正規教員の割合「目標値の設定を」 永岡文科相、各教育長に要請

正規教員の割合「目標値の設定を」 永岡文科相、各教育長に要請
全国の教育長にオンラインで語り掛ける永岡文科相
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 教員不足の厳しい状況が続く中、永岡桂子文科相は9月29日、都道府県と政令市の教育長を集めた会議をオンラインで開き、(1)教員採用選考試験の早期化や複線化を具体化させるため、文科省と教委などによる協議会をできるだけ早く立ち上げる(2)正規教員を計画的に採用していくため、各教委の中期的な採用計画に、正規教員の割合を定める目標値を各自治体で設定する--など、教員不足への対策を加速させるよう要請した。正規教員の割合に対する目標値の設定は、学校現場の非正規教員への依存に一定の歯止めをかける可能性もあり、文科省が一歩踏み込んだものとして注目される。これに対し、教委側を代表して京都府の前川明範教育長は「学校の労働環境がブラックだというイメージが強調され過ぎている」とした上で、給特法の見直しと必要な財政措置を講じることなどを求めた。

 永岡文科相は、▽教員採用選考試験の改善▽教師不足への対応▽学校の働き方改革・勤務環境改善▽教員研修の高度化▽学校現場で起きた最近の事案--の5点に絞って、各教育長に要請を行った=図表参照(画像をクリックしてください画像の右側をクリックするとページが進み、左側をクリックと戻ります)

 

 1点目の教員採用選考試験の改善では、2021年度の採用試験で採用倍率が学校種の総計で3.7倍、小学校で2.5倍と過去最低となったことを受け、「現在の採用倍率の低下は、危機感を持って受け止めている」とした上で、採用試験の早期化や複線化を急ぐ必要性を強調した。

 現在の採用試験が7月に筆記試験、8月に面接、9、10月に合格・採用内定というスケジュールとなっている一方、民間企業の採用活動は6月から始まり、内々定が早期化していること、一般公務員の採用試験も教員より早く行われていることから、「教員志願者の一部が民間企業や他の公務員に流れているという指摘がある。教員採用試験が現状のままで良いのか、よく検討する必要がある」と説明。

 その上で「試験の早期化、複数回実施や、数年にわたる採用などに向けた具体的な動きを加速するべく、今後できるだけ早く文科省と教育委員会などの関係団体からなる協議会を立ち上げたい」と述べた。採用試験の早期化や複線化を巡っては今年4月に末松信介前文科相が各教委に取り組みを要請しているが、今回は文科省と各教委による協議会の設置を通じて、文科省がより積極的に各教委に働き掛ける姿勢をとった。

 永岡文科相は「大事なのは、日本全体で教師を目指してもらう人の数を増やし、そして質を高めていくこと。 限られた志願者を奪い合うのではなく、 教師を目指すことを諦めてしまう人を再び教師を志望するように振り向けること、新たに教師を目指す方々を増やすこと」と続け、各教委の間で教員志望者の獲得競争がヒートアップするとの懸念から採用試験の早期化や複線化に慎重な一部の教委にくぎを刺した。

 2点目の教師不足への対応では、「今年度の全国的な状況も、昨年度と同様に依然として厳しい」とした上で、まず「休眠・失効免許や保持者の教師入職を支援すべく、研修会の実施や教職員支援機構の研修動画の活用など、入職の不安を解消する施策に取り組むようお願いしたい」と述べ、教員免許の取得経験がありながら別の職業に就いている人材に教職への転身を促すための環境整備を求めた。

 また、近年、団塊世代の教員の大量退職で若手教員の採用が増えたことにより、産休や育休を取得する教員の代替要員が不足していることから、永岡文科相は「年度前半に産休育休を取得することが見込まれている教師の代替者を4月の年度当初から任用すること、そして任用の確定を採用試験の合格と合わせて行うことも有益と考えている」と指摘。教員の産休や育休に伴う代替要員の確保を一層工夫するよう促した。
 
 続けて「安定的な学校教育を実現していくためには、正規教員を計画的に採用していくことが極めて重要」と強調。「各教委によって、教師の年齢構成など事情は異なるとは思う」と正規教員の採用に慎重な自治体に理解を示した上で、「しかしながら、教師不足が深刻化する中、正規教員を基本とした計画的な採用を進めるためにも、例えば5年から10年程度で各教委が定めている中期的な採用計画と合わせ、目標とする正規教員の割合などを各自治体で設定し、その目標値に向かって積極的に正規教員の採用を進めてほしい」と要請した。

 3点目の学校の働き方改革・勤務環境改善では、「学校教育の成否は教師にかかっている。教師不足を解消するためにも、教員の魅力を向上させ、優れた人材を確保していく必要がある。 教師が教師でなければできないことに、全力投球できる環境を整備することが重要」と述べ、学校の働き方改革の推進が教員不足への根本的な対策にもなるとの認識を改めて示した。

 その上で、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しについて、「(今年度実施している)勤務実態調査の結果を踏まえ、給特法などの法制的な枠組みを含めた処遇の在り方を検討する」と言及。各教委に対して「進んでいない取り組みの検証、重点的に取り組む内容の特定など、さらなる取り組みを推進してほしい」と求めた。

オンラインで行われた都道府県・指定都市教育委員会教育長会議
オンラインで行われた都道府県・指定都市教育委員会教育長会議

 こうした要請に対し、教委側を代表した京都府の前川教育長は「教員不足や教員採用倍率低下の根本的な課題は2点ある、と認識している」と切り出した。

 1点目は「学校の労働環境がブラックだというイメージが強調され過ぎていること」と指摘。「教育委員会では、学校とともに働き方改革に着実に取り組み、学校の労働環境は改善しつつある。国にはぜひ、そうした勤務実態とともに、特に教員のやりがいなどの情報を積極的に発信してほしい。教員という職の偏ったイメージを変えるよう、取り組んでいただきたい」と述べた。

 2点目には「学校や教員が必ずしも担わなくてもよい業務に、依然として対応していること」を挙げた。「外部人材の活用を一層推進し、地域や保護者も一体となって、学校運営に参画することで、教員が子供たちに向き合う時間を確保し、教員の魅力を一層高めることが重要だと考えている。国には、一層の教育予算の確保とともに、社会や地域保護者の意識改革に向け、国民へのアピールに一層力を入れてほしい」と求めた。

 教員採用選考試験の早期化・複線化については「国と共に議論を深めていきたい」と応じた。働き方改革の推進では、来年度予算概算要求に校務のデジタル化推進や部活動の地域移行にかかる支援が盛り込まれたことを評価するとともに、教委として教員の業務改善に引き続き取り組む姿勢を示した。

 その上で、給特法について「今年度の教員勤務実態調査の調査結果を踏まえ、給特法を教員の勤務の実情に適合する形で見直すなど、法制的な枠組みも含めて検討するとともに、必要な財政措置を講じてほしい」と言及。給特法の見直しが必要だとの認識を鮮明にすると同時に、時間外勤務への手当てなど財政措置の必要性を強調した。さらに「教員の労働条件が改善されることを、国から国民へ強く周知し、学校や教員に対する社会の認識を変えるよう取り組んでほしい」と述べ、学校の職場環境がブラックだという印象を払拭(ふっしょく)することが重要との認識を繰り返し伝えた。

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 永岡文科相が正規教員の割合に対する目標値の設定を各教委に求めたのは、文科省が学校現場の非正規教員への依存に歯止めをかける方向に一歩踏み込んだものとみることもできそうだ。背景には、非正規教員に依存する学校現場の実情が最近の調査ではっきりしてきたことがあるとみられる。

 今年1月、文科省が初めて実施した「教員不足」の実態調査の結果が公表された。それを雇用形態別で見ると、21年5月時点で、小学校の通常学級の担任は正規教員が88.40%だったのに対し、臨時的任用教員が11.49%だった。小学校の特別支援学級では、正規教員は76.17%で、臨時的任用教員は23.69%に跳ね上がり、ほぼ4分の1を占めている。中学校の学級担任ではこうした傾向がさらに顕著で、通常学級では臨時的任用教員は9.27%だが、特別支援学級では23.95%を占める。そうした臨時的任用教員さえ確保できず、主幹教諭や管理職が学級担任を代替しているケースも多い。

 この調査結果からは、年度当初であっても正規教員だけでは小中学校の学級担任を確保できず、非正規教員に依存している自治体が増えている実態が浮かんでくる、こうした傾向は、児童生徒のニーズに応じて特別支援学級を設置しようとするとき、さらに顕著になる。

 こうした正規教員と非正規教員の割合は、自治体間のばらつきが大きいことも見逃せない。文科省の調査によると、国が標準と定めた教員定数に対し、21年度に都道府県や政令市が実際に配置した教員の充足率は全国平均で101.8%となり、このうち正規教員が92.9%で、非正規教員の臨時的任用教員が7.3%、非常勤講師等が1.6%を占めていた。教員定数に占める正規教員の割合が最も大きいのは東京都で104.5%となり、正規教員だけで教員定数を上回っている。最も小さいのは沖縄県で82.3%にとどまり、教員の5.8人に1人が非正規教員となっている=グラフ参照

 

 教員定数の95%以上に正規教員を充てている自治体をみると、東京都の104.5%に続き、福井県98.9%、北海道98.8%、仙台市98.3%、鳥取県98.2%、愛媛県97.2%、名古屋市97.0%、新潟県96.0%、富山県95.7%、横浜市95.4%、札幌市・川崎市・新潟市それぞれ95.3%、山梨県95.2%となる。

 正規教員の割合が低い順にみると、沖縄県の82.3%に続き、奈良県85.9%、岡山市86.0%、堺市86.7%、宮崎県・長野県それぞれ88.0%、鹿児島県88.3%、大阪府88.4%、さいたま市88.7%、福岡県・埼玉県それぞれ89.2%となっている。

 非正規教員の問題は、2001年の義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)の改正で導入された「定数崩し」という政策にさかのぼる。この法改正によって、正規教員の定数を複数の非正規教員に分割して換算し、自治体が人件費を抑制することが可能となった。

 地方自治制度の中で教職員の任免権者は各自治体になるので、こうした正規教員と非正規教員の割合について、文科省はこれまで自治体の判断に関わることを避けてきた。これに対し、今回の永岡文科相の発言は、自治体それぞれの事情に配慮しながらも、「正規教員を基本とした計画的な採用を進めるため」という国全体の目的を掲げ、「目標とする正規教員の割合などを各自治体で設定し、その目標値に向かって積極的に正規教員の採用を進めてほしい」と踏み込んでいる。実際に各自治体の判断で正規教員の割合に目標値が設定されることになれば、非正規教員への依存に一定の歯止めがかかる可能性もある。

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