教員の養成・採用・研修に関する制度改革に取り組んでいる中教審の合同会議は9月9日、昨年春に始めた議論を集約した中間まとめ案を公表し、教師自身の学びにおける「研修観」の転換や、志望者の多様化とライフサイクルの変化に対応した教員の養成や採用を求めた改革の方向性を打ち出した。各論では▽教育実習の実施時期を、曜日を決めた通年実施や学校体験活動により一部代替するなど柔軟化を図る▽特定分野に強みや専門性のある教員を養成するため、四年制大学にも最短2年間で二種免許状が取得できる教職課程の開設を認める▽教員採用選考試験の早期化・複線化について、国が各自治体間の対応を調整して進める▽高校の教員資格認定試験を復活させ、情報処理の国家資格の所持者に「情報」の一種免許状の授与を可能とする--ことなど、改革の具体策を盛り込んだ。
中間まとめ案は、昨年3月、当時の萩生田光一文科相が行った教員の養成・採用・研修の在り方についての包括的な諮問に答えるもの。この諮問では教員免許更新制の見直しについては先行して結論を出すよう求めており、それに応じた中教審の審議と法改正を経て、教員免許更新制は今年7月1日に廃止され、来年4月から新たな教員研修制度がスタートする。こうした動きを踏まえ、中間まとめ案では、総論と各論に分けて論点を整理。総論では、今後の改革の方向性について、3つのくくりで取りまとめた。
第1に、「新たな教師の学びの姿」の実現に向け、子供たちの学び(授業観・学習観)とともに、教師自身の学びを新たな「研修観」に転換することを掲げた。その意味合いについて、「個別最適な学び、協働的な学びの充実を通じて、『主体的・対話的で深い学び』を実現することは、児童生徒の学びのみならず、教師の学びにも求められる命題である。つまり、教師の学びの姿も、子供たちの学びの相似形であるといえる」とした上で、「主体的に学び続ける教師の姿は、児童生徒にとっても重要なロールモデルである。『令和の日本型学校教育』を実現するためには、子供たちの学びの転換とともに、教師自身の学び(研修観)の転換を図る必要がある」と説明し、教委などが設定した研修を受けるだけでなく、一人一人の教員が主体的な教員研修に取り組むよう促した。
こうした「研修観」の転換には、「理論と実践の往還」が重要だと強調した。「理論と実践の往還」は教職大学院の中核的な理念とされてきたが、中間まとめでは、この手法を教員養成から教職生活を通じた学びに当てはめ、「授業観・学習観の転換を実現する」と記している。
第2には、学校をさまざまな困難に対応できるレジリエンスの高い組織にしていくため、多様な専門性を持つ質の高い教職員集団の形成が必要と指摘した。そのためには「教師一人一人の専門性を高め、民間企業などの勤務経験のある教師などを積極的に取り込む」とともに、「学校管理職のリーダーシップの下、心理的安全性の確保、教職員の多様性を配慮したマネジメントの実施が不可欠」と説明。校長に求められる新たな資質能力として、データや情報を分析して共有する「アセスメント能力」や、学校内外の関係者と連携して学校の教育力を最大化する「ファシリテーション能力」の重要性を強調している。
第3には、教職志望者の多様化や教師のライフサイクルの変化を踏まえた教員育成と安定的な確保を挙げた。教職志望者の多様化については「教職を目指す学生の中には、キャリア形成の一貫として留学や教職以外の資格の取得、学校現場やNPO、民間企業などでのインターンシップを志向する者もいる。編入学や転入学後に、教職を目指す学生もいる」と説明。いろいろな教職志望者に対応するために、教職課程の柔軟性を高めることが必要だ、と指摘した。
教員のライフサイクルの変化については、団塊世代の大量退職に伴い、一部の自治体で数年前から大量採用を行ったため若年層の教員が増加しており、産休・育休取得者が増加。男性の育児休暇取得も奨励されていることから、「産育休の代替による臨時的任用教員の採用ニーズの増加も予想される」と説明。2023年度から地方公務員の定年年齢が順次引き上げられるため、退職者数の変動が予想されることも指摘した。こうしたライフサイクルの変化を見通して、教員の採用や配置の工夫が必要だとしている。
こうした中間まとめ案の内容について、委員からはさまざまな意見が出た。秋田喜代美委員(学習院大教授)は「カリキュラムオーバーロードは、教員養成課程でも起こっている。それによって、教員養成学部ではない学生が教員免許を非常に取得しにくくなっており、大学2年生あたりで教員になることを諦めてしまう。この問題が非常に重要だ」と、教員養成のカリキュラムを見直す必要があるとの見方を示した。
また、「中間まとめ案では、産休や育休を含めた女性の働き方、男性の育休などから臨時的任用教員の採用ニーズの増加が書かれているが、ライフサイクルに合わせて教員採用を考えるときに、会計年度職員のような1年ごとの不安定な採用でいいのか。ライフサイクルを見越して、教員が配置できるような仕組みのさらなる検討も必要ではないか」と指摘した。
高橋純委員(東京学芸大教授)は「教師の学び、研修観の転換は、すごく共感する。そのときに、教員が受け身で学んでいく学び方もあるが、教員自身が研修の講師になって、他の教員に伝えていくスタイルもありうるのではないか。今までのような研修のスタイルで、大学教授や教育委員会の担当者が上から下におろすような研修だけではなく、さまざまなノウハウは現場にあると思うので、現場教員の誰もが研修講師になりうるような、そういった新しい研修観もあるのではないか」と指摘した。
中原淳委員(立教大教授)は「校長研修の見直しについては、管理職として成果を確実に上げられるための育成の仕組みが必要になる。現在の校長研修では、校長経験のない年齢の若い指導主事が校長を教えている自治体も少なくない。人材開発では『リーダーを育てることができるのはリーダーだ』という原則があるのだから、校長経験者がしっかりと校長を教える仕組みにすべきだ。また、研修で学んだ内容を現場に持ち帰ってもう1回研修にもってくるといった、アクションラーニング型の研修が必要。中間まとめ案に書かれている360度のフィードバックや組織調査を組み合わせたアセスメント型の研修も必要だろう」とした上で、「これらを自治体がそれぞれやっていくのは、かなり厳しい。教職員支援機構の機能強化も行われるのだから、国全体で共通して学びの仕組みを整えるべきところはしっかり国がやるべきではないか」と指摘した。
また、教員養成を含めた研修観の転換で重視されている「理論と実践の往還」という理念について、「ビジョンとしては非常に美しいが、リソースがないところでは絵に描いた餅になる。学校現場に学生を出すということは、学生に同行して振り返りを行い、それにフィードバックを行うという個別の対応が求められる。これが一部の教員に負担が偏っているという話をよく聞く。この問題は学校現場や教員養成系大学に丸投げするのではなく、これを支えるリソースが必要ではないか。ぜひ実現していただきたい」と述べ、研修に必要な教員加配などの対応が伴わないと実現は難しいとの見方を示した。
各論では、教育実習について、教職課程の終盤に3~4週間の教育実習を実施する現行の短期集中型だけではなく、「通年で決まった曜日などに実施する教育実習や、早い段階から学校体験活動を経験し、教育実習の一部と代替する方法なども想定される」とした。
教員採用選考試験の前倒し実施に向けた早期化・複線化については、一部の自治体のみが早期化・複線化すると、他の自治体との重複合格で辞退者が多く出ることを懸念する声があることから、「国と任命権者が協議しながら検討を進めていくことが必要」とした。国が自治体間の調整役を担う必要性を示唆している。
【1】「新たな教師の学びの姿」の実現
【2】多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
【3】教職志望者の多様化や、教師のライフサイクルの変化を踏まえた育成と、安定的な確保