24年度から教員採用試験を早期化 中教審、教員制度改革を答申

24年度から教員採用試験を早期化 中教審、教員制度改革を答申
答申を受け取る永岡文科相(左)と渡邉・中教審会長
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 教員の養成・採用・研修に関する制度改革を議論してきた中教審は12月19日、総会を開き、教員採用選考試験の早期化や複線化や、専門性を持つ教員を増やすための教員養成課程と教員免許の見直しなどを盛り込んだ答申を取りまとめた。文科省は答申に盛り込まれた制度改革のスケジュールをまとめた改革工程表を示し、教員採用選考試験について2024年度から早期化や複線化による新日程での試験を実施する方針を掲げた。教員免許の見直しでは25年度から新たな教育課程に移行する。

 総会では、渡邉光一郎会長(第一生命ホールディングス会長、日本経団連副会長)が答申案に対するパブリックコメントが746件寄せられたことを報告。こうした意見も踏まえ、答申の総論部分に「家族以外で子供たちの最も身近な大人である教師はロールモデルにもなりやすいため、教師がライフサイクルのあらゆる時点において自分らしく働いている姿を見せることは、子供たちにとっても意義があると考えられる」「各任命権者や服務監督権者においては、教職員のメンタルヘルス対策に関する原因分析や効果的な取り組みの研究に努めるとともに、文科省においても必要な支援を講じるべきである」などと追記したことを説明し、答申として総会の了承を得た。

 続いて、渡邉会長が取りまとめた答申を永岡桂子文科相に手渡した。永岡文科相は「子供は国の宝であり、礎である。教師はそんな子供たちの人生を大きく変える存在であると思っている。教師が教職生涯を通じて学び続けながら、子供たちとの人格的な触れ合いを通じて一人一人の学びを最大限に引き出すことができるのが、大変重要であると考えている。文科省としては、答申内容の周知広報とともに、答申を踏まえた教師の養成、採用、研修の改革について、省をあげてスピード感を持って取り組みたい」と謝辞を述べた。

 答申は2部構成になっており、第Ⅰ部の総論では、教師の養成・採用・研修を巡る改革の理念を提示。第Ⅱ部の各論では、2021年3月の大臣諮問で挙げられた5つの検討項目(①教師に求められる資質能力の再定義②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方③教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し④教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化⑤教師を支える環境整備)について、それぞれ具体的な対応策を示している。このうち、教員免許更新制については、中教審は21年11月に先行して審議まとめを行い、すでに廃止と教員研修の記録作成を新たに義務付ける関連法が国会で成立しており、その内容を再録した。

 総論の柱となる今後の改革の方向性では、「子供たちの学び(授業観・学習観)とともに教師自身の学び(研修観)を転換し、『新たな教師の学びの姿』を実現する」との理念を掲げ、「主体的に学び続ける教師の姿は、児童生徒にとっても重要なロールモデルである」と位置付けた。

 子供たちの多様化とAIやロボティクスの発展など社会の変化への対応が迫られる中、学校が組織としてのレジリエンスを高めることが重要で、そのためには教師一人一人の専門性を高めるとともに、民間企業の勤務経験者を教師に取り込むなど「教職員集団の多様性が必要」と指摘。同時に質の高い教職員集団を形成するためには「特に『心理的安全性』の確保は不可欠」であり、学校管理職の役割が「一層重要」になっていると指摘した。

 学校管理職には「従前より求められている教育者としての資質や的確な判断力、決断力、交渉力、危機管理等のマネジメント能力」に加え、「さまざまなデータや学校が置かれた内外環境に関する情報について収集・整理・分析し共有すること(アセスメント)や、学校内外の関係者の相互作用により学校の教育力を最大化していくこと(ファシリテーション)が求められる」と明記した。

 各論では、教師に求められる資質能力については、文科省が22年8月31日に教員の資質向上に関する指針を改正し、各自治体が指標の内容を定める際の柱として、従来の「教職に必要な素養」「学習指導」「生徒指導」に、「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」「ICT や情報・教育データの利活用」を新たに加えて再整理したことを説明した。

 これに関連して、教員養成大学の教職課程について「理論と実践の往還を重視した教職課程への転換」を強調した。教育実習を全ての学生が一律に教職課程の終盤に履修する形式をやめ、「それぞれの学生の状況に応じた柔軟な履修形式が認められるべきである」と指摘。具体的なイメージとして、従来のスタイルだけでなく、「通年で決まった曜日などに実施する教育実習」や「早い段階から『学校体験活動』を経験し、教育実習の一部と代替する方法」などを挙げた。いずれも現行制度で実現可能としている。

 理論と実践の往還を重視した教職課程への転換について、文科省の藤江陽子総合教育政策局長は中教審総会の席上、「特に教育実習、学校体験活動、介護等体験については、現行制度で対応可能なものについては今年度中に周知し、規則等の改正が必要なものについては、23年度当初に実施することを考えている」と説明した。

 また、教員採用選考試験の実施スケジュールを巡り、答申は各自治体が「早期化・複線化について検討する必要がある」と提起した。その理由として、民間企業の就職活動の早期化が進み、国家公務員試験の実施時期の前倒しも検討され、教員採用選考試験の実施時期には就職活動を事実上終了している学生が増加していることなどを挙げている。

 ただ、一部の自治体から「近隣の自治体との兼ね合いから独自の早期化が難しい」「結果的に他の自治体の教員採用選考試験との重複合格により、辞退者が多く発生する可能性がある」といった懸念が上がっているとして、答申では「国と任命権者、教員養成大学などの大学関係者等が協議しながら、(中略)志願者の視点に立って、養成と採用との一体的な改革を進めていくことが必要である」との表現にとどめた。

 教員採用選考試験の早期化・複線化について、文科省はすでに任免権者である都道府県・政令市の教育委員会や教員養成大学との協議を進めている。こうした教委や大学との協議について、藤江局長は「23年6月までに一定の結論を示したい」と説明。その協議結果を踏まえ、改革工程表では、24年度から早期化・複線化による新日程の教採試験や教育実習などを実施し、25年4月の新規採用者に適用するスケジュールを示した。

 教員免許について、答申は義務教育9年間を見通した制度改革の必要性を盛り込んだ。具体的には、▽強みや専門性を持つ教員を確保するため、四年制大学に最短2年間で二種免許状を取得できる教職課程を開設する▽小学校高学年で導入されている教科担任制の優先実施教科(外国語・理科・算数・体育)について、中学校課程を開設する大学の学科でも小学校教員の養成を認める▽中学校教諭の免許状保有者に対して、小学校教諭の教員資格認定試験の一部試験を免除する--などを挙げている。

 改革工程表では、こうした教員免許の見直しについて、23年度に教員養成課程の認定基準の改正やモデル開発を行い、25年度から新たな教職課程を実施するスケジュールを明示している。

 教員養成大学に対しては、学部段階においても学校現場での教職経験を持つ実務家教員を大学教員として登用することが重要だと指摘。教員への就職率向上に向け、高校生への働き掛けや、学校体験活動などを通じて大学生に教員志望のモチベーションを維持してもらう取り組みを求めた。教員就職率が低い教員養成大学に対しては「入学定員の見直しや大学間の連携・統合に係る検討を進めていくことが必要である」と明記し、厳しく対応する姿勢を示した。

 答申は、最後の「おわりに」で、中教審から学校現場へのメッセージをつづった。「子供たちにとって、自分に寄り添ってくれたり、温かく見守ってくれたりした教師に出会い、『自分もこうなりたい』と強く心打たれた経験こそが、次代の教師の育成の第一歩である」と指摘。「そうした意味からも、学校指導・運営体制の効果的な強化・充実や学校における働き方改革を強力に推進するとともに、学校を心理的安全性が確保できる職場にすることが不可欠である」と結んだ。

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