次期教育振興基本計画 ウェルビーイングなど指標案検討

次期教育振興基本計画 ウェルビーイングなど指標案検討
オンラインで開かれた第10回会合
【協賛企画】
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 次期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定作業を進めている中教審部会は11月22日、第10回会合をオンラインで開いた。基本的方針や目標の案などで示されている概念が多岐にわたることを踏まえ、文科省が概念整理のためのイメージ図を提示した上で、それぞれの目標案に即した指標案を示し、それに対する活発な議論が行われた。

【図表】文科省が示した「概念整理検討のためのイメージ図」
【図表】文科省が示した「概念整理検討のためのイメージ図」

 今回の会合では、文科省が概念整理検討のためのイメージ図=図表を提示。「2040年以降の社会を念頭に」とした諮問事項に立ち返ることを意識し、「2040年以降の社会を見据えた社会課題の解決」という項目を置いた。また、基本方針に登場するポイントのうち、特に主要な概念である「ウェルビーイング」は、それ以外の各項目と並列ではなく、上位概念になるのではないかという意見を踏まえ、全体に関わる項目として配置した。

 次いで、次期計画の目標案や基本施策案に即して、それぞれの具体的な指標案が示された。例えば「豊かな心の育成」では、主観的ウェルビーイングに関する指標の向上のほか、「幸福感や友人関係の満足度などに関する指標を設定する」とされた。また「いじめはどんな理由があってもいけないことであると考える児童生徒の割合の増加」「子供の不読率(1カ月に1冊も本を読まなかった子供の割合)の減少」などが加えられた。

 また「多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂」では、「困りごとや不安があるときに、先生や学校にいる大人にいつでも相談できると感じている児童生徒の割合の増加」「公立学校における日本語指導が必要な児童生徒のうち、日本語指導など特別な指導を受けている者の割合の増加」などが盛り込まれた。

 「教育DXの推進・デジタル人材の育成」では、児童生徒の情報活用能力について指標を設定することを検討するとしたほか、「ICT活用指導力に関する研修を受講した教員の割合の増加」「ICTを活用した授業頻度の増加」などが指標案として示された。

 さらに「指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化」では、「教育委員会における働き方改革の取り組み状況・在校等時間の公表割合の増加」「教員採用選考試験における優れた人材を確保するための取り組み状況の改善」などを盛り込んだほか、ICTを活用した校務効率化の取り組み状況について指標を設定することを検討するとした。

 こうした概念整理検討のためのイメージ図と指標案について、委員からはさまざまな意見が出された。まず、イメージ図については「現場の先生も理解しやすいと感じる」「地域とのつながりは図の右上に示されているが、それに加えて、学校の中での先生や友人との信頼あるつながりを示す項目が、中央に近い部分に必要なのではないか」という声があった。

 指標案については、「ウェルビーイングという言葉は抽象度が高いが、いかに日々の学び、暮らしの中で満足感や自己肯定感を持っているかなど、日本型の評価指標を示すことができればよい」「確かな学力については、学力調査の結果だけで上がった、下がったと言わないようにすることが重要。ICTを用いて、個別最適な学びと協働的な学びがどのくらい実現しているかという観点を、うまく指標化して入れられないか」といった意見があった。

 他にも「イノベーションを担う人材育成は、人文・社会科学と自然科学を融合して初めて実現するもの。現状の『自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合の増加』などの指標は、自然科学に重点化され過ぎていないか」「子供の自死や自死未遂をゼロにする、相談につながっていない不登校の子供を減らす、教員のやりがいを高めるなど、全体として絶対に追い掛けていかなければいけない、最上位指標を示す必要はないか」といった声も寄せられた。

 渡邉光一郎部会長(第一生命ホールディングス株式会社取締役会長、日本経済団体連合会副会長)は「答申段階で概要を説明する際や、学校現場に向けて情報を発信する際には、今回の概念整理検討のイメージ図を活用してほしい。現行計画では、参考指標や重複する指標などを示しているが、指標にどのようなアクセントを付けるか、次回までに整理してほしい」と文科省側に要望した。

第10回会合で示された基本的方針と目標・主な指標の案

基本的方針(案)

日本社会に根差したウェルビーイングの向上・共生社会の実現に向けた教育の推進
グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
計画の実効性確保のための基盤整備・対話

次期計画の目標(案)と、指標例(案)のうち主な新規・修正項目(抜粋)

目標1:確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成

  • 全国学力・学習状況調査の結果を分析し、具体的な教育指導の改善に活用した学校の割合の増加
  • 幼稚園・幼保連携型認定こども園・保育所の教育・保育全体における小学校との接続状況(ステップ0~4)の改善

目標2:豊かな心の育成

  • 主観的ウェルビーイングに関する指標の向上
  • いじめはどんな理由があってもいけないことであると考える児童生徒の割合の増加
  • 子供の不読率(1カ月に1冊も本を読まなかった子供の割合)の減少
  • 過去に、文化芸術の鑑賞・体験機会がない子供達が、学校などでの鑑賞・体験事業を通じて、文化芸術への興味関心を 持った割合の増加

目標3:健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成

  • 1週間の総運動時間(体育授業を除く)が60分未満の児童・生徒の割合
  • 卒業後にもスポーツをしたいと「思う」「やや思う」児童・生徒の割合

目標4:多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂

  • 困りごとや不安があるときに、先生や学校にいる大人にいつでも相談できると感じている児童生徒の割合の増加
  • 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒のうち、日本語指導など特別な指導を受けている者の割合の増加

目標5:主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成

  • 地域や社会をよくするために何かしてみたいと思う児童生徒の割合の増加

目標6:グローバル社会における人材育成

  • 英語力について、中学校卒業段階でCEFR のA1レベル相当(英検3級など)以上、高等学校卒業段階でCEFRのA2レベル 相当(英検準2級など)以上を達成した中高生の割合を一定割合以上にすることなどの指標を設定することを検討

目標7:イノベーションを担う人材育成

  • 自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合の増加
  • 大学(学部)の理工系の学生に占める女性の割合の増加

目標8:生涯学び、活躍できる環境整備

  • この1年くらいの間に生涯学習をしたことがある者の割合の増加
  • これまでの学習を通じて身に付けた知識・技能や経験が、自分の人生を豊かにしていると回答した者の割合の増加

目標9:学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上

  • コミュニティ・スクール導入自治体についての指標を設定することを検討
  • 保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講じている自治体数の増加
  • 地域との協働による取り組みや活動の、学校の教育水準の向上効果についての指標を設定することを検討
  • 地域学校協働活動の参画状況についての指標を設定することを検討
  • 保護者や地域と協働活動を行った学校についての指標を設定することを検討

目標10:地域コミュニティーの基盤を支える社会教育の推進

  • 社会教育士の称号付与数の増加

目標11:教育DXの推進・デジタル人材の育成

  • 児童生徒の情報活用能力について指標を設定することを検討
  • ICT活用指導力に関する研修を受講した教員の割合の増加
  • ICTを活用した授業頻度の増加

目標12:指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化

  • 教育委員会における働き方改革の取り組み状況・在校等時間の公表割合の増加
  • 教師の業務負担を軽減するため、教員業務支援員をはじめとした支援スタッフの参画を図っている教育委員会の割合の増加
  • ICTを活用した校務効率化の取り組み状況について指標を設定することを検討
  • 次世代の校務デジタル化を構築済みの自治体の割合の増加
  • 教員採用選考試験における優れた人材を確保するための取り組み状況の改善
  • 教員研修の効果的な実施に係る取り組み状況の改善
  • 小学校・中学校の教員免許状の併有状況の改善

目標13:経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保

  • 大学間連携に取り組む大学数の増加

目標14:NPO・企業・地域団体などとの連携・協働

  • 地域における学校と団体などとの連携状況についての指標を検討

目標15:安全・安心で質の高い教育研究環境の整備・児童生徒などの安全確保

  • 学校法人における外部資金獲得状況の改善

目標16:各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ

  • 国・地方公共団体の教育振興基本計画策定における子供の意見の聴取・反映の状況の改善
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