不登校との関連が指摘されている起立性調節障害(OD)の実態把握や適切な支援が十分に行われていないとして、千葉大学教育学部附属中学校(藤川大祐校長)の生徒3人が9月14日、文科省に実態調査の実施や啓発活動の強化、別室登校をサポートするスタッフの拡充などを求める政策提言を行った。生徒たちに面会した伊藤孝江政務官らは、提言内容に対して現在の文科省の取り組みなどを約30分間にわたって説明した。面会後、記者会見した生徒たちは「今回提言したことで改善策が打ち上ってきたと感じた。さらに改良した案を作りたい」「提言には、自分たちの学校でも動けるな、というところがいくつかある。まず、自分たちの学校から取り組みを始めていきたい」などと語った。
政策提言は、同中学校の「総合的な学習の時間」を活用した選択制の授業「アドボカシーゼミ」に所属する高馨彦さん(3年生)、宇田川柚之介さん(2年生)、元澤英紀さん(1年生)の3人がまとめた。
提言では、小中学校の不登校の児童生徒数が2020年度に19万6127人と過去最多となる一方、日本小児心身医学会によると、不登校となった児童生徒の約3~4割が起立性調節障害を発症している、と説明。そうした実態を文科省や各教育委員会が十分に把握していないため、適切な支援が行われていない、と指摘した。
こうした問題意識を踏まえ、政策提言では「学校に行けなくても、子どもたちの学ぶ権利の保障が大切」として、6項目の具体的な対応を文科省に求めた。
千葉大学教育学部附属中学校アドボカシーゼミ「#私たちの学ぶ権利を奪わないで すべての子どもたちに対する多様な学びの選択肢と学ぶ権利の保障に関する提言書」より作成。
この政策提言に対し、伊藤政務官は執務室で生徒たちと面会し、文科省の担当者と共に、現在の取り組みや政策の考え方を説明した。
記者会見した生徒によると、起立性調節障害の実態調査については、全国一律で行うことは難しいと回答。教員向けの冊子については、養護教諭向けの冊子「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引」がすでに作成されており、起立性調節障害についても記載があることを説明した。児童生徒向けのポスターの作成については「実際に学校でやってみるのもあり」との趣旨を答えたという。
ICT端末を使ったリモート授業に対する出席日数の取り扱いについては、「病気療養など一定の要件を満たせば、出席として扱うが、一方で、学校では知識を学ぶだけではなく、仲間と協力して一つのことに向かうような社会性を身に付ける部分もあるので、果たしてオンライン授業を自宅で受けるだけでいいのか、という説明だった」(高さん)。
学校教育における多様な学びの選択肢として、別室登校への対応とサポート役としての学習指導員の増員を図るとの提言については、「教員不足は深刻な問題」とした上で、オンライン活用の可能性などを伝えられた、という。
こうした文科省側とのやりとりを終え、3人の生徒は記者会見で質疑に応じた。
高さんは「ゴールは障害などに関係なく、誰もが生きやすい社会にすることに帰ってくるのだと思う。今回、提言をしたことで、新たな改善策が打ち上ってきた。その改善策を一つ一つ洗い出し、もっとこうしたらいいのではないかという改良案を作りたい」と述べた。
宇田川さんは「起立性調節障害について解決したいと思ったのは、私がアトピー性皮膚炎を生まれつき持っていて、病気の差別があることを知っているから。起立性調節障害で学校に来られなくなった人もそうした苦労をしているので、それを少しでも減らしたい」「義務教育課程における出席日数の考え方について、もしオンライン授業も出席に数えるとなったときには、オンラインではカメラをオフにするだけで相手の状況が分からなくなってしまうので、それを悪用する生徒が出てくるかもしれない。そういう難しさも分かった上で、どうすべきかを考えていきたい」などと語った。
元澤さんは「起立性調節障害になった人に対する偏見は残り続けていると思うので、こうした活動をやる人が少しでも増えて、偏見がなくなっていくといい。今回提案した内容には、自分たちの学校でも動けるな、というところがいくつかある。まず自分たちの学校から取り組みを始めていきたい。それによって、身の回りから少しずつ変えていこうと思う」と話した。
指導に当たっている郡司日奈乃講師(千葉大学大学院教育学研究科)によると、アドボカシーゼミは、同中学校で「総合的な学習の時間」で二十数個設定されているゼミの一つで、6月から11月まで半年間活動する。起立性調節障害については、5月に行ったオリエンテーションで取り上げたテーマから生徒たちが選び、政策提言については日本若者協議会(室橋祐貴代表理事)からアドバイスを受けたという。