義務教育の意義や学びの多様性について検討している中教審特別部会の「義務教育の在り方ワーキンググループ」は11月21日、第2回会合を開き、個別最適な学びに取り組む学校現場の委員からの報告を受け、議論した。その中で中谷一志委員(広島県廿日市市立宮園小学校長)は、同小が2020年度から取り組んでいる自由進度学習の取り組みを紹介し、その成功の背景に校長の働き掛けや、教職員間の活発な対話などがあったことを明かした。
宮園小が自由進度学習に取り組んだきっかけは、20~21年度の広島県教委の実証事業で指定校となったこと。中谷委員によれば当時、児童は素直で真面目に取り組む一方、自分で考えて行動することに課題があった。教職員は授業改善への意識が高く、丁寧に指導するあまり、「転ぶ前につえを渡しているのではないか」と感じられることもあったという。
取り組みを始めるにあたって、まずは教職員の間で「主体的な学びとは」「自立的な学び手を育てる授業とは」「自己選択、自己決定の場面は必要」「学びを振り返って調整する学び方の指導が大切」など、目指す子供像の共有や授業観の転換についての対話を行ったという。中谷委員はまた「教員を2つのチームに分け、チームで教材研究から学習環境作りまで行う」など、教職員の間での協働が活発に行われていると語った。
さらに県教委の指導主事が伴走者となることで、「客観的な立場から、教員の実践を価値付け、対話により意識化させてくれることで、教員のモチベーション向上に大きな役割を果たした」と語った。合わせて、GIGAスクール構想により1人1台端末が「大変有効な文房具」になったこと、同小の校内に広い廊下や大きな空き教室があったことも奏功したという。
中谷委員は校長として「自由進度学習をすることが目的ではなく、自律した学び手を育てることが目的だ」と繰り返し伝えて教職員と対話したり、自由進度学習のイメージを伝えるために、自身が授業をして教職員に見せたりしたという。それが教員の初めの一歩を後押しすることとなり、「この単元でやるので、見に来てほしい」「自分もやってみる」と、子供の姿に手応えを感じた教員から取り組みが広がっていったという。
ただ、「組織的な取り組みにするには、推進者を育てることが重要。思考が柔軟でチャレンジ精神に富む若手教員が実践を始めたが、経験値の高いベテラン教員が動いてこそ、組織的な取り組みになる」と考えた。そこで、授業改善意欲が旺盛な研究主任と、授業力はあるが自由進度学習に戸惑いのあった教務主任にまず、先進校を視察させたという。
質疑応答で望ましい学級規模について聞かれた中谷委員は「本校は各学年1学級程度だが、それぞれの学級は35人ほどの規模。先生方は頑張ってくれているが、もう少し(1学級の人数が)少ないと良いな、というのが本音だ。ただ、子供たち自身の間で自然に発生する協働もあるので、ある程度の人数はほしい。肌感覚でいえば、30人以下がよいと感じる。また大規模校の方が、準備にかかる負担は少なく連携できると思う」と答えた。
秋田喜代美委員(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)は「個別最適な学びは自由進度学習に限らないが、ここで重要な点は、その背景に教員の連携があることや、それぞれの子供たちが生かされるような選択を、子供たちができるような形になるよう、教員が準備しているところではないか」と指摘した。