自由で選択肢があって、自分らしくいられる学校をつくろう――。教員志望の学生が多く在籍している埼玉大学教育学部でこのほど、4月に東京都世田谷区で開校したオルタナティブ・スクール「HILLOCK(ヒロック)初等部」でカリキュラムディレクターを務める五木田洋平さんをゲストに招いた授業が行われた。五木田さんはワークショップを交えながら学生らに、自分たちがやってみたいと思う教育は「公立学校でもできるし、皆さんの身近でもできている人たちがいる」と語り掛けた。
授業は、同学部1年生で小学校の教員免許を取得しようとしている学生が履修する「特別活動論」の中で、学校教育をより豊かにする視野を学生らに持ってもらう目的で企画された。講義の最初に五木田さんがオルタナティブ・スクールについて知っているかを尋ねると、出席していた約200人の学生のほとんどが知らなかった。
コロナ禍で直接顔を合わせる機会も少ない学生同士の自己紹介も兼ねたワークショップを挟み、私立小学校で教員をしていた経験もある五木田さんは「僕は絶対に嫌なことが一つある。それは貧しい国にすることだ。では、貧しいとはどういうことだろうか。3つのあるものが『ない』状態だと思う」と問い掛けた。「お金」や「情報」といった答えが学生から挙がる中、五木田さんはその3つを自分自身では「やらせてもらえない」「ものがない」「自信がない」だと考えていると説明。子どもや教員がやりたいことが制約され、選択肢がない状態の中で、日本は子どもたちだけでなく教員も自信がないと指摘した。
その後、五木田さんはHILLOCK初等部の学びの様子を紹介した上で、学生らに「教員も学習者も『自由で、選択肢があって、自分らしくいられる』学校をつくる」という課題を提示。学生らはグループごとにスライドを共有しながら、画像やメッセージでその学校の姿をイメージした。各グループからは「授業で疲れたら寝る場所がある」「ラーメンにたとえると、自由にトッピングができる」「子どもが自らご飯を作ってビュッフェ形式で提供」「好きなものに囲まれて勉強したい」「あらゆる場所に落書きOK」などのアイデアが次々に生まれた。
このワークショップを終えた後、五木田さんは、埼玉県内の公立学校の教員の事例を挙げ、「小学校の教員で壁一面をホワイトボードにした教員がいる。さっきのワークショップでは、落書きができるところがあるといいという意見もあった。夢想だったかもしれないけれど、実際にやっている教員がいる。『これは必要だから予算をください』と、ロジックを立てて実現している。でも、ロジックが先にあるのではなくて、『やってみたい』という気持ちが先にある。『子どものためにはこっちの方がいい』『この方が楽しいじゃん』という思いがあれば、公立学校でもできるときがあるし、皆さんの身近でできている人がいる」と強調。
大事なのは自分が教員に向いているかどうかではなく、自分なりの教育の関わり方だとして、「自分の強みや癖、性格などを生かして教育に携わることができる。大学で学ぶ4年間で、どう教育に関わるかを決めてもらえれば」と、学生らの背中を押した。