SSWを中学校の9割に重点配置、業務支援員も増員 23年度予算案

SSWを中学校の9割に重点配置、業務支援員も増員 23年度予算案
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 政府は12月23日夕の臨時閣議で、一般会計総額114兆3812億円となる2023年度予算案を決定した。文科省関連は前年度当初比0.2%増の総額5兆2941億円。学校関連では、いじめや不登校、自殺者の増加などへの対応として、スクールカウンセラー(SC)とスクールソーシャルワーカー(SSW)の重点配置の拡充に過去最高の85億円を計上したほか、「ギフテッド」と呼ばれる特定分野に特異な才能のある児童生徒の支援に向けて新規で8000万円を盛り込んだ。教員の負担軽減では小学校の35人学級を4年生に適用するなど教職員定数を4808人改善、教員をサポートする業務支援員も増員し全国の14学級以上の公立小中学校に1人ずつ配置する。部活動の地域移行では中学校での部活動指導員の配置を前年並みに支援するものの、自治体の反発に配慮してコーディネーターの配置支援などは見送り、体制作りに向けた実証事業に取り組む。学校のICT環境整備では、トラブル対応などにあたるGIGAスクール運営支援センターの機能を拡充し、全ての学校が端末活用を「試行錯誤」から「日常化」のフェーズに移行することを目指す。

2023年度予算案の内容を説明する文科省幹部ら
2023年度予算案の内容を説明する文科省幹部ら

 文部科学関係予算5兆2941億円のうち、文教関係予算は前年度から82億円増え、4兆146億円となった。これに加え、先の臨時国会で成立した22年度第2次補正予算に6053億円が計上されており、23年度予算案に盛り込まれた各政策と一体的に執行することを見込んでいる。

いじめ・不登校対策、専門家の相談体制を強化 こども家庭庁との連携も

 23年度予算案では、いじめや不登校、自殺者の増加などへの対応について、学校現場や教育委員会だけでは対応できない児童生徒の課題が深刻化しているとして、来年4月に発足するこども家庭庁との連携を踏まえた政策対応が掲げられている。

 具体的には、専門家を活用した相談体制を強化するため、スクールカウンセラーを全ての公立小中学校2万7500校に1校当たり週4時間配置する従来の措置に加え、さらに週4時間の重点配置を1800校増やして5400校とする。スクールソーシャルワーカーは全ての公立中学校1万校に1校当たり週3時間を配置することに加え、さらに週3時間の重点配置を2100校増やして9000校とする。これにより、計算上は、中学校の9割に重点配置が可能となる=表1参照

 また、児童生徒支援センターなどを拠点とするオンラインカウンセリングの広域的な支援体制を新規に67カ所で整備する。

 こども家庭庁はいじめや不登校に関連して、子供の居場所づくり支援や、子供を守るための情報・データ連携、社会的養護を必要とする子供への支援の充実、アウトリーチ支援などに取り組むことにしている。文科省では、こども家庭庁との連携を進めることで、「学校や地域において福祉部局も連携した広域的な支援体制の構築を社会総がかりで推進する」と掲げている。

 不登校特例校については、設置が進まない都道府県があることから、設置に向けた協議会や備品など設置準備に関する経費、地域住民に対する広報、ニーズ調査などを実施するための経費を新規項目として支援する。

 特別支援教育では、医療的ケアが必要な児童生徒への支援として、学校への看護職員の配置を740人増やし、3740人分とした。こうした看護職員は、校外学習や送迎車両への同乗も行う。また、ICTを活用した特別支援教育の指導方法やオンデマンド型の授業などについての調査研究に1億2700万円を計上。教科書のデジタルデータを活用して、発達障害や視覚障害のある児童生徒への教材開発や普及促進に2億6300万円を盛り込んでいる。

 「ギフテッド」と呼ばれる児童生徒に対して、文科省が初めて対策を盛り込んだことも注目される。特定分野に特異な才能のある児童生徒は、学習や学校生活で困難を抱えることがあるとされるが、こうした児童生徒への指導や支援として「子供の関心にあった授業」「多様性を包摂する学校教育環境」「学校と学校外の機関の連携による学習面・生活面の指導や支援」などについて実証研究に着手。事例の蓄積とその横展開を図る。

教員業務支援員 14学級以上の小中学校に1人ずつ配置

 

 教員の負担軽減=表2参照=では、まず、義務教育を支える教職員定数について、25年度までに小学校35人学級を計画的に整備する中で、23年度は4年生の学級編制標準を35人に引き下げるため、3283人を改善。また、26年度まで10年間かけて、発達障害などの児童生徒への通級指導や、外国人児童生徒に対する日本語指導の充実など教育課題に対応する計画の中で、23年度は425人を改善する。合わせて基礎定数を3708人改善する。

 一方、加配定数では、小学校高学年の教科担任制への対応として25年度までの4年間で3800人を改善する計画の中で、2年目となる23年度は前年度と同じく950人を改善する。働き方改革や複雑化・困難化する教育課題への対応としては250人を計上した。

 これら基礎定数と加配定数を合わせた教職員定数の改善は計4808人。少子化に伴い、義務標準法に定められた教職員定数の自然減は6132人になるため、教職員定数の微減傾向は続く。だが、児童生徒数の減少が教職員定数の減少分を上回るため、児童生徒に対する教員の割合は改善することになる。

 教員業務支援員については、前年度から2300人増えて1万2950人を盛り込んだ。全国の14学級以上の公立小中学校に週5日勤務の業務支援員を1人ずつ配置できる計算になる。文科省は8月の概算要求段階で全国全ての公立小中学校に1人ずつ配置するため2万4300人の予算計上を求めたが、財務省との予算折衝の過程で削られた。ただ、文科省では「教員業務支援員は週5日勤務ではなくても学校現場のサポートとして効果を発揮する。それぞれの自治体で工夫することで、教員の負担軽減は進むはず」(初等中等教育局財務課)と説明している。学習指導員は前年度と同じく1万1000人を盛り込み、教職に関心のある学生の学校体験活動としても活用することを意図している。

 中学校の部活動指導員は、運動部1万500人、文化部2052人の計1万2552人に拡充する。ただ、部活動の地域移行については、概算要求段階で88億円を計上していたコーディネーターの配置支援などは見送り、体制作りに向けた実証事業に取り組むとして11億円を計上した。予算要求後の政策変更は官庁として珍しいが、スポーツ庁では「自治体からさまざまな意見をいただいた。全国で着実に取り組みを進めていくために内容を変更した」と説明している。

 教員免許更新制の廃止との組み合わせで、来年4月からスタートする新たな教員研修に向けた研修受講履歴記録システムの構築や教員研修コンテンツや講習の開発については、すでに執行段階にある22年度2次補正予算に盛り込まれている。

GIGAスクール運営支援センターの機能拡充 地域・学校間の格差解消を目指す

 

 学校のICT活用では、GIGAスクール構想による1人1台端末の本格的な活用が全国の学校に広がる一方、地域や学校による端末の利活用を巡って大きな格差が生まれていることが懸念されている。23年度予算では、こうしたICT利活用を巡る地域間、学校間の格差解消を重要政策として掲げた=表3参照

 具体的には、1人1台端末やネットワークのトラブル対応などにあたる都道府県のGIGAスクール運営支援センターの機能を拡充し、学校DX戦略アドバイザーなどが参画した都道府県レベルの協議会を設置して、地域や学校による利活用の格差解消を進める。

 また、ICT支援員を統括する学校DX支援リーダーを配置してICT支援員の対応力を引き上げ、学校のICT活用を支援する人材の育成も図る。これらの必要経費としてすでに22年度2次補正予算に71億円を計上しており、23年度予算には継続的な運営費用として10億円も盛り込んだ。文科省では、23年度には全ての学校が端末活用を「試行錯誤」から「日常化」のフェーズに移行することを目指すとしている。

 学校の働き方改革と教員の負担削減に向けて、校務支援システムの進化も重要な課題。校務にパソコンを使うことが当たり前になってきたと言っても、現在の統合型校務支援システムはほとんどが自組織内に閉じられたネットワークで運用され、校務用端末が職員室に固定されているなど、クラウド時代の教育DXに対応していない。

 このため、23年度から3年かけて全国5カ所で実証研究を行い、次世代の校務のデジタル化モデルを構築する。その後5年で全国レベルのシステム入れ替えていく考えだ。実証研究に必要な経費としてすでに22年度2次補正予算に11億円を計上、23年度予算にも運営経費8000万円を盛り込んだ。

 学習者用デジタル教科書の普及促進事業では、24年度のデジタル教科書の本格導入に向け、23年度は準備作業を加速させる。デジタル教科書は小学5年生~中学3年生の「英語」で優先的に導入されることから、23年度には全国全ての小中学校を対象に「英語」のデジタル教科書を提供。一部の学校には算数・数学も提供する。デジタル教科書を提供した学校にはアンケート調査を実施し、導入効果や課題の分析を行う。こうした事業のため、23年度予算には18億円を計上した。

 教育DXの推進では、教育データの利活用に必要なルールとツールの整備に向け、文科省CBTシステム(MEXCBT)の改善・活用、文科省ウェブ調査システム(EduSurvey)の開発・活用を進める。MEXCBTは22年12月時点で全国の小中学校の87%に当たる2万4000万校、725万人が登録し、オンライン上の学習やアセスメントに活用している。23年度には記述式自動採点の実装などの機能拡充や、23年4月に実施される全国学力・学習状況調査の中学英語「話すこと」での活用などに取り組む。EduSurveyは、調査集計の迅速化、学校現場や教育委員会の負担軽減を目指してシステム開発を進めており、23年度には約100の調査で活用する。すでに22年度2次補正予算に4億円を計上、23年度予算にも6億円が盛り込まれた。

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