自分の「夢=ビジョン」を形にするには━━。神奈川県の公文国際学園高等部(梶原晃校長、生徒475人)では9月26日から、探究活動や宿泊行事などを集中的に行う「スタディ・ウィーク」がスタートし、高校1年生では個人で探究する「プロジェクトスタディーズ」が行われている。初日には戦略デザイナーとして活躍するBIOTOPE代表の佐宗邦威氏を講師に招き、生徒らは自分のビジョンを形にする方法について、ワークショップで手を動かしながら創造的に学んでいった。
同学園では中学1年から高校3年まで各学年で探究学習や体験学習などを5日間、集中的に実施する「スタディ・ウィーク」が設けられ、高校1年生はそれぞれの興味・関心を出発点とし、各自が設定したテーマを研究するゼミ形式による個人プロジェクト「プロジェクトスタディーズ」を行っている。
これまで企業においてさまざまなヒット商品のマーケティングや新規事業プログラムを立ち上げてきた佐宗氏は「例えば、受験勉強の時は『パターンをいっぱい覚えて、それを組み合わせる』ということをやっていた。それに対して、33歳の時に米国のシカゴに渡ってデザインを学んだ時は、取りあえず手を動かしていた。パターンなどない。何か思い付いたアイデアがあれば、手を動かして形にしてみることを繰り返していた」と自身のこれまでの経験を話した。そして、「デザインとは、答えを創り出す方法だ。今日はこれをみんなにも学んでほしい」と生徒らに語り掛けた。
まず、佐宗氏が生徒に「将来の夢が明確にあるという人?」と聞くと、手を挙げたのは167人中、数人だった。佐宗氏は「将来の夢を職業で考えていくことは難しい時代になっている。私自身も今は『戦略デザイナー』という仕事をしているが、10年前はこんな仕事はなかったし、10年かけてつくってきた仕事でもある」と話し、「これからはさらに職業が多様になっていく。そして、人生100年時代、誰しもが道なき道を歩く時が来る。そうしたときに必要なのは、『夢=ビジョン』を常に自分の中でつくり続けるスキルだ」と強調した。
ここからは「ビジョンのつくり方」について、ワークショップ形式で進められた。生徒らは、まず隣の人とペアになって、「最近一番ワクワクしたのはどんな時か」「小さなときに夢中になっていたことは」「あなたが3年の自由な時間と100億円(使い切れないくらいのお金)があったら何がしたいか」などの質問を相互に行い、相手のイメージを引き出していった。生徒らはこうした何気ない質問に答えながら、改めて自分が好きなことや興味を持っていることに気付いていったようだった。
これを踏まえ、次に「私の未来展」というワークに挑戦。約40分間、絵を描いたり、粘土を使ったりして、手を動かしながら自分がつくりたい未来を形にしていった。
最初は考え込む生徒もいたが、手を動かし出すと、不思議とアイデアも動き出していく。例えば、画用紙にいろいろな色でいくつもの人型を描き、そこにそれぞれ形の違う粘土を置いていた生徒は「子どもたちがみんなそれぞれ自由に好きなものがつくれる世界になれば。何にも誰にも阻害されない世界を作りたい」と作品に込めた思いを話した。
画用紙に宇宙を描き、その上に粘土でドアをつくっていた生徒は「こんなふうに宇宙と地球がドアで簡単に自由に行き来できたら」と自分が考えた未来にワクワクした様子。また、「何も考えずに、取りあえず粘土で作りだした」という生徒は、途中で「あっ」とひらめき、「VRで文明や歴史を追体験できるようなものができたら面白いかも」と話し、さらに手を動かしながらビジョンを具体的な形に落とし込んでいった。
最後にそれぞれのビジョンを実現するために調べることや、取り組むことを具体的に考えた。佐宗氏はビジョンを実際に形にする秘訣(ひけつ)として、「誰かに話したり、世の中にシェアしたり、ちょっとずつ形にして外に出していくと実現しやすくなる。『もしも○○だったら……』が頭の中にあると、それを実現するためにどうすればいいか、無意識に考え出すもの。いいことを思い付いたらすぐにメモを取ったり、写真を撮ったりすることで、日常にあるビジョンは実現に近づく。そうすれば、将来やりたい仕事もどんどん出てくるだろう」とアドバイスを送った。
「プロジェクトスタディーズ」を担当する同学園の齋藤亮次教諭は「生徒たちが真の意味で主体的に学ぶためには、自分の潜在意識に眠っている好奇心や価値観、ビジョンを体感的に掘り起こす必要があると感じていた。今日のワークで生徒らはそれができたのではないか」と振り返った。
また、探究学習に関して佐宗氏は、これまで学校現場などでワークショップに取り組んできた経験上、「生徒によって『やりたいこと格差』が出ることが多い」と指摘。「何も興味がないと感じていても、手を動かして形にしてみると、自然と内からやりたいことや興味があることは出てくるもの」と話した。
高校1年生はこの日のワークを踏まえて、個人での探究活動を行い、最終日にはゼミ内で発表会を実施。代表に選ばれた生徒は文化祭や学年集会、全校集会での発表を予定しているという。