学校現場のDXが進む中で、学力だけでなく運動能力や体力の面でも、データを活用した個別最適化の動きがみられるようになった。データによって子どもの体力や運動能力が可視化されることで、教師の指導や子どもの運動・スポーツ習慣はどのように変わるのか。スポーツ能力発見協会が開発した「DOSA SCHOOL」のケースから、体力テストのDXがもたらす可能性を探る。
これまで学校で行われてきた体力テストでは、データ集計や分析に手間がかかり、各学校に結果がフィードバックされるまでに多くの時間を費やしていた。しかも、そうやって苦労して集めたデータでも、結果が返ってきたときには子どもたちの関心は薄れ、効果的な指導がすぐにできるわけではない。また、結果は紙で渡されることが多く、家庭でも1度目を通しただけで終わってしまうことも珍しくない。
こうした課題を解決するため、昨年からの実証実験を基に、今年度から正式にリリースした学校体力テストデータ集計管理分析システム「DOSA SCHOOL」では、児童生徒がタブレット端末を活用して体力テストのデータを入力すると、すぐに集計・分析されるようになっている。
その結果は、教員はもちろんのこと、QRコードを読み取ってウェブサイトから「Myページ」に自動でログインできるようにすることで、子どもも家庭も見られるようにした。さらに、分析結果は平均値との比較だけでなく、個々の長所や短所を明確にし、運動能力の特徴を生かせる「向いているスポーツ」を表示。運動能力を高めていくためのトレーニングや遊びを紹介できる「My遊び」の機能も備えている。
「例えば、バランス感覚が優れている子は、これまで体育の授業ではあまり目立たない存在で、運動を苦手だと思い込んでいたかもしれない。データでバランス感覚がよいことが示され、それを生かせるスポーツが分かれば、運動が好きになるきっかけになる」と、同協会の四宮邦泰シニアディレクターは強調する。この「向いているスポーツ」とマッチングできる機能は、もともと同協会で取り組んでいた、子どもたちの運動能力の測定会イベントのノウハウが生かされているという。
そもそも同協会がこのシステムを開発したのは、コロナ禍によって子どもの体力低下が指摘されたことがきっかけだ。「コロナ禍が長期化し、子どもの体力低下以上に、運動習慣が失われてしまっていることに危機感を覚えた。運動習慣が身に付いていなければ、将来的な健康問題にも影響が出てくる。子どもたちが日常的に体を動かせる空間をつくることが、大人の責任だと強く感じた」と四宮シニアディレクター。そこで「My遊び」では、子どもが置かれている環境を考慮し、場所や人数によって内容を検索できるようにした。こうすることで、体育の授業だけでなく、休み時間の子ども同士の遊びや家庭での活用が期待される。
同じ問題意識を持ち、今年度から市立小中学校に「DOSA SCHOOL」を導入したのが、熊本地震による避難の影響で子どもの運動機会を確保する重要性を痛感し、ICT教育にも力を入れる熊本市だ。
熊本市教育委員会の星田正治教育審議員は「導入初年度ということで初期設定に少し時間がかかったが、子どもたちもすでにタブレットに慣れているので入力もスムーズに行えた。これまでは紙で業者とやり取りをしていたので、間違いがあったり読み取れなかったりといった手間があったが、そういった負担も軽減された」と最初の活用の様子を振り返る。
「子どもも自分の記録を確認できるので、自分の体力についての課題がはっきりし、適切なアドバイスもあるので、体力を高めるきっかけになる。データが蓄積されていけば、経年変化をみながらの活用もできる」と星田教育審議員。得られたデータは各学校で分析し、どんな取り組みを行うかを市教委に報告することで、各学校の状況に応じた体力向上につなげるという。
こうした熊本市の先行事例を踏まえ、四宮シニアディレクターは「昨今の世の中ではICT活用やDXなどが推進されているが、データの利活用はあくまで方法にすぎない。DOSAとしては『DOSA SCHOOL』をうまく活用することで、子どもたちが自ら身体を動かすことの楽しさに気付いてもらうことや教職員の方が子どもと触れ合う時間を少しでも増やすことにつなげていきたいと考えている」と力を込める。
体力データの利活用はさまざまな可能性が広がっている。
四宮シニアディレクターは「1人の子どものデータが蓄積されていけば、その子の成長を学校や家庭がしっかり確認できるようになる。ついその年の平均値と比べてしまいがちだが、平均以下の子にとって、そればかりではモチベーションも下がる。しかし、過去のデータと比較できれば、去年と比べて伸びたところを見つけ、ほめることができる」と指摘。
さらに「個人情報の課題はクリアしなければならないが、自治体間のデータ連携や活用が進めば、ある運動能力で特に優れている子を見つけ、『向いているスポーツ』でアスリートになる道を示せるかもしれない」と、世界で活躍できる原石の発掘にも期待を寄せる。