「都市部の一極集中が加速する」 部活動の地域移行でシンポジウム

「都市部の一極集中が加速する」 部活動の地域移行でシンポジウム
日本のスポーツ施設の状況について説明する神谷教授
【協賛企画】
広 告

 来年4月から段階的に始まる学校部活動の地域移行をテーマとした地方議員のためのシンポジウムが10月20日、オンラインで開催された。25都道府県から約100人の地方議員や教育関係者が参加。日本部活動学会会長の関西大学の神谷拓教授は、学校部活動の地域移行で多くの自治体が戸惑う理由について、日本のスポーツにかける予算の少なさや、スポーツ施設の少なさを上げ、「今、部活動を地域に移行しようにも、地域に部活動に代わるような組織も施設もない」と指摘した。また、参加した地方議員からは「このままでは部活動ができない地域から子どもたちが出ていってしまう」といった危機感が語られた。

 神谷教授は部活動の地域移行により多くの自治体で混乱が起きている要因として、性急な方針転換や、部活動の民間委託が同時に示されていることを指摘した。また、欧米諸国と日本の国家予算に占めるスポーツの割合や、スポーツ施設の数などを比較して説明。どちらについても日本がかなり少ないということがデータで示された。

 「例えば、ドイツでは347.9人に1つのスポーツ施設がある。これは何十年もかけて、目標を設定し、そこに近づけるように施設の整備を進め、予算をかけてきたからだ。施設が増えれば、スポーツクラブも増え、スポーツをする人も増える。日本も1972年にスポーツ施設の整備基準をつくったが、そもそもかなり低い水準を設定し、財源も付かず、まったく進まなかった」と説明し、「このような状況で、今、部活動を地域に移行しようにも、地域には学校部活動に代わるような組織も施設もない」と強調した。

 経産省が示した「未来のブカツ」ビジョン調査では、部活動がさまざまな運営主体が提供する地域のスポーツクラブ活動となったときに、部員20人だと週2回の活動で月9500円、週5回で月2万1500円の運営費が必要だと試算している。それに対し、保護者の妥当な家計負担額は3250円だった。神谷教授は「実際にかかるお金と保護者が支払えるお金はかなり差がある。このまま進むと、家庭の経済格差が顕在化する」と警鐘を鳴らし、「過去にも2回、部活動を地域に出そうとして失敗している。今回も、地域の施設もない、クラブも育っていない、支える人もいないという状況の中で地域に出そうと思っても、うまくはいかない」と述べた。

 また、これまでの議論の中では「子どもを中心に据える」視点が欠けていると指摘。「大人の論理で部活動の地域移行が進められている。子どもの権利を考えれば、本当は学校でも地域でも子どもの文化活動を保障していくべきで、そこに向けて必要な予算を付けていくことが大切だ」と強調した。

 続いて、高知県土佐町の鈴木大裕町議が、同町議会で9月14日に全会一致で採択された、「部活動の地域移行に関して、当事者である子ども、教職員、保護者などの声を十分に聞き、それぞれの地域の実情に合わせて進めること」などを求めた意見書について、作成した経緯や内容などを説明した。

 鈴木町議は「部活動の問題を通して、学校はどういう場所なのか、教員の仕事はどういうものなのかという、本質的な議論になる可能性を持っていると感じている。部活動をきっかけに、もっと教育の本質的な議論ができるのではないか」と訴え掛けた。

 その後は各地の議員が、地域の実状などに関して意見を交わした。福岡県那珂川市議会の吉永直子議員は、現状の部活動の地域移行に関して、自身の考えとしては「基本的に反対」とした上で、その理由について「こんな大きなことを国民的な議論もせずに進めていくのはどうなのか」と指摘した。また、同市では発達障害と診断される子どもが増加傾向にあり、そうした子どもたちは同市の療育センターと学校が連携して部活動に入ることができているが、「地域に移行したら、その子たちは部活動ができなくなるのではないか」と懸念を示した。

 島根県議会の岩田ひろたか議員は「今、本県では部活動の外部指導員を集めようとしている。松江市など中心地はまだいいが、中山間地域などでは人材確保に非常に苦労している。将来的に、部活動ができない地域からは生徒が出ていくことにもつながるのではないか」と話した。

 それに対し、鈴木町議が「部活動の地域移行の問題は、各都道府県における都市部の一極集中を間違いなく加速させるだろう」と指摘すると、岩田議員は「現にもう地方ではそれが起きている。非常に危機感を持っている」と述べた。

 その他に「実際、中学校教員の働き方は異常で、部活動がある限り、働き方改革はできない」という切実な声を訴える地方議員もいた。さまざまな意見が飛び交った中、最後に神谷教授は「教員も子どもも、やりたい人がやれる環境を整えることが大切だ。地方自治体に丸投げするのではなく、政治的なサポートも必要で、そのあたりの条件整備をこれから考えていく必要があるだろう」と締めくくった。

広 告
広 告