国連の障害者権利委員会が特別支援教育によって障害のある児童生徒が通常学級から隔離されている状態に懸念を示す勧告を行ったことについて、永岡桂子文科相は9月13日の閣議後会見で、「現在、多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えていない。勧告の趣旨を踏まえて、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めたい」と述べ、現行の特別支援教育の取り組みを進める考えを表明した。特別支援学級の在籍者に週の授業時数の半分以上を特別支援学級で授業を受けるよう求めた文科省の通知に対し、勧告が撤回を要請したことについては、「通知はインクルーシブ教育を推進するもので、撤回を求められたのは大変遺憾。通知の趣旨を正しく理解していただけるように周知徹底に努めたい」として、撤回には応じない考えを示した。
永岡文科相は、まず勧告が出された経緯と内容について、「8月22、23日に、スイスのジュネーブで障害者権利条約の対日審査が行われた。文科省も政府代表団の一員として、審査に対応した。この審査を受けて、9月9日に障害者権利委員会の総括所見が公表され、障害のある子供の教育については、個々の教育上の要請を満たす合理的配慮の保障、そしてインクルーシブ教育に関する研修の確実な実施などが勧告された」と説明した。
続けて「障害者権利条約に規定されているインクルーシブ教育システムというのは、障害者の精神的、また身体的な能力を可能な限り発達させるといった目的の下に、障害者を包容する教育制度であると認識している。これまで文科省では、このインクルーシブ教育システムの実現に向け、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備と、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備を両輪として取り組んできた」と強調。具体的な政策として▽通級による指導担当教員の基礎定数化の着実な実施▽通常学級に在籍している障害のある子供のサポートなどを行う特別支援教育支援員に対する財政支援--などを挙げ、これまでの文科省の政策は、障害者権利条約が定めるインクルーシブ教育システムの実現に向けた道筋に沿っている、との認識を示した。
その上で、永岡文科相は「特別支援学級への理解の深まりなどにより、特別支援学校や特別支援学級に在籍する子供が増えている中、現在、多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えていない。勧告の趣旨も踏まえて、引き続き通級による指導担当教員の基礎定数化の着実な実施などを通して、インクルーシブ教育システムの推進に努めていく」と説明。現行の特別支援教育を続けながら、合わせてインクルーシブ教育を推進していく考えを表明した。
一方、国連障害者権利委の勧告では、文科省が4月27日付で出した通知「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」で、特別支援学級の在籍者に週の授業時数の半分以上を特別支援学級で授業を受けるよう求めていることについて、「特別支援学級の児童生徒が在学時間の半分以上を普通学級で過ごさないようにする」通知だとして撤回を要請している。
この撤回要請について、永岡文科相は、昨年度、特別支援学級に在籍する児童生徒の割合が高い自治体を対象とした実態調査で、特別支援学級の在籍者が大半の時間を普通学級で過ごし、特別支援学級で障害の状態等に応じた指導を十分に受けていないなど、不適切な事例が見つかったことを紹介。4月27日付通知について「こうした実態も踏まえ、特別支援学級で半分以上過ごす必要のない子供については、通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、特別支援学級の在籍者の範囲をそこでの授業が半分以上、必要な子供に限ることを目的としている。むしろ、インクルーシブを推進するものだ」と説明した。
その上で、「勧告で(通知の)撤回を求められたのは、大変遺憾であると思っている。通知の趣旨を正しく理解していただけるように、周知徹底に努めてまいりたい」と述べ、勧告の撤回要請に応じない考えを明確にした。
国連の障害者権利委員会による勧告は障害者権利条約に基づいて行われるもので、日本にとっては2014年の条約締結以降、今回が初めてとなる。勧告には拘束力はないが、締結国は尊重することが求められている。