演出家の宮本亞門氏が訴える「戦争の足音が聞こえる今だから考えてほしいこと」とは――。「本土復帰50年に立つ沖縄、沖縄からの平和発信とは」と題したシンポジウムが1月11日夜、都内会場とオンラインのハイブリッドで開催された。主催は沖縄県。満員の約200人が会場で聴講する中、宮本氏による基調講演と、沖縄県の玉城デニー知事らによるパネルディスカッションがあった。
沖縄の居住歴もあり、地上戦について多くの体験談を聞いたという宮本氏は基調講演の冒頭、「ウクライナ侵攻など世界情勢に心を痛める1年だった」とした上で、「2023年はどんな年になるか」と問われたタレントのタモリ氏が「新しい戦前になるんじゃないですかね」と述べたことに触れ、「戦前には皇民化教育があったとはいえ、誰も悲惨なことが起きるとは思っていなかった。突然起きるのが戦争だ」と語った。
実体験として、ニューヨークに滞在していた2001年9月11日に同時多発テロ事件に遭遇したといい、「煙や炎で逃げ場を失い、ビルから飛び降りる人の姿を見て衝撃を受けた」と述べ、「誰を信じていいのか疑うべきなのか分からない状況になり、ニューヨークに憎しみと不安が生まれた」と語った。
その上で、対馬丸で魚雷攻撃を受けた784人の疎開児童や、沖縄で爆撃により命を奪われた子どもたちについて触れ、「命の尊さは感じられていなかった。『一般住民だ』『子どもだ』なんて関係ない。戦争は人を人と思ってはできないことだ」と強調。
「皆が1人でも人を殺さずに進んでいけるようにするという考え方が必要だ」と言い、その前提として「『あいつとは口をきかない、無視する』という考えが認められたら『あいつはいない方がいい』ということになる。そうならないことを心の底から願っている。戦争は止めることができる。傍観者でいるのではなく、発言し、行動してほしい」と強く訴えた。
「平和を希求する沖縄のこころ」と題したパネルディスカッションでは、玉城知事、ひめゆり平和祈念資料館の普天間朝佳(ちょうけい)館長、㈱さびら共同創業者で平和教育ファシリテーターの狩俣日姫(かりまた・につき)さんが登壇し、次世代への平和継承の在り方を論じ合った。
21年度 Forbes 30 UNDER 30 JAPAN「世界を変える30歳未満の30人」の1人として、教育分野から選出された狩俣さんは「沖縄の子として、慰霊の日がある6月を『グロテスクな話を聞かなきゃいけない月だ』と思っていた。沖縄戦のことを聞くのは嫌だった」と振り返り、「後に自分で調べ、『自分に知識がなかったから体験者の話を受け取れなかった』と気付き、ショックを受けた」とした上で、ファシリテーターとしてこれまでにさまざまな学校で展開してきた新しい形の平和学習を紹介した。
これを受け、普天間館長は「ひめゆり平和祈念資料館でも、教員の皆さんの声を聞きながら、平和学習プログラムの開発や動画制作、教員向けのワークショップをしている」と説明。
玉城知事は「狩俣さんのようなファシリテーターを育成する事業を進めており、21年度までの3年間で29人を輩出した」と述べ、「今後も、若い人材が自分事として『平和への学びをリードする』という意識を持ち、これから先の将来を作っていく次世代の1人として行動できるよう啓発していく」と力を込めた。
※狩俣さんが展開する授業事例については、本紙の独自取材による記事を後日掲載する予定です。