【特報】どうする給特法 一時しのぎから脱却する契機に

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 給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の抜本的な見直しを求めてインターネットで署名活動を行っている「給特法のこれからを考える有志の会」は12月12日、与野党の代表者と署名の呼び掛け人・賛同人らが給特法と教員の働き方改革の改善策を討論する院内集会を開いた。講演を行った有識者からは、給特法廃止までの猶予期間を設けて、管理職を中心に働き方改革へのインセンティブを持たせる提言や、給特法の運用をはじめとする日本の労働環境を巡る「一時しのぎ」の考え方を変えない限り、根本的な問題解決にならないといった指摘がなされた。

5党の議員による給特法の見直しの見解

各党の議員が給特法の見直しに向けた考えを説明した
各党の議員が給特法の見直しに向けた考えを説明した

 東京都千代田区の参議院議員会館で開かれた院内集会には、自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党の国会議員が出席。

 元文科相の柴山昌彦衆院議員(自民)は「私(が文科相)のときから外部人材の登用や校務のDX化などいろいろ取り組んでいるが、十分に成果が上がっていないのではないかという指摘もある。いかにして先生のウェルビーイングを確保できるかということを議論するのに、給特法のさらなる改善・改革に向けた努力が必要ではないかということを、問題意識としてわれわれも共通して持っている」と強調。自民党内で先月立ち上げた「令和の教育人材確保に関する特命委員会」について紹介し、「来年の(公立学校教員の)勤務実態調査の最新データを基に、来年夏の骨太の方針(政府の「経済財政運営と改革の基本方針」)に向けて、この方向性をしっかりと打ち出していきたい」と見通しを述べた。

 立憲民主党の「『次の内閣』ネクスト文部科学大臣」である菊田真紀子衆院議員は、給特法の抜本的な改善は必要だとの認識を示した。その上で「単に給特法を廃止するだけで全てが解決するわけではない。何よりも過重な教職員の業務量を大幅に軽減するとともに、定数の充実やスタッフ職の増員、さらには非常勤教職員の環境改善もセットで行う必要があると考えている。文科省も給特法の法制的な枠組みを含めた処遇の在り方について今後検討するとのことだが、その場しのぎの弥縫策ではなくて、教職員の働き方とその環境を根本から考え直さなくては、教職をブラック職場から脱却することはできない」と指摘した。

 特別支援教室専門員の経験もある日本維新の会の堀場幸子衆院議員は「日本維新の会は学校の先生の仕事の内容をしっかりと教科指導に集中できる環境をつくる。現場を見ていると福祉的な対応が非常に多いと感じている。不登校の子どもに対する対応、出欠の確認に始まり、さまざまな対応が学校の中にある。福祉的な領域ではないかというところまでかなり多いと認識している。まずは仕事をどのように定義するのか。私どもは給特法が労働基準法に準ずるものであるべきだと考えているが、労働基準法に当てはめてしまうと残業だらけだ。仕事の内容をどう定義するかが重要だと認識している」と話した。

 また、国民民主党代表の玉木雄一郎衆院議員は「(教職調整額の)4%をさらに増やすというよりも、きちんと時間を確保することだ。余計な超過勤務を減らすこと、そして本当に子どもたちと向き合う時間をきちんと確保することにつながる給特法の見直しが必要で、これは避けて通れない問題になっていると思う。皆さんからのご意見をしっかりうかがった上で、わが党の中でも議論するが、これは党派を超えて取り組んでいかなければいけない日本の課題だ。前向きに取り組んでいきたい」と呼び掛けた。

 日本共産党の吉良よし子参院議員は「長時間労働を是正するためには、まずはやっぱり、働いた分の残業代は、少なくともきちんと払わせる制度改正をするのは待ったなしの課題だと思っている。合わせてすでにこの間に教員は9000億円に相当する残業を行っている。一人当たりに直すと年180万円にもなるわけで、そうした分を見越して、正規・非正規共に手当の改善というのも制度改正を待たずに進めていかなければいけない。単純に給与改定、処遇改善をすれば終わりの話ではなく、長時間労働を是正するということが一番の課題だと思う」と強調した。

今こそ「一時しのぎ」にしない改革を

講演した金井教授(中央)と小室社長(右)
講演した金井教授(中央)と小室社長(右)

 この日の院内集会では、呼び掛け人の一人で、学校の業務改善のコンサルティングも行っている小室淑恵ワーク・ライフバランス代表取締役社長と、自治体行政学が専門の金井利之東京大学大学院法学政治学研究科教授が講演した。

 小室社長は同社が関わってきた学校での働き方改革の事例を取り上げ、校長や教頭の権限で改善できる業務が多くあり、時間外労働の時間は半減することも不可能ではないと強調。働き方改革が学校で進まない背景に、管理職が働き方改革に取り組んでいることが評価されなかったり、取り組んでいなくても降格されたりしない構造上の問題があると指摘した。

 その上で小室社長は、給特法の廃止を決め、その施行日については一定の猶予期間を設けることを提言。「この日がデッドラインと決めた瞬間にゲームチェンジが起きる。ただし、猶予を2年ほど設ける。それによって働き方を本気で変えようとする学校が出てくる。そこに対しては、飛び移るためのさまざまな支援をする。そうすると現在は9000億円ほどの残業があるが、これが半減する。そのうちの国庫負担3分の1ということを考えると、国は1000億から1500億円程度を用意すればいい。このタイムラインで考える必要がある」と説明し、廃止までに業務改善を進めようとしている学校に、管理職に対する教員の360度評価の導入や働き方改革の取り組み姿勢を評価に入れることを条件に、知識的・金銭的な支援をすることを提案した。

 その一方で、「絶対にやってはダメなこと」として、教職調整額を増やすだけで様子見をすることや、現状の仕事内容のまま人員や予算を増やすことを挙げ、あくまでも先に給特法の廃止期日が示され、管理職による本気の働き方改革を促さなければ、労働環境の改善にはつながらないとくぎを刺した。

 金井教授は、そもそも給特法が立法された当時、教員からの超勤訴訟が多発する中で一時的な解決策として打ち出された「一時しのぎ」のものであると指摘した。

 さらに、給特法下でも、本来は定期的に勤務実態調査を行い、時間外労働の実態に合わせて給与改訂がされるべきものだったにもかかわらず放置されてきたと批判し、「労働三権の代償措置が全く取られていないのに何の対応もしてこない。給特法がいけないというより給特法を一時しのぎとして使ってきた日本社会の問題だ。逆に言えば、給特法が廃止されてもその(一時しのぎの)精神がなくならない限り繰り返されるのが、この問題の根深さだ」と、議論の行方に警鐘を鳴らした。

 その上で金井教授は今回の議論を、他の業種でも起きている「サービス残業」や「名ばかり管理職」、裁量労働制などの問題と合わせて、あらゆるサービス従事者、労働者の公平な分配のある社会の在り方を考える契機にすべきだと強調した。

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