教職員の処遇や勤務制度の見直しに向けた検討が政府や与党で始まる中、教職員の時間外勤務は改善傾向が続いているものの、改善幅が小さくなってきていることが12月23日、文科省が全国の教育委員会に行った学校の働き方改革を巡る取り組み状況の調査で明らかになった。時間外勤務が「月45時間以下」となっている割合を4月から7月までの平均でみると、小学校は2019年の51.5%から22年の63.2%に、中学校は同じく36.1%から46.3%に、高校は同じく53.5%から63.4%に改善した。しかし21年と22年を比べると、改善幅は小学校で1.9ポイント、中学校で1.8ポイントと小幅の改善にとどまり、高校ではマイナス0.4ポイントと悪化した。学校行事や部活動などによって教職員の時間外勤務がなかなか減らないという、業務改善の「壁」もうかがえる調査結果となった。過労死ラインの目安とされる月80時間を超える時間外勤務を行っている教職員は、22年4~7月の平均で小学校4.4%、中学校13.7%、高校10.3%となっており、依然として多いことも確認された。
調査では、在校等時間から所定の勤務時間を差し引いた教職員の時間外勤務について、都道府県・政令市と市町村の全国全ての教育委員会(計1794)に聞いた。
調査結果によると、時間外勤務の上限と定められている「月45時間以下」の割合を4月から7月までの平均でみると、小学校では19年が51.5%、20年が69.9%、21年が61.3%、22年が63.2%で、19年と22年を比べると11.7%増加した。中学校では36.1%、62.9%、44.5%、46.3%で、19年と22年の比較では10.2%増加した。高校では53.5%、77.9%、63.8%、63.4%で、19年と22年を比べると9.9%増加した。20年には新型コロナウイルス感染症による長期休校や分散登校などがあったため比較しにくいが、教職員の時間外勤務は過去4年間で改善傾向が続いていることが分かる=グラフ参照。
しかし21年から22年の改善幅をみると、小学校で1.9ポイント、中学校で1.8ポイントと小幅の改善にとどまり、高校ではマイナス0.4ポイントと悪化した。
この背景について、文科省では「教委にヒアリングしたところ、21年の5月と6月にはコロナ禍の影響で運動会や修学旅行などの学校行事や部活動の大会などが行えないことがあったが、22年の5月と6月にはそれらの多くを行うことができ、このため、教員の時間外勤務が増えた、とのことだった。ただ、4月と7月は小学校、中学校、高校ともに『月45時間以下』の割合が増えており、教職員の時間外勤務は引き続き改善傾向にあると理解している」(初等中等教育局財務課)と説明している。
過労死ラインの目安とされる月80時間を超える時間外勤務を行っている教職員について、19年と22年を比べると、小学校は10.7%から4.4%に、中学校は25.4%から13.7%に、高校は18.9%から10.3%に減った。中学校で7.3人に1人の教員が月80時間を超える時間外勤務を行っている現状について、文科省では「月80時間を超える時間外勤務は、教員の健康管理を考えても、なくしていかなければいけない。都道府県の教委からは、学校や市町村教委によって取り組みに差があるとの指摘が出ている。やれることをやっていない学校や市町村に取り組みを促していきたい」(同)としている。
勤務実態の把握方法をみると、ICカードやタイムカードなど客観的な方法で把握している割合は、都道府県と政令市で100%、市区町村で93.3%だった。市区町村は昨年の85.9%から7.4ポイント改善しており、未実施の市区町村でも23年度以降に開始予定だと回答した。適正な勤務実態の把握は法律で義務付けられており、働き方改革のスタート地点として全国で進んできている。
学校と保護者の連絡手段のデジタル化については、都道府県93.6%、政令市90.0%、市区町村80.5%がすでに実施していることが分かった。市区町村では昨年度の調査で56.3%にとどまっており、大幅な改善となった。
永岡桂子文科相は12月23日の閣議後会見で、今回の調査結果について、▽時間外勤務は18年度以降継続して改善傾向にあり、働き方改革の成果が一定程度出ているものの、依然として長時間勤務の教職員も多い▽客観的な方法で勤務実態を把握している自治体は全体の9割を超えており、さまざまな取り組みの前提となる適正な現状把握が全国的に進んでいること▽連絡手段のデジタル化をはじめとする校務の効率化など、教員の業務の見直しは全体としては進んでいるものの、一層促進する必要がある--と3つの見方を示した。
その上で、「働き方改革の取り組みは着実に前進しているが、引き続き取り組みを加速していく必要があると考えている。国、学校、教育委員会が連携して、教師が教師でなければできないことに全力投球ができるような、そういう環境を整備するために、文科省が先頭に立って取り組んでまいりたい」と述べた。
21年から22年にかけての改善幅が小幅になったことに見解を求められた永岡文科相は「22年度の時間外勤務の状況については、21年度に新型コロナウイルスの影響によって見送っていた学校行事などを22年度は実施したという影響もあると考えている。また、自治体間や学校間の取り組み状況の格差もある」と説明。対応策として、(1)小学校における35人学級の計画的な整備や高学年の教科担任制の推進に向けた教職員定数の改善(2)教員の業務支援員をはじめとする支援スタッフの充実(3)校務のデジタル化など学校DXの推進--を挙げ、「23年度予算案に必要な経費を計上することとしている」と述べた。
教員の時間外勤務については、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)に基づく「公立学校の教師の勤務時間の上限に関する指針」によって、「1カ月の時間外勤務は45時間以内」「1年間の時間外勤務は360時間以内」とする上限が定められている。指針では、教員の勤務時間について、自主的・自発的な勤務も含めた在校時間と、研修や児童生徒の引率など校外での勤務も合わせて「在校等時間」として把握することを定めた。この「在校等時間」から所定の勤務時間を差し引いた時間が教職員の時間外勤務とされている。