児童生徒が家庭で端末を使って学習するために、自治体が貸し出し用のモバイルWi-Fiルータを購入するための費用を補助する文科省の「家庭学習のための通信機器整備支援事業」について、会計検査院は10月19日、調査の結果、6割以上のルータが2021年度末までに一度も貸与されていないと指摘した。ルータの貸出希望者が教育委員会の想定よりも少なかったことや、端末を持ち帰って家庭学習に使うことが進まなかったことが主な理由で、会計検査院では文科省に対し、家庭学習以外での活用事例を周知することなどを提言している。
補助事業は、新型コロナウイルスの感染拡大などで臨時休校となった場合などでも、児童生徒が自宅でオンライン授業を受けられるようにするために、経済的に厳しい家庭に対してルータを貸与する目的で始められた。
会計検査院がこの事業の有効性を検証するため、20年度に242自治体で整備されたルータ17万8325台を抽出し、21年度末までの使用状況を調べたところ、ピーク時でも6万5010台しか家庭に貸し出されておらず、残りの11万3315台は一度も貸与されていないことが分かった。さらに、193自治体ではピーク時でも貸与率は50%未満で、31自治体では整備したルータが家庭学習に全く使用されていなかった。
ルータの貸与率が低調となった原因を把握している自治体に、その内容を確認したところ、「ルータの貸し出し希望者が想定より少ないため」が74自治体、家庭学習は緊急時のみ実施する方針となっていることや、家庭への端末の持ち帰りを検討中などといった「家庭学習が進んでいない」が56自治体あった。
会計検査院では、本来の目的である家庭学習での使用が見込めないルータが相当数あることから、これらのルータは何らかの活用を検討する必要があると指摘。文科省は補助事業のFAQで校外学習でも活用可能なことなどに触れているものの、それ以外の活用可能なケースが明確になっていないことから、自治体に対して、多様な有効活用の方法や用途をさらに詳しく情報提供していくべきだとした。
本来の目的である経済的に厳しい家庭への家庭学習への貸与以外のルータの活用について、会計検査院の担当者は「(自治体では)アイデアがあるようだが、FAQでは有効活用について『補助事業の趣旨を踏まえた適切な運用』としかなく、どうすればいいか分からずに躊躇(ちゅうちょ)しているようだ。文科省はどういう要望や活用性があるかを調査し、さらに貸し出しが進まない要因を幅広く分析した上で、制度設計上、どこまで許されるのかといったことを整理してほしい」と話している。