【特報】どうする給特法 萩生田政調会長の狙いを読み解く

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 2代前の文部科学大臣として40年ぶりに小学校の学級編制を見直し、「35人学級」を実現させた萩生田光一・自民党政務調査会長が、教員のなり手不足や処遇改善について抜本的な改革案を作り上げるため、党内に「令和の教育人材確保に関する特命委員会」を立ち上げ、自ら委員長に就いた。教育新聞の単独インタビューに応じた萩生田氏は、今回の取り組みが目指す最も重要な目標について「教員の志願者数をきちんと増やしていきたい」と述べ、そのために「制度と給与や働き方を含めて(教員の勤務環境を)しっかり作る」と力を込めた。萩生田氏が検討対象として挙げた項目は、教員養成大学や教員免許の在り方、処遇改善に直結する給特法の見直し、教員が本来業務に集中するための学校スタッフのさらなる充実--など多岐にわたる。教員増に向けて、小学校高学年で今年度から導入した教科担任制を低学年にまで広げていく案も明らかにした。新たな予算措置や法改正も視野に入れる萩生田氏の狙いと、現時点で想定されている改革の対象範囲を読み解いてみたい。

教員養成大学「教職をとる大学生は忙し過ぎる」
インタビューに応じる萩生田自民党政調会長(玉村勇樹撮影)
インタビューに応じる萩生田自民党政調会長(玉村勇樹撮影)

 教員の志願者数が減っている現状について、萩生田氏は「若い人の間ではいま、教師という職業は大変な職業、ブラックな職業だということが広まってしまっている。本当は第1志望が教師で、教育学部で学んでいたのに民間企業に流れている人たちがいる。最初の志をしっかり支え、背中を押してあげたい」と、課題を説明した。

 この課題への取り組みとして、まず実態調査の必要性を挙げた。具体的には「教職の資格を持っているのに、教員にならない人がどのくらいいるのか」「(教員を)辞めてしまう人たちがどういう年齢層でどのくらいいるのか、その理由は何なのか」といった調査を行うべきだとした。

 次に萩生田氏が強調したのが、教員養成大学に対する問題意識だった。「日本中に教員養成のための大学はたくさんあるのに、それが役に立っていないのではないか。(卒業生が民間企業に就職してしまい)教員を養成できない教員養成大学だったら要らないのではないか。だったら(定員の)人数を減らすといった、アメもムチも両方使いながら、(教員養成大学の)現場にも意識を持ってもらわないといけない。教育学部と言いながら、教育関連人材を育てていない学校もある。メスを入れたいと思っている」と述べた。

 教員養成大学のカリキュラムについても、学生にとって負荷が大き過ぎる、との認識を示した。「教職をとる大学生は、すごく忙しい毎日を送っている。時代の変化に合わせて、スクラップしないでビルドばかりずっと続けているわけだから、学生も大変だ。結果として、教員を志した学生たちが、残念ながら出口では教員になってないのだから、それは学びの中にも原因はあるのではないか。それを精査したい」。

 萩生田氏によると、11月16日に開かれた特命委員会の初会合では、小学校中学校の免許を一元化して同時に取得できるようにしてはどうか、との指摘が出た。これも教員を目指す学生の負担軽減を意識している、という。

給特法は見直しなのか廃止なのか

 教員の志願者数を増やしていくためには、萩生田氏が指摘する「教師は大変な職業、ブラックな職業」というイメージの背景にある、教員の長時間労働の問題を避けて通ることはできない。教員の長時間労働が常態化した背景には、1971年に制定された給特法で、公立学校教員の給与には、月額4%分に相当する額を基準とした教職調整額を上乗せして支給する代わりに、残業代は支給しないことが定められていることが大きな要因だとして、給特法の廃止を求める声も根強い。

 教員の長時間労働の解消に向け、給特法は教職調整額などの見直しで対応すべきか、それとも廃止して一般の公務員のように勤務時間に応じて残業代を支払うようにするべきか。真正面から萩生田氏に聞いてみた。微妙なニュアンスが多く含まれているので、発言を詳しく紹介する。

 「それを委員会がキックオフしたばかりで、委員長が『方向はこうだ』と言ってしまうと議論の妨げになるので、今日は控えたいと思う。いずれにしても分かっていることは、昭和の時代に作った給特法で、今の教員の働きに見合うフィー(賃金)を払っているとは、とても思っていない。この部分の改善も必要だと思う。あるいは給特法という制度が、果たしてこれから、そのボリュームさえ変えれば解決するのかというのは、幅広に議論していきたいと思っている」

 「他方、人材確保法によって、(教員は)一般の公務員ではない、という位置付けをされている。この(教員の)プライドは、大変であっても、先生たちにはぜひ持っていてほしい。それに見合う、どういう働き方、どういう給与体系が必要なのか、最後の出口で(特命委の)みんなで相談して、政府に提案したい」

 「なぜ、そうなのかと言うと、教員の働き方は、時間でなかなか評価しづらいところがある。教員はある意味、24時間365日、教員なので、休みの日に子供に何かあれば飛び出していって対応しなければならないこともある。そのくらい尊い仕事だからこそ、一般の公務員や同じ都道府県職員とは、給与体系が違う。今回『崇高な仕事』と表現したのだけれど、そういう崇高な仕事に携わる人は、時間で給料をもらう労働者とは意味がまた違うのではないか。そのプライドだけはうまく残して、いい制度が作れないかなと思っている」

 「教員の仕事は時間で割り切れない。例えば自己啓発のために新聞を読むとか、読書をするとか、専門書を読むとか、これは教員という職業をスキルアップしていくためには必要な作業だと思う。けれども、これは仕事かと言われると、非常に難しい。明日の授業のプリントを作るために残業している教員と、プリント作業は終わったけれども明日の授業のために参考文献を読みたいという教員がいる。これは仕事なのか、仕事ではないのか。私は仕事だと思っていいと思うが、一般納税者が学校に残って読書している時間の費用を残業代として払うことを認めるかというと、これは社会的な議論になると思う。そういうところを包含して『教員の仕事って大変だよね』というのが、4%の教職調整額の精神だった。この概念は、すごく大事なものだ。だからといって、この4%を膨らませると、頑張らない教員の分も膨らんでしまい、そうすると頑張っている教員たちはやる気がなくなってしまう。このメリハリをどうやってつけていくかが、今回われわれ(特命委)が議論していく重要なテーマだと思う」

 とても丁寧な答えだったが、これだけでは、見直しか廃止か、どちらの方向を向いているのか分からない。そこで、給特法自体の役割はまだあると考えているかと、もう一押ししてみた。

 「それもみんなで話し合ってから。給特法は見直しが必要だと思うけれども、『給特法の精神』は必要なんじゃないか」

 こう言葉を選んだ後、萩生田氏は、給特法を廃止した場合の懸念点を指摘した。

 「仮に、都道府県職員と同じ給与体系で残業代を払うとなったときに、その残業の査定は誰がするのか。残業の指示はしたのかとか。そうすると(法定労働時間を超えた残業を命じるときのために労使が結ぶ)36協定も必要とか、今とは違うギスギスした学校現場が出来上がってしまうのではないかと思う」

 「本当は、教員はお金のことを心配しないで『子供たちを頼みますね』という環境をオールジャパンで作れるのが一番いい」

 給特法は見直しなのか廃止なのか。法改正の議論になるので、与党である自民党特命委が実質的に方向性を決めることになる公算が大きい。議論のポイントは「今の教員の働きに見合うフィー(賃金)の支払い」とともに、「崇高な仕事に携わる教員のプライドを守る」ということになるだろうか。特命委は来年5月ごろまでに結論をまとめる見通しだ。

教員増 小学校の教科担任制を低学年に広げる案も

 教員配置の増員やそれに必要な人件費を考えるとき、国と地方の関係も重要な課題となる。小泉政権下の「三位一体改革」で国から地方に財源と権限を移管して以降、教職員の給与を支える義務教育費国庫負担金の国庫負担割合は2分の1から3分の1に減らされ、教員配置は自治体の判断により委ねられることになった。給特法を見直して、教員の残業代を実態に合わせて支払うことになれば、自治体の財政にも影響は大きい。学校教育を巡る自治体間の格差が拡大する懸念もある。萩生田氏は文科大臣を退任したときの記者会見で、「義務教育に必要な経費は国が責任を持って補助していくべきだ」と述べたこともある。実際に、一部の自治体では、国が定めた教員定数を完全に配置できていなかったり、非正規教員の割合が高くなったりしているケースがでている。今回の特命委では、教員配置の増員や国と地方の関係について、どのような議論を考えているのか。

 萩生田氏はまず、「国の関わりを強くしてもいいと思うけれども、それは地方分権を進めている中で、時代に逆行するというジレンマがある」と指摘。

 教員定数に対する配置不足については「定数通りの人数を配置していないのは、本来、都道府県がいけないことなのではないか。そういうのは、国がもうちょっと厳しく見ていく必要あるかもしれない」とした上で、「定数に見合う3分の1のお金は国が払っている。だけれど、『お金がないから(教員を)雇わない』という自治体があるということは、残念ながら3分の1だけでは、ついていけない自治体があるということだと思う。そこはもうちょっと国が寄り添ってあげるべきだし、必要かなと思う」と、柔軟な姿勢をみせた。

 さらに、義務教育費国庫負担金の国庫負担割合を再び2分の1に戻すことについて、今回の特命委で議論するつもりがあるのか聞いたところ、「うーん、みんなで議論してみて」と言葉を濁した。また、今年5月に自民党の教育・人材力強化調査会(会長=柴山昌彦元文科相)が提起した教育国債については、「そこまで議論が広がるかどうか分からない。教員の採用、処遇、人数は(特命委で)議論することになると思うけれど、財源論まで広がるかどうかは分からない」と述べた。

 教員を増やしていく考え方としては、11月16日の特命委の会合で、小学校高学年で今年度から導入した教科担任制を低学年まで広げていく案を提起したことを明らかにした。

 「(国庫負担金の)負担率の問題なのか、(教員の)頭数、マンパワーの問題なのか。手法はいくつかあると思う。(国の)補助率、負担率は変わらないけれども、これだけ子供たちが多様化してきて、学びも幅が広がってきている中で、いくら小学校低学年だからといっても、担任の教員がピアノからお絵描きから、算数、体育まで全部やるのは無理だ。だから、専科の教員を増やしていく。そういうことで少しずつみんなが隙間を持つことができると、子供たちに届く(教員の)目は増えていく」

 「要は学校のマンパワーを増やしましょうね、ということ。理科の教員は理科、体育は体育、音楽は音楽とやっていけば、必然的に学校にいる教員の数が増えるわけだから、その中でみんなの仕事をシェアしてもらう」

 教員が本来業務に集中するために、学校スタッフの充実も積極的に取り組む考えを示した。教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)については「やってみたが、これは効果がある。もう学校でかけがえのない存在になりつつある。教員たちがプリントを印刷するのではなく、授業の準備をしてもらうような人たちはいた方がいい」と評価した。

 また、年度当初の小学校の学級担任では臨時的任用教員が11.49%を占めるなど、自治体によっては、非正規教員への依存が高まっていることには「ちょっと考えられないこと。いろいろな財政事情が各自治体にあるのは分かるけれど、小学校や中学校の教員を減らして、そのお金をどこで使うのか。優先順位が違わないかと言いたい。小学校や中学校の教員が足りないまま、平気で新学期のその日を迎える自治体の首長は、首長としての責任を果たしていないと思う」と批判した。

児童心理や外国語 教員の専門性を高めて質を上げる取り組み

 特命委では、教員の質を上げることにも取り組む考えだという。教員の質というと、これまでは指導力不足などネガティブな側面から取り上げられることが多かったが、そういう発想ではないらしい。萩生田氏は、児童心理に通じたスクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)としても活躍できる教員を例に挙げて説明した。

 「スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーは、今まで以上に必要になってくる。学校に週1回来るだけではなく、いつでも相談や目配りができるような体制にするには、教員の中にこういう専門的な知識を持った人たちを増やしていく。デュアルユースな教員を養成していく必要があると思う」

 デュアルユースな教員とは耳慣れない言葉で、学校現場からは教員の負担をまた増やすのか、とすぐに批判が出そうだが、萩生田氏は「専門性の高い教員を増やす」という考え方から捉えている。

 「国家資格の心理師を取るには6年ぐらいかかる。しかし教員は子供のことだけ専門的に分かればいいのだから、この国家資格の人でなくてもいい。スクールカウンセラーとかスクールソーシャルワーカーと呼んでいるが、そういう国家資格はない。国家資格を持つ人たちは、高齢者や介護の相談にも乗れる能力がある。でも、学校では、そこまでの資格は必要なくて、学校現場で起こりうる子供たちの心理的な対応ができる専門職であればいい。そういう資格を作れば、大学院の2年間で取ってもらい、教員の普通免許と合わせて6年間で教壇に立てて、なおかつスクールソーシャルワーカーとして児童生徒の相談相手になれる、という教員が生まれる。そういう教員が各学年1人か2人いたら、子供たちにとってもすごくいいのではないか」

 萩生田氏は別の例として、「今までみたいに、教職課程で4年間勉強して、22歳で慌てて教壇に立たなくてもいい。英語の教員は1年間海外でネイティブイングリッシュを勉強して、喋れる人たちに教壇に立ってもらった方がいい」と説明。これも教員の質を上げる一つの考え方だという。

「(教職調整額の)4%では済ませない。(学校の)人数も増やす」

 特命委は月1回のペースで会合を開き、学校関係者や有識者などへのヒアリングを行った上で、来年4~5月に基本的な方向性を取りまとめる。文科省は現在、全国の小中学校、高校を対象に2016年度以来、6年ぶりとなる教員勤務実態調査を進めており、その速報値が4月末ごろまとまる見通しとなっている。特命委では、その速報値も踏まえて改革案をまとめ、24年度予算の編成方針として政府が閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)に反映させる考えだ。萩生田氏は「政府の骨太の方針にしっかり書き込むために、今から議論をして、その議論の出口と教員勤務実態調査をよく俯瞰して、そこにさらなる政策をのせる」と説明した。

 教員勤務実態調査の速報値を受けて、給特法の取り扱いについて財務当局も含めた政府内部の議論や中教審での審議が始まるとみられているが、萩生田氏は特命委が先行して議論を進め、改革案をまとめることで、政策決定の主導権を握っていく考えとみられる。

 そうした思惑について、今回のインタビューで萩生田氏は多くを語らなかったが、あまりお金をかける気はないのかと聞いたところ、「お金はかかる。今の(教職調整額の)4%では済ませないのだから。(学校の)人数も増やすのだから」と即座に言い返し、教員の採用、処遇、人数の改善に向け、新たな予算措置や法改正に取り組む決意をにじませた。

 そして、「ちょっとのぼせた言い方をすれば」と断って、「政権与党の特命委員会を、(35人学級を実現した)あのときの文部科学大臣だった萩生田が先頭でやるのだから、本気で出口を作る。だから教員の皆さんには奮い立ってほしい。大事な仕事をしているというプライドを忘れないで、子供たちと向き合ってほしい」と言葉を結んだ。

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