文科省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」は9月26日、第14回会合をオンラインで開き、審議の取りまとめを行った。そこでは、特異な才能のある子だけを選抜して特別なプログラムを提供するのではなく、多様性の一つとして認めつつ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として、支援に取り組む方向性が明記された。これまでのヒアリングで、学校現場などから「特異な才能」の基準や数値が必要ではないかと指摘する声が上がっていたが、審議まとめでは一律の基準を設けない方針を貫きつつ、特性の把握という観点から実証研究を通じてアセスメントツールの検討を行い、学校現場に提供していくことを提言した。
同有識者会議は7月に審議まとめ素案を示し、それに対して校長会や教育委員会関係者のヒアリングや、パブリック・コメントの募集を行ってきた。ヒアリングでは、公教育の中で特別な環境を整えることへの違和感や、対象となる子供たちを見いだすための基準の困難さ、学校現場にさらなる負担がかかることへの懸念などが表明されていた。
こうした状況を踏まえ、今回の審議まとめでは「特定の基準で選抜し特別なプログラムなどを提供することを目指すものではなく、全ての子供たちが多様性を認め合い、高め合える個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として指導・支援の在り方を考えていくことを基本的な考え方としている」との説明が加えられ、「才能や特性ゆえに学校で著しい困難を抱えている場合に、その困難に着目し、その様子と周囲の環境との相互作用を考慮しながら、困難を解消するとともに才能を伸ばしていくことを目指している」とされた。
また「特異な才能」の基準や数値を求める声に対して、審議まとめでは「何らかの特定の基準や数値によって才能を定義し、定義に当てはまる児童生徒のみを『特異な才能のある児童生徒』と取り扱うことは、本有識者会議では行わない」とする考え方を維持。一定の定義を設けることで、特異の才能のある児童生徒が同級生から異質な存在として捉えられ、分断や差別を生むことに配慮した。
一方で、「学校や教師などが児童生徒の抱える困難さに気付いたり、児童生徒本人から相談を受けたりした際に、アセスメントツールなどを活用し、特異な才能のある児童生徒に見られる状況や才能に伴う学習・社会情緒的な困難を把握することが重要」とした。すでに特性の把握のためのアセスメントツールやチェックリスト、検査などが活用されている事例があることから、こうしたツールを教育委員会や学校が必要に応じて活用できるよう、実証研究を通じて検証していくことを提言した。
また学校現場の負担については「現在でも多忙な状況にある学校や教師のさらなる負担のみによって実現されるべきものではない」として、ICTの活用やさまざまな学校外の機関との連携、学校や教員への支援を提言した。
26日の会合では、審議のとりまとめに当たり、各委員が意見を述べた。秋田喜代美座長代理(学習院大学文学部教授)は「今まで焦点が当たらなかった子供たちにも焦点が当たった。これまで最大公約数的な教育を目指してきたところから、多様性というものを認め合う教育が、これから求められているというメッセージを強く出すものだと考えている」と評価した。
市川伸一委員(東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高校校長補佐)は「これまで、そういう(特異な才能のある)子供たちは自分たちの困り感を表明しにくかった。『学校の授業だけでは物足りません』とは、保護者も子供も言いにくかった。(これからは)学校側も率先して、そういういろいろな困り感や不満があれば、『どうぞ、言ってくれていいですよ』と(言える)。学校が全て(対応)できるわけではないが、『地域にはこういうプログラムもある』という情報提供も含め、社会全体でどう担っていくのかを考え、保護者や子供にそういう場を提供できるようにしていくというふうに、一歩進めばよいのではないか」と期待を語った。
一方、大島まり委員(東京大学大学院情報学環・東京大学生産技術研究所教授)は「現場の教員がかなり戸惑っている。現場の先生に負担が過度に出てくるのはやはり問題になるのではないか。観点はたくさんあると思うが、優先順位を決めながら、できるところからレイヤー(層)化していってステップを踏んでいくことや、短期・中期・長期の計画を立てていくことが大事ではないか。実証研究を通じて体系化し、何らかの形で示さないと、教員たちに『やってください』といっても難しいのではないかと思っている」と述べ、実証研究を通じて、好事例やデータを共有していくことの重要性を指摘した。
根津朋実委員(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)は「先日、都内の公立小で高学年の授業を参観した。40人近く(児童がいて)、教室の中にみっちりと詰まっていたのが印象的で、教員が机の間をスムーズに歩けない。こうなると、今回の有識者会議の論点も含め、教員の労働条件という意味でも、一学級当たりの人数をもっと大胆に引き下げれば、子供や家庭への細やかな対応が可能になるのだろうな、と感じた」と述べた。
岩永雅也座長(放送大学学長)は、今回の審議まとめを文科省の藤原章夫初等中等局長に手交。「これは結論ではなく、キックオフであり、チャレンジングな問題提起だと考えると、大変意味があった。アンケートや調査の結果、真に問題を抱えている子供たちがいる、それを問題と考えている保護者がいることを、量的にも把握できたことは貴重な結果ではないか」と振り返った。
さらに「実証研究が一つのポイントになる。すでに実践の芽はあるが、われわれが考えているような教育のものだという認識がまだされていない、体系化されていない、横の連携が取れていないなどの問題がある。実証研究でつぶさに見ていく中で、どれが有効なのか、どういうところに課題があるのかを明らかにしていくことが、次の課題になっていくと感じている」とまとめた。
1 特異な才能のある児童生徒をめぐる現状
2 特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援に関する課題
3 今後の取組の基本的な考え方
4 今後取り組むべき施策