先端技術を取り入れた農業教育に取り組む東京都立園芸高校(並川直人校長、全日制課程〈園芸科・食品科・動物科〉の生徒421人)は10月18日、報道向けの授業公開を行った。日本初の園芸学校であり、東京ドーム2.3個分の広大な校地を誇る同校は、今年度から2年間「TOKYOデジタルリーディングハイスクール」(先端技術推進校)に指定されている。同校の授業をのぞくと、1人1台端末を活用し、同校の圃場で得られたデータを分析する生徒たちの姿があった。
同校1年生園芸科の「農業と環境」の授業では、生徒たちが1人1台端末を活用して、気象データの相関を調べていた。班で仮説を立てた後、実際にエクセルを使って気温と湿度、土壌水分、土壌湿度などのデータを分析。これらのデータは、同校の圃場に設置されたセンシング機器を使って取得しているもので、圃場に関するさまざまな環境要素のデータがダッシュボード上で見られるほか、データをダウンロードして分析することもできる。
授業を受けていた1年生の播磨彩さんは「エクセルでグラフを作るのは難しかったが、(さまざまな項目に)関係があるのが目に見えて、分かりやすかった」と感想を寄せた。授業を担当した戸部孝綱指導教諭は「グループで共同編集の機能をうまく使いながら、協力・協働して作業を進められることを意識した。仮説設定は3年生で行う課題研究にもつながるため、しっかり力を付けさせたい」と語った。
同校ではこれまでもSTEAM教育やPBLを充実させ、センシング機器などの技術も活用してきたが、今年度の「TOKYOデジタルリーディングハイスクール」指定に伴い、より現場の教員のニーズが高いデータが収集できる次世代型の機器を導入した。それにより実際、校内のナシ園のデータを確認していた教員が、土壌水分が少ないことをいち早く察知して水を与えたことで、品質の良いナシが収穫できたという事例があったという。
また動物科では、イヌなどの動物にウェアラブル端末を装着し、活動量などのデータを可視化する取り組みを実施している。例えばデータから、夜中でも活動量が下がらないことが明らかになり、その原因を調べたところ、ベッドの環境のせいで睡眠不足になっていたことが分かったという。
同校の並川校長は「農業教育の不易流行を大切にしている。これまで培ってきた農業に関する基礎・基本はきちんと学習しつつ、新しい農業ソリューションや、スマート農業の技術についても学習機会を作りたい」と語る。また「データを操作できるだけでなく、そこから何が分かるのかを考え、どう活用するかが重要。これからの不透明な時代を生きる生徒たちには、農業を学ぶとともに、農業を通じて課題を発見し、解決することを学んでほしい」と呼び掛ける。