2024年度にスタートさせる高等教育修学支援新制度の中間所得層への拡充について、文科省は10月18日の検討会議で、大学生本人を含めて扶養されている子供が3人以上いる「多子世帯」を優先的に支援対象とする新制度の概要を提示した。多子世帯に続く支援対象の優先順位として学費負担が大きい私立大学の理工農系学生を挙げ、次に国公立大学の理工農系学生とした。対象となる中間所得層の年収や支援額の水準については「財源との関係で決定される」として、今後、政府内で調整する考えを示したが、年収上限については高等学校等就学支援金で私立高校の生徒が加算対象となる年収上限の約600万円、支援額については修学支援新制度の満額の4分の1に当たる年間約40万円を目安として挙げた。
20年度に創設された高等教育修学支援新制度は現在、年収に応じて3段階に分かれており、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)で授業料と生活費が実質的に無償化され、年収300万円以下では授業料と生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。文科省は、この日開かれた高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議の第3回会合で、現行の3段階に加えて、新たな制度として年収380万円を超える中間所得層を支援対象とする新区分を創設する考えを説明した。
中間所得層の支援対象としては、政府の教育未来創造会議が今年5月にまとめた第一次提言で、多子世帯や理工農系の学生を挙げている。こうした支援対象の優先順位について、文科省は▽多子世帯▽私立大学の理工農系学生▽国公立大学の理工農系学生--の順とする考えを示した。その理由として、修学支援新制度が19年10月に消費税率を10%に引き上げた際の増税分を財源に、少子化対策として創設された制度の目的を踏まえ、「3人以上の子供を育てている多子世帯への支援を最も優先するべきだ」と説明。理工農系学生への支援では、私立大学の学費負担が国公立大学よりも大きいことを挙げた。
支援対象となる多子世帯の定義については、「大学等に在籍する学生の世帯に、学生本人含め『扶養される子供』が3人以上いること」とした=グラフィック1参照。3人以上の子供を扶養している中間所得層の世帯で、第1子が大学生になれば支援対象となる。一方、第1子が社会人になって扶養対象から外れ、扶養している子供の人数が2人以下になった場合には、第2子や第3子が大学生になっても、支援対象にはならない。第1子が社会人になっても、4人以上の兄弟で扶養対象の子供が3人以上いれば、その世帯の大学生は支援対象になる。
大学などの高等教育機関のうち、支援対象となる理工農系をどのように特定するかについては、学部や学科ごとに判断し、学位の分野が「理学」「工学」「農学」の学部・学科を対象とする考えを示した。
また、理工農系への進学は、世帯収入が増えるほど進学率が高く、「世帯収入600万円未満の進学率が全体平均より特に低い」とのデータも示した=グラフィック2参照。文系への進学では、世帯収入が400万円未満になると進学率が特に低くなる。こうしたデータを基に、文科省は「文系は世帯年収が400万円を超えると、収入が増えても進学率は変わらなくなる。一方、理工農系は年収に比例して進学率が高くなる。このため、理工農系に支援を行えば、進学率を高める効果があると考えられる。修学支援新制度による支援には限りがあるので、理工農系への支援を優先するべきではないか」と説明した。
こうした新制度の概要について、室橋祐貴委員(日本若者協議会代表理事)は「多子世帯を支援するのはもちろん賛成だが、子供が多ければ多いほど費用がかかるので、子供の数に応じて年収要件を緩和する方が適切ではないか。また、扶養している人数で支援対象になるかどうかを考えると、末っ子の場合、ほとんどが支援の対象外になってしまう。少子化対策としての効果が限定されてしまう懸念はないのか」と指摘した。
赤井伸郎委員(大阪大学国際公共政策研究科長)は「どうして理工農系を優先するのか、なぜ理工農系に医学部が入らないのか、もっと説明が必要ではないか。国公立大学では理工農系と文系の学費はほぼ同じなので、公平性を理由に理工農系だけを優先することはできないだろう。成長分野の人材育成が狙いなのであれば、それをきちんと説明するべきだ」と話した。
仁科弘重委員(愛媛大学学長)は「多子世帯でも第1子が社会人になれば、あとの子供は支援対象ではなくなってしまう。少子化が進む中で、3人の子供を育てて、人口を増やしてくれた、という社会への貢献を評価しなくていいのか」と指摘。これについて、赤井委員は「厳しいようだが、住民税の課税も扶養している人数で線引きしている」と述べ、扶養している子供の人数で支援対象を判断する制度設計は妥当との見方を示した。
現行の高等教育修学支援新制度では、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)の場合、支給額が最大となる私立大学のケースで、授業料約70万円を上限とする減免と、生活費として自宅外生に返済不要の給付型奨学金約91万円が支給され、合わせて年間約161万円の支援を受けることができる。4人世帯で年収300万円以下では授業料や生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。文科省によると、制度開始から2年目となる2021年度に31万9000人への支援を行った。住民税非課税世帯の進学率は54.3%となり、制度開始前に比べ、13.9ポイント増加。低所得層の大学進学を支える制度として機能し始めている。
こうした支援制度を中間所得層に拡大するに当たり、政府の教育未来創造会議は、今年5月にまとめた第一次提言で、多子世帯や理工農系という、学生の属性に応じて支援を中間所得層に拡充する考え方を打ち出した。来年度予算の編成方針として今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)でも、この方針が踏襲された。今年9月に閣議に報告された教育未来創造会議の工程表では、24年度から支援制度の対象を中間所得層にも拡大するスケジュールが示されている。
高等教育修学支援新制度の関連予算は、消費税を財源とする少子化対策の社会保障関係費としてこども家庭庁に計上され、無利子奨学金事業と合わせて文科省が執行する。来年度(23年度)の政府予算要求では、従来分として5196億円が盛り込まれるとともに、中間所得層への支援拡充に向けて実施機関となる日本学生支援機構の奨学金業務システムの改修が必要になることから、この経費を予算編成過程で調整する「事項要求」として計上している。