勤務の数値自体は改善している。それをどう捉え、さらに働き方改革の取り組みをどう進めていくか。国、学校設置者、学校の管理職など、それぞれの主体が取り組みを進めていくことが大事。誰かだけで、抜本的に何かが変わるものではないと考えている。もちろん、国も積極的に進める覚悟を持ってやっていきたい」と説明。

 今後の施策の進め方について、「働き方改革を進めることが子供たちのためになるということに、世の中の理解を得ていくのが大事だと思う。教育界の中で『大変だ』と言っていても、必ずしもプラスになるとは限らない。どの業界でも、いまは『人材不足で大変だ』と言っている。学校の働き方改革を進めることが子供たちにプラスになる、とのメッセージを発信していくことが大切と思っている」と述べた。

 山形県の公立小学校教員、保科充考さんは学校の働き方改革について、「何かやることが減った分、新たなものが増えていく。働き方改革が進んでいる実感はない。子供たちのためにやりたいことがたくさんあるので、残業時間は結局、月100時間を超えてしまう。私は学校に残って仕事をしているが、自宅に仕事を持ち帰ると見えにくくなってしまうので、それもよくないと思っている」などと述べた。

 油布教授は「教員は何に苦しんでいるのか。調査結果から手掛かりを探ると、まさに教員の仕事の本丸である、教えることでの負担が大きいことが分かる。そうした教員の仕事の本丸に対する、業務軽減の施策は実質的には進んでいない。課題は『働き方』という意識や行動の問題ではなく、『働く環境の整備』という行政や施策の問題ではないか」と指摘した。

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