特別支援教育を必要とする児童生徒が増加し、大部分の授業を通常の学級で受けながら、障害に応じた特別の指導を特別な場で受ける「通級による指導」などの充実が求められる中、文科省の「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」は9月9日、第3回会合をオンラインで開いた。小枝達也委員(国立研究開発法人国立成育医療研究センター副院長・こころの診療部統括部長)が、医療現場からみた小中学校などの通級による指導の課題と期待について報告した。
小枝委員は子どもの心の診療において、疾患としては心理発達の障害が42%と最も多く、続いて神経症・ストレス・身体表現性障害が22%、情緒および行動の障害が19%、知的障害が7.7%と報告。また、診療の継続期間は、2年以上継続する場合が47%、5年以上継続するケースも27%と、「長期にわたって診療が必要なことが、なかなか初診の予約が取れない要因の一つでもある」と話した。
また、外来初診の年齢について、5年前は就学前の子どもが最も多かったが、近年では学齢期が多くなってきているという変化も明らかにした。小枝委員は「子どもの特性に対する気付きの遅れがまだある。保護者も学校の先生も一生懸命だが、その子に対する一生懸命の方向が違っていると感じる。子どもにすれば『追い詰められた』と感じ、それが不安や不全感、不信感につながり、不登校や保健室登校につながっている」と指摘した。
さらに特別支援教育が開始されてからの変化として、小枝委員は「管理職の理解が進むなど、子どもの問題が『教室』から『校内』に出るようになったことが一番大きい」と評価した一方で、「すでに『みんなが同じじゃないとダメ』という先生は減ってきているが、具体的にどうしたらいいかをあまり知らない」とも指摘した。
「学校は学びの場としてはもちろん、居場所としても大事だと思っている。例えば、東京都内の学校では、全ての小中学校に通級指導教室があり、最近は情緒障害の特別支援学級ができ始めた。それによって居場所を得た子どもたちは、見違えるように元気になり、楽しんで登校している。学校の中に居場所をつくるということは、子どもたちに本当に大きなメリットになる」と訴えた。
市川裕二委員(東京都立あきる野学園統括校長)は、小枝委員の報告に対し、「居場所という観点もそうだが、障害のある子どもの障害の状況に応じて、行く場所が連続的に多様であるべきだ。通常の学級の支援だけでなく、各自治体の特別支援教育体制をいかに大切にしていくかが必要ではないか」と話した。
喜多好一委員(全国特別支援学級・通級指導教室設置学校長協会会長)は「保護者や教員の一生懸命の方向性が違っていて、子どもを追い詰めてしまうという状況は、実際に学校現場にいても感じている。どのように改善していけばよいか」と質問。小枝委員は「保護者や教員は、できたら褒めるのではなく、頑張ったことを褒めるようにすると、子どもは追い詰められることなく、頑張る子に育つのではないか」とアドバイスを送った。
また、野口晃菜委員(一般社団法人UNIVA理事)の「通級などで支援を受けるために、診断書などが必要となっていることで、支援が始まるまでにタイムラグがあることに問題意識を持っている。その間に学校に行けなくなる子も出てきている。タイムラグをなくす策は何かあるか」との質問に対して、小枝委員は「各学校単位で特別支援コーディネーターや通級の教員、特別支援学級の教員、担任がその子に対する支援について話し合い、校内で決定して動けるといい。決定機関を少人数にして、機動力を高めるようにできれば、タイムラグも少なく、その子に応じた支援ができるようになるのではないか」と話した。