中間層の多子世帯に大学修学支援 文科省検討会議が報告案了承

中間層の多子世帯に大学修学支援 文科省検討会議が報告案了承
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 2024年度にスタートさせる大学など高等教育に対する修学支援新制度の中間所得層への拡充について、具体案を議論していた文科省の検討会議は12月12日、中間所得層を対象とする新たな支援区分を設け、扶養されている子供が3人以上いる「多子世帯」の学生を優先的に支援対象とする報告案を了承した。その理由として少子化対策の観点を強調し、「実際の子供の数が理想の数を下回る理由として教育費を挙げる割合は、特に子供3人の場合に顕著である」と説明した。それに続く支援対象には、政府が掲げる「DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の変革に向けた人材育成」を重視するとして、理学・工学・農学系の学部・学科の学生を挙げた。理工農系への支援では、国公立大学の学生よりも、学費負担が大きい私立大学系の学生に配慮するよう求めた。

 20年度に創設された高等教育修学支援新制度は現在、年収に応じて3段階に分かれており、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)で授業料と生活費が実質的に無償化され、年収300万円以下では授業料と生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。これに対して、政府の教育未来創造会議は今年5月の第一次提言で、現在、修学支援新制度の対象となっていない年収380万円を超える中間所得層に対象範囲を拡大し、負担軽減の必要性が高い多子世帯や理工系・農学系の学生を支援対象に加える方向性を提示。9月にはこうした修学支援新制度の拡充を24年度にスタートさせるとした工程表を閣議に報告した。検討会議は、教育未来創造会議の提言を受け、今年8月から5回にわたって具体案を議論してきた。

 了承された報告案では、現在、修学支援新制度を中間所得層に対象範囲を拡大するに当たり、現行の3段階に加え、新たに4番目の支援区分を新設することを提起。中間所得層の支援対象については「財源確保とのバランスを取って議論を行うため、優先順位を付けることが必要である」と指摘した。

 対象となる中間所得層の所得制限や支給額については、財源問題があるため今後、政府内で調整するとしたが、所得制限については高等学校等就学支援金で私立高校の生徒が加算対象となる年収上限の約600万円、支給額については修学支援新制度の満額の4分の1に当たる年間40万2000円を参考として挙げた。

 中間所得層の支援対象の具体的な優先順位については「政府としての大きな課題である『少子化対策』『デジタルやグリーンなど成長分野の振興』に資するものとする」と説明。少子化対策の観点からは多子世帯、デジタルやグリーンなど成長分野を振興する観点からは、理学・工学・農学系を挙げた。理学・工学・農学系への支援では、DXやGXの変革に向けた人材育成の重要性を指摘するとともに、「国公立より私立の方が授業料などの負担が重い実態を踏まえる必要がある」とした。

 支援対象となる多子世帯の定義については「学生本人含め『扶養される子供』が3人以上いること」とした。検討会議のヒアリングでは「子供2人から支援対象にすべきだ」との意見も出されたとしつつも、「半数を超える夫婦が2人の子どもを産んでいる一方で、3人目以降を断念している一番の理由は、子育てや教育にお金がかかり過ぎることを挙げて」いると指摘。支援対象は子供3人以上の世帯と判断した理由について「3人の子育て・教育費用がかかっているという現時点での状況を重視することが適当と考えられる」と説明した。

 理学・工学・農学系の範囲については、▽大学・短期大学・高等専門学校の場合は、学部又は学科を単位とし、学位の分野が「理学」「工学」「農学」の学部・学科を対象とする▽。専門学校の場合は、学科を単位とし、学科の属する分野が「工業関係」「農業関係」の学科を対象とする--とした。

 今回の報告案は、検討会議の役割だった教育未来創造会議の第一次提言の内容だけにとどまらず、修学支援新制度の在り方について、関係団体のヒアリングなどから浮かび上がってきた今後の検討課題を列挙したことも、大きな特徴となっている。

 少子化対策としての修学支援新制度について、さまざまな教育団体や都道府県から「所得制限の緩和や撤廃により、多子世帯への支援を拡充すべきだ」との意見が数多く寄せられ、検討会議のメンバーからも賛同する意見が出たことを明記。21年の出生数は81万2000人となり、これまでの将来人口推計より7年程度早く出生数が減少するなど、少子化が急速に進展している一方、「理想の子供の数が3人以上だが、予定はそれを下回る夫婦において、『子育てや教育にお金がかかり過ぎるから』を選択する割合が高い」として、教育費負担の軽減を少子化対策の「候補の一つ」とした。

 また、所得制限を設けずに多子世帯への支援を進めるよう求める意見に対しては、「その実現には恒久的な財源の確保が必要である」と指摘。政府に対して「日本社会の根幹を揺るがしつつある少子化問題に、どのような形で対応するのが有効であるか、引き続き検討を進められたい」と対応を求めた。

 報告案について、福原紀彦座長(日本私立学校振興・共済事業団理事長)は「これから国や社会を支える若い人たちに、いいメッセージになってほしい。全てではないけれども、着実な一歩になっていることを世の中に示せる報告になればいい」と総括した。

 文科省の池田貴城高等教育局長は「教育未来創造会議の第1次提言を踏まえて中間所得層への支援拡充を進めてきたが、これをきっかけにして高等教育政策、あるいは福祉政策とも連携をしながら、しっかりと支援の拡充について検討していく必要があると思っている」と述べた。

 現行の高等教育修学支援新制度では、住民税非課税世帯(4人世帯で年収270万円以下)の場合、支給額が最大となる私立大学のケースで、授業料約70万円を上限とする減免と、生活費として自宅外生に返済不要の給付型奨学金約91万円が支給され、合わせて年間約161万円の支援を受けることができる。4人世帯で年収300万円以下では授業料や生活費の3分の2、年収380万円以下で同じく3分の1が支給される。文科省によると、制度開始から2年目となる2021年度に31万9000人への支援を行った。住民税非課税世帯の進学率は54.3%となり、制度開始前に比べ、13.9ポイント増加した。高等教育修学支援新制度の関連予算は、消費税を財源とする少子化対策の社会保障関係費としてこども家庭庁に計上され、無利子奨学金事業と合わせて文科省が執行している。

高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議がまとめた報告案の主な内容

  • 中心的な検討課題である修学支援新制度の中間層への対象拡大については、財源確保の状況とバランスを取り、優先順位を付けながら議論していくべきものである。優先順位付けにあたっては、政府としての大きな課題である少子化対策およびデジタルやグリーンなど成長分野の振興にいかに資するかという観点に立ち、本制度の見直しをこれら2つの大目標に向けた手段としても捉えて、検討を行った。
  • 少子化対策の観点からは、子供3人を扶養する世帯を対象とした。本検討会議において団体等から聴取した意見のなかでは子供2人という意見もあったが、実際の子供の数が理想の数を下回る理由として教育費を挙げる割合は特に子供3人の場合に顕著であるなど、少子化対策としての効果を重視した。
  • 本年5~6月に相次いで取りまとめられた政府方針等(「教育未来創造会議第一次提言」、「骨太の方針2022」、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」)においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)といった大きな変革の波の中にあって当該分野の人材育成が重要という共通した課題認識が示されている。
     これらの分野の振興には、要素技術の研究開発だけではなく社会実装まで見据えれば、さまざまな学問分野を背景に持つ多様な人材の協働が必要ではあるが、より関わりの強い学問分野の人材育成を推進する観点から、理学・工学・農学系を対象とすることとした。なお、理学・工学・農学系の支援においては、国公立より私立の方が授業料等の負担が重い実態を踏まえる必要がある。
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