過去20年間に世界各国で大学への進学者が大きく増え、日本も17ポイント増加したものの、公的支出に占める教育支出の割合は7.8%で国際的にみて低水準となっているため、高等教育段階では私費負担の割合が67%に達し、各国と比べて大学進学に必要な費用が「家計頼み」となっている状況が10月3日、経済協力開発機構(OECD)が公表した報告書『図表でみる教育2022年版(Education at a Glance 2022)』で明らかになった。記者会見したOECDのアンドレアス・シュライヒャー教育スキル局長は「日本では大学進学率がいい数字になっているが、提供されている教育ローンには商業的なローンが多い。そのために多くの若者が大学を出た時に多額の負債を抱えてしまったり、家族が負債を負ったりという問題が発生している」と述べ、奨学金制度の見直しを促した。
OECDが毎年公表している『図表でみる教育』は世界各国の教育を巡るデータを比較した報告書で、2022年版では日本について高等教育と教育支出の観点から分析している。
25歳から34歳の年齢層における高等教育修了者の割合をみると、日本は21年に65%となり、00年から17ポイント増えた。OECD平均は47%で、同じく21ポイント増加している。この年齢層における高等教育修了者の割合が最も高いのは韓国(69%)で、カナダ(66%)、日本(65%)、ルクセンブルク、アイルランド(ともに63%)と続いた。
シュライヒャー局長は「この20年間、世界で大学教育に進む人たちが大きく増える革命が起きている」と説明。大学教育を受けた資格を持っていると、金融危機などが起きた時にも失業しにくいことをデータで示した。
次に19年時点で、在学者1人当たりの年間教育支出をみると、日本では、初等教育で9379ドル、中等教育で1万1493ドル、高等教育で1万9504ドルとなっており、「日本のレベルはOECD平均と同じくらい」(シュライヒャー局長)だった。
しかし、日本では、高等教育になると、教育支出の私費負担の割合が67%に達し、OECD平均の31%に比べて2倍以上に跳ね上がる。日本の場合、初等教育と中等教育では私費負担の割合は7%で、OECD平均の10%よりも低い。高等教育になると、一気に私費負担が増えるのが、日本の大きな特徴となっている。高等教育に必要な教育支出は「家計頼み」という姿が浮かび上がってくる。
こうした日本の教育負担の特徴は、教育支出の国際比較からも読み取れる。まず、国内総生産(GDP)に対する初等教育から高等教育までの教育支出は、19年時点でOECD平均の4.9%に対し、日本では4.0%だった。国と地方自治体を合わせた公的な教育支出だけでみると、日本はGDPに対して3.0%となり、これもOECD平均の4.4%を下回っている。
この公的な教育支出について、図表でみる教育2022年版では、国と地方自治体を合わせた行政機関の支出の合計にあたる一般政府総支出に対し、その割合を教育段階別に集計し、国際比較を公表した=グラフ参照。
これをみると、初等教育ではOECD平均の3.4%に対して日本は2.9%、中等教育では同じく4.3%に対して3.3%、高等教育ではOECD平均の6割に満たない1.6%の財政支出しか割いていない。順位をみると、初等教育から高等教育までの合計である7.8%は、5番目に低い水準となる。高等教育だけをみると、ルクセンブルク(1.0%)、ギリシャ(1.5%)に次ぎ、日本、イタリア、ハンガリー(ともに1.6%)が低い順で3番目になっている。こうした数字からも、日本の高等教育では国や自治体による公的な負担が国際的にみても低水準で、家計負担によって成り立っていることが分かる。
こうした日本の状況を踏まえ、シュライヒャー局長は「私費負担が高いこと自体が問題というわけではない。能力があるけれども、お金がない学生たちをどのように政府が支援をすることができるかということが重要だ」と指摘。イギリスやオーストラリアなどの事例に触れながら、具体的な政策対応として奨学金制度の整備を挙げ、「日本で提供されている教育ローンは、商業的なローンが多い。もっと所得と連動したローンを提供することによって、学生に対するリスクを減らし、若者が大学教育にアクセスできることが大切になる」と説明した。
その上で、現在の日本の高等教育に対する奨学金制度について、「多くの若い人たちが大学は出たものの、たくさんの負債を抱えている。もしくは家族が負債を抱えてしまっている。日本ではローンを借りて大学に行くことはできるかもしれないけれども、最終的にそのための負債を抱えてしまっていることに問題があるのではないか。進展はあるけれども、まだこの問題が残っていると思う」と懸念を表明。
「政府が学生のためのローンを保障するのは大変お金のかかることにみえるかもしれないが、実際は政府にとって、とても良い投資になる。高いスキルを持った人間が大学から生まれてくれば、税金を払う人になるし、社会に対して貢献をする人になる。教育への投資は良い投資だと考えている」と言葉を結んだ。
高等教育の修学支援では、20年度から低所得世帯の学生に授業料の減免と給付型奨学金の支給を行う高等教育の修学支援新制度がスタート。文科省によると、制度開始から2年目となる21年度には31万9000人への支援を行い、住民税非課税世帯の進学率が54.3%となり、制度開始前に比べ13.9ポイント増えた。9月2日には修学支援新制度の拡充などを盛り込んだ教育未来創造会議の工程表が閣議に報告され、24年度から対象を中間所得層にも広げ、多子世帯や理工系・農学系の学部で学ぶ学生の負担軽減を図ることが明記された。同じく24年度から奨学金の「出世払い」を導入し、現行の貸与型奨学金を返還者の判断で柔軟に返還できるように仕組みを見直すとともに、大学院生を対象に修了後の所得に応じた返還・納付を可能とする新たな制度を創設することも盛り込んでいる。