【能登半島地震】 避難所の子ども支援 WVJ・髙橋さんに聞く

【能登半島地震】 避難所の子ども支援 WVJ・髙橋さんに聞く
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 激甚災害に指定された能登半島地震の発生から2週間。今もなお多くの人が避難生活を余儀なくされ、長期化が予想される。子どもの心身への影響や学びの保障が懸念される中、子ども支援に携わる多くの団体が被災地に入っている。その一つ、国際NGOのワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、1月7日から4人のスタッフが初動調査として石川県内に入り、避難所などの子ども支援のニーズ把握に努めている。初動調査チームの一員で、災害時の子ども支援に精通する髙橋布美子さんに、避難所での子どもたちの様子や支援の課題を聞いた。

避難所サポートと学校再開、教職員が抱えるジレンマ

――初動調査に入って1週間が経過しようとしていますが、これまでの活動状況を教えてください。

 まず、1月7日夜に金沢市内に到着し、石川県庁で情報収集をしました。七尾市ならば金沢市から数時間で行けるとのことだったので、翌8日から七尾市に向かうことにしました。茶谷義隆市長と面会したり、避難所になっている同市立山王小学校に行き、長谷部学校長から話を聞いたりしました。

 また、金沢市内にある「いしかわ総合スポーツセンター」が8日から1.5次避難所として、能登半島から避難した人を一時的に受け入れることを知りました。行ってみると子どもたちの姿もあり、そこに居合わせた現地の子ども支援に携わっている人や別の団体と連携し、急きょ、子どもがゆっくり過ごしたり、遊んだりできる居場所を立ち上げることにしました。

 初動調査で派遣されたのは4人ですが金沢市内を拠点に、朝にスポーツセンターに立ち寄って、日中は七尾市に向かい、夕方にもう一度スポーツセンターの状況を見に行くといった動きをしています。スポーツセンターの居場所は、開設を受けて地元の保育士や幼稚園教諭、学童指導員といった方々が駆け付けてくれたので、とても心強かったです。そのおかげでスポーツセンターの居場所については現在、私たちは災害時の子どもと接する際のアドバイスや足りない物品の手配などの側面支援を中心に活動しています。

いしかわ総合スポーツセンターに開設された子どもの居場所=WVJ提供
いしかわ総合スポーツセンターに開設された子どもの居場所=WVJ提供

――避難所になっている学校の状況はどうでしたか。

 山王小学校では、長谷部校長をはじめとする先生方が子どもたちの安否と居場所の確認、避難所の運営サポートに奔走していました。子どもたちの安否確認は取れているものの、それ以上のことまでは把握しきれていないそうです。子どもたちの様子がすごく気掛かりであるけれども、避難所の支援もあり、子どもたちのケアや学校再開に向けた準備に割く時間も余裕もないと、ジレンマを抱えているようでした。先生方の負担はかなり大きいと感じました。

 七尾市内では今(取材時)も断水が続いています。山王小学校の中には給食センターが併設されていて、市内の他のいくつかの学校も含めてそこから給食を配送しているのですが、学校が再開できても断水が続いていたり、水道以外の設備も壊れていたりすれば、給食の提供は困難になります。

 それ以外の設備や用具なども、壊れていれば修復や買い替えの必要があります。私たちも用具の買い替えなどはサポートできると伝えているのですが、学校単体というより、市としての調整事項でもあり、課題が山積する中でまだそこまで手が回らないという印象でした。

七尾市立山王小学校の長谷部校長からヒアリングするスタッフ=WVJ提供
七尾市立山王小学校の長谷部校長からヒアリングするスタッフ=WVJ提供

地震の体験を遊びで表現する子どもたち

――子どもたちへの地震の影響が心配です。

 スポーツセンターの避難所にいる人は、輪島市や珠洲市などから避難してきた人が多いのですが、中には転々と車中泊を繰り返しながらやっとここにたどり着いたという人もいて、大人も子どももとても疲れています。それでも、子どものためのスペースがあることに気付くと、保護者はほっとしている様子でした。到着したばかりの保護者が落ち着いたタイミングを見計らって、私たちも声を掛けるようにしています。

 子どもたちもこれまでずっと我慢してきたので、思いきり遊んでストレスを発散したり、リラックスして過ごしたりしています。

 ただ、ちょうど私たちがスポーツセンターに寄っていたときに余震があり、体育館の梁が大きな音を立てたことがありました。その瞬間まで元気に遊んでいた子どもたちも、ふっと身を固めて、急に緊張感が高まっていたのが見受けられました。

――地震の影響がさまざまな形で表れるのですね。

 小さな子どもたちは「おままごと」をするように体験したことを遊びで表現します。大きな余震があった後も、子どもたちは遊び場にある物を揺らしたり、子ども用テントの中に入って「地震だ、地震だ」と何度か言うと、「よし、避難しよう」と外に出たりすることをしていました。このように、怖かった体験を遊びで表現することは、災害後の子どもの行動としてよく見られることなのです。

 私たちも日頃から、災害などの危機を体験した人に向けて行う支援「心理的応急処置(PFA=Psychological First Aid)」を啓発する中で、そうした行動は子どもたちにとって自然な反応であり、大人もそれを注意したり止めたりしないように、と呼び掛けています。スポーツセンターの居場所づくりに関わっている人たちとも、そのことは共有しました。

 でも、大人もまた地震を体験していて、子どもたちのそうした行動を見ると、どうしても自分自身が緊張してしまうということもあると思います。つらいときは無理せずにその場を他の人に代わってもらったり、子どもたちがいないときに大人同士でそうした気持ちを話してもらったりするように、とアドバイスしています。

 ただ、避難所にはさまざまな人が集まりますので、子どものそういう行動を目にして気に障ってしまうということもあると思います。物理的に子どもたちが安心して過ごせる環境を確保することと同時に、できるだけ避難所にいる多くの人に子どもの状況を説明しながら、理解を得ていく必要があります。

取材に応じた髙橋さん=WVJ提供
取材に応じた髙橋さん=WVJ提供

つながりの保障が重要に

――避難生活が長期化する可能性がある中で、今回の初動調査で見えてきた子ども支援の課題は何ですか。

 短期的な面では、やはり子どもたちの心のケアです。今回の地震では、地域の避難所だけでなく、さまざまな場所に分散しているので、普段一緒に過ごしていた子どもたちが顔を合わせるような機会がなかなかありません。日常を取り戻すためにも、常設型の居場所づくりと同時に、集合型のイベントを企画するなどして、子どもたちが集まり、リフレッシュできるような活動を始めてはどうかと思っています。

 学校再開のめどが立ってきたら、子どもたちの生活スケジュールがどうなるか、学校の備品や用具の不足などが課題になるでしょう。それは行政だけでなく、私たちのような民間の団体も力になれることがあります。

 遠くに避難した子どもや家庭の支援、その人たちと元々暮らしていた地域をつなぐコミュニティーの再生も考えなければなりません。何らかの形で、遠くに避難している子どもたちの元のクラスや地域とのつながりを保障していけるといいなと思います。

 それから、これは海外の難民支援などでも言えることですが、子どもたちの学びを止めないこと。これはあらゆる方法で保障しなければいけません。

――さまざまな団体が被災地で子ども支援に乗り出しています。それぞれの強みや活動拠点がある中で、いかに協働していくかがポイントになるのではないでしょうか。

 WVJでは、普段から被災地の子ども支援を行っていて、かねてから連携している団体とは、今回の地震でも情報共有の場を設けています。しかし、その場に参加していなくても被災地支援に入っている団体や地元の団体もとても多くあります。今後、そうした団体とつながり、調整をする人材が必要になるでしょう。どうしてもこうした支援ではこの調整役の充当が後回しになってしまいがちですが、とても重要な役割で、そろそろ必要なフェーズに入りつつあります。

 スポーツセンターの避難所では、私たちのような外部団体と地元のさまざまな団体がうまく役割分担をして連携することができました。これを契機に、石川県全体で子ども支援の情報をやりとりできるようにしていければいいなと思います。

 災害が起きると、弱い立場にある子どもたちのことは後回しにされがちになります。子どもの居場所や心のケアの大切さを、多くの人に意識してほしいです。

【プロフィール】

髙橋布美子(たかはし・ふみこ) ワールド・ビジョン・ジャパン支援事業第2部国内支援・アドボカシー課課長。青山学院大学国際政治経済学部卒業、政策研究大学院大学修了(国際開発学修士)。国内自治体の行政経営・戦略計画策定支援のコンサルタントとして活動後、国際協力銀行、JICAで南アジア地域の開発援助に従事。家族と米国生活中に東日本大震災が発生したことから、復興支援への思いを胸に帰国し、2013年1月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。東日本大震災緊急・復興支援部を経て、現職。保育士。

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