インクルーシブ教育どう進める? 勧告受け教員も議論を

インクルーシブ教育どう進める? 勧告受け教員も議論を
インクルーシブ教育の政策の方向性について講演する加瀬教授
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 国連の障害者権利委員会の日本への勧告を受けて、ICTを活用したインクルーシブ教育について研究している東京学芸大学附属小金井小学校ICT部会は12月10日、特別支援教育に携わる教員らがインクルーシブ教育を考えるシンポジウムを都内で開催した。「障害のある子どもの分離された特別教育が永続している」として、インクルーシブ教育に関する国の行動計画を採択するよう求めた勧告に対し、戸惑いを抱きながらも学校現場でどのようにインクルーシブ教育を実現していけばいいか、前向きに議論していく必要性を話し合った。

 シンポジウムではまず、特別支援教育を専門としている東京学芸大学の加瀬進教授が、スウェーデンを事例にインクルーシブ教育の政策について講演した。加瀬教授は、1994年にユネスコとスペイン政府の共催で開かれた「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」で、インクルーシブ教育が初めてうたわれたサラマンカ声明の内容を確認。「特殊学校(もしくは学校内に常設の特殊学級やセクション)に子どもを措置することは、通常の学級内での教育では子どもの教育的ニーズや社会的ニーズに応ずることができない、もしくは、子どもの福祉や他の子どもたちの福祉にとってそれが必要であることが明白に示されている、まれなケースだけに勧められる、例外であるべきである」としている一方、「特殊学校は、インクルーシブ校の発展にとって貴重な資源」とも明記している点を挙げ、インクルーシブ教育が通常の学校の改革を志向していることを説明した。

 さらに加瀬教授は、障害だけでなく、粗暴行為がみられる子ども、移民の子どものための言語学級など、さまざまな学校が制度的に連携しているスウェーデンの政策を紹介。子どものニーズに応じた複数の学校・学級が存在するのと同時に、同じ地域に育つ子どもとして、ひとまとまりに捉えることができる政策を模索することも考えられるとし、「障害者権利委員会からの勧告は断罪しているわけではない。われわれはこれを、これからの日本の教育のビジョンを打ち立てるための契機としたい」と話した。

 シンポジウム後半では、特別支援教育に関わる教員らが登壇し、勧告を学校現場がどう受け止めるべきかや、それぞれの実践を発表した。

学校現場でのインクルーシブ教育について教員らが意見交換したパネルディスカッション
学校現場でのインクルーシブ教育について教員らが意見交換したパネルディスカッション

 特別支援学級を受け持っている東京都狛江市立狛江第三小学校の森村美和子教諭は勧告の内容について「率直なところ、モヤモヤや葛藤と共にある」と切り出し、「学校は多様な子どもがいることを前提としているか」と問題提起。この問いを教職員間で考える研修に取り組んできたことを話した。その上で森村教諭は「このモヤモヤを見つめるためには、当事者の視点、子どもたちの視点を大事にしないといけないと思う」と強調した。

 また、情緒の通級指導などの経験がある東京都八王子市立第八小学校の川上尚司教諭は「通常の学校の特別支援教育を一度抜本的に見直して、特別支援教育の経験が豊富な教員が地域の学校を巡回し、指導や支援を行う形にしてはどうか」と提案。そう考える背景として、特別支援教育を専門としている教員が学校現場に十分に配置されない問題を指摘した。

 シンポジウムを主催した東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭は「勧告を読んだときに、これで特別支援教育に携わっている先生が、自分の仕事を否定されたような気持ちになったら残念だと思った。同時に、なかなかショッキングな勧告ではあったが、インクルーシブ教育をどう進めていけばいいのか、議論が起こるきっかけになればいいなとも思った。ずっと通常学級を変えていきたいという思いがあり、この勧告がそことつながれば」と、シンポジウムの狙いを話し、教員一人一人の創意工夫によって、小さなことからインクルーシブ教育を進めることができるのではないかと呼び掛けた。

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