高校における通級による指導の成果と課題 検討会議で報告

高校における通級による指導の成果と課題 検討会議で報告
高校における特別支援教育の必要性について兵庫県教委から報告があった検討会議(YouTubeで取材)
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 文科省の「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」は10月18日、第4回会合をオンラインで開いた。特別支援教育を必要とする児童生徒が増加し、大部分の授業を通常の学級で受けながら、障害に応じた特別の指導を特別な場で受ける「通級による指導」などの充実が求められる中、兵庫県と東京都の高校における通級による指導の取り組みが報告された。委員からは中学校から高校への引き継ぎの工夫について質問が出るなどした。

 兵庫県教委からは、同県の高校における通級による指導について報告があった。同県では通級による指導を受けている児童生徒数は年々増加しており、今年度は4668人(小中高校)に上っている。また、中学校で特別支援学級に在籍していた生徒のうち約3割が、同じく通級指導対象者のうち約9割が高校(公立、私立)に進学している。

 そうしたことから、同県では中学校から高校に特別な教育的支援の引き継ぎを行うようにしており、今年度の実施状況調査によると、引き継ぎを行った中学校数は294校(99.0%)、引き継いだ生徒数は1292人だった。引き継ぎを受けた高校からは「引き継ぎ内容を全教職員に周知し、各授業での個に応じた指導を検討することができた」などの声が上がっているという。

 同県では2018年度から県立高校9校で通級指導がスタート。今年度は自校通級が20校、巡回指導が10校にまで増えており、県教委は通級指導運営協議会を設置したり、通級指導担当者研修会を実施したりするなどしている。

 県立高校の通級指導を受けた卒業生が昨年度までに93人となり、これまでの成果について同県教委担当者は「発達障害などのある生徒への心理面、情緒面への適切な対応ができた。また、通常学級における授業の理解促進と、生徒指導上の課題解決につながっている」と話した。

 一方で、全ての県立高校での実施には至っていないことから、「どの高校に進学しても希望すれば通級による指導が受けられるよう、巡回による指導を拡充したい。また高校の教員への一層の周知と理解促進が必要だ」と課題を挙げた。

 笹森洋樹委員(国立特別支援教育総合研究所発達障害教育推進センター上席総括研究員兼センター長)からの「中学校と高校は所管が違ってくるので、引き継ぎが大変だと思うが、どのように行われているのか」との質問に、同県教委担当者は「基本的には個別の支援計画を引き継いでもらう。加えて、連携シートという共通の様式を作っており、保護者の同意が得られたら、高校合格発表後に速やかに引き継ぐというルールやマニュアルを作成している」と答えた。

 また、宮崎英憲委員(全国特別支援教育推進連盟理事長)からは通級指導担当者への研修で重視していることについて質問があり、同県教委担当者は「卒業後の生活に向けて、生徒本人が自分の苦手なことや得意なことを理解し、支援が必要な時には支援を受けられる力を付けることが大事だ。教員にはそうした力を付けるためにはどうすればいいのかを研修で学んでもらっている」と話した。

 続いて馬飼野光一委員(東京都立荻窪高校校長)からは、都立荻窪高校における通級による指導について報告があった。

 馬飼野委員は都立高校における発達障害の可能性のある生徒の在籍状況について、「発達障害の可能性のある生徒は全日制であれば40人に1人、定時制であれば7人に1人の割合で在籍している」と述べ、「この割合から、全ての学校、学年、学級に発達障害のある生徒が在籍しているという課題のもと、通級による指導だけでなく、在籍学級などを含む学校全体で組織的に取り組みを進める必要がある」と強調した。

 都では昨年度から教員が外部人材(高校通級支援員)と共に指導する体制が整備され、全都立高校で通級による指導が実施可能になった。同校では現在、生徒14人が通級による指導を利用しており、アセスメントアプリを活用した自己分析や、野菜を栽培し、収穫したものを地域の子ども食堂に届けるなどの取り組みを行っている。

 こうした取り組みについて、馬飼野委員は「最初は興味がなかった生徒も、地域の人に喜ばれると、次はいつ行くのかなど喜びが芽生えていた。地域と連携した取り組みは、教育的効果が非常に高い」と生徒らの変容を話した。

 氏間和仁委員(広島大学大学院人間社会科学研究科准教授)は同校の取り組みを評価した上で、「障害の種類によって差異がないように、引き続き取り組んでほしい」と要望。荒瀬克己座長(教職員支援機構理事長)は「野菜を育てて地域の子ども食堂に持っていくなど、自立支援の中で生徒たちが達成感を感じたり、またやりたいという気持ちが芽生えたりしたことを聞き、こうしたことを積み重ねていくことが大事だと改めて感じた」と述べた。

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