持ち帰り含む教員の時間外勤務、過労死ライン超え続く 全教調査

持ち帰り含む教員の時間外勤務、過労死ライン超え続く 全教調査
調査結果を説明する全教の檀原毅也書記長(左)、糀谷陽子中央執行委員(中央)、吹上勇人書記次長
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 給特法の見直しを視野に入れた文科省の教員勤務実態調査が進む中、全日本教職員組合(全教)は1月19日、教員の持ち帰り仕事を含めた独自の基準で調べた「教職員勤務実態調査2022」の第1次集計の結果を公表した。校内での時間外勤務と持ち帰り時間を合わせた教職員の時間外勤務の合計は4週間合計で86時間24分となり、10年前に比べて4時間49分減ったものの、依然として過労死ラインと呼ばれる月間の時間外勤務80時間を超えていた。文科省が教員の勤務時間に関する指針で定めている月45時間の上限については、「毎月超えている」26.1%、「超えた月がある」33.1%との答えだった。校内の時間外勤務は、年代別では30歳以下が4週間で83時間52分、学校種別では中学校が同じく88時間44分でそれぞれ最も長く、過労死ラインを超えていた。

 調査は昨年10月24日から30日にかけ、全教と教組共闘連絡会の組織を通じて教職員に協力を依頼した。「できるだけ実態を正確に反映させたい」として、全国の教職員の学校種や年代の割合に比例した形で調査を行っている。総依頼数は3399件。このうち2524件の回答を得た。回収率は74.3%。全教では10年に一度、同様の調査を行っており、今回が4回目となる。

 

 調査結果によると、昨年10月時点で、全職種で平均した教員の時間外勤務(4週間)は、「校内での時間外勤務」が71時間40分、「校内での時間外勤務」が14時間44分で、合計86時間24分だった。これは10年前の12年に全教が行った調査に比べ、「校内での時間外勤務」は2時間8分増えた一方、「持ち帰り時間」は6時間57分減っている。時間外勤務の合計は4時間49分減っていた。

 全教の調査では、教職員が一週間にわたり業務や通勤、家事育児、睡眠などの時間の過ごし方を30分刻みで調査票に記録し、それを集計する手法をとっており、この方法は文科省が現在行っている教員勤務実態調査と基本的に変わらない。全教の調査では、この調査票に記載された「出勤時刻から退勤時刻までの時間数」から「取得した休憩時間」を引いて「在校等時間」を算出。その「在校等時間」から「所定の勤務時間(7時間45分)」を引いた時間を「校内での時間外勤務」としている。文科省の教員の勤務時間に関する指針で示されている在校等時間の考え方とは異なる点があるほか、文科省の在校等時間には含まれないテレワーク以外に自宅で行う業務も「持ち帰り時間」として算出。こうした「校内での時間外勤務」と「持ち帰り時間」を合わせて「時間外勤務」と定義している。

 こうした算出方法で調べた結果、「持ち帰り時間」が減った一方、「校内での時間外勤務」が増えた理由について、調査に当たった全教の糀谷陽子中央執行委員は「まず、働き方改革によって教職員の時間外勤務は短くなっているとの指摘があるが、『校内での時間外勤務』は10年前よりも増えていることを押さえておきたい」とした上で、「持ち帰り時間が減っているのは、ICT化の影響があるのではないか。校務支援システムの導入によって、学校でなければできない仕事が増え、どうしても学校に残る必要が出てきている」と指摘した。

 文科省が昨年9月に行った「校務の情報化に関する調査結果」によると、校務支援システムは81.9%の自治体で導入している。しかし、学習系と校務系を連携させてさまざまな教育データを可視化できるように、校務支援システムを「インターネット経由で接続したクラウドで運用している」と答えた自治体は、14.0%にとどまった。教職員が自宅から校務支援システムを使うことができる自治体は、6.0%しかない。全教の調査結果では、校務支援システムによるICT化が進んでいても、それが目指すべきクラウド運用や教員の自宅での利用ができるところまで整備されていないため、逆に学校に残る時間が増えてしまっている、という状況が示唆されている。

 糀谷氏は「結果として、時間外勤務は減ってきているが、それでも平均が月80時間の過労死ラインを超えているという異常な状態が続いていることを強調しておきたい」と語気を強めた。

 

 文科省は働き方改革を進める基本的な考え方として「公立学校の教師の勤務時間の上限に関する指針」で▽1カ月の時間外在校等時間は45時間以内▽1年間の時間外在校等時間は360時間以内--とすることを示している。この月45時間の時間外勤務の上限について、全教の調査では、「超えたことはない」が31.2%だったのに対し、「超えた月がある」が33.1%、「毎月超えている」が26.1%だった。

 文科省が全国の教育委員会から聞き取って昨年12月23日に公表した学校の働き方改革を巡る取り組み状況の調査によると、時間外勤務が「月45時間以下」となっている割合は4月から7月までの平均で、小学校は63.2%に、中学校は46.3%に、高校は63.4%だった。全教と文科省の調査結果を比べると、時間外勤務が月45時間以下に収まっているとの答えは、教委からの報告をまとめた文科省調査が大きく、労働組合である全教が教職員から直接聞き取った調査では厳しい結果になっている。こうした働き方改革の進展状況の評価については、文科省が現在行っている教員勤務実態調査を待つことになる。

 

 ただ、学校種別でみると、中学校で教員の時間外勤務が特に深刻になっていることは、全教と文科省の調査結果に共通している。全教の調査では、中学校の時間外勤務は4週間で88時間44分と、過労死ラインを超えている。小学校は67時間56分、高校は71時間24分だった。「中学校の突出が目立っている。これは部活動の指導方法に関係があるのではないか。時間外勤務を部活動の顧問の有無、土日の時間外勤務の長さに関係していることからも、部活動の影響が分かる」。糀谷氏はこう説明し、今後まとめる第2次集計で詳細に分析する考えを示した。

 

 今回の調査では、時間外勤務の年代別による比較も行っている。それによると、30歳以下が4週間合計で83時間52分となり、これも過労死ラインを超えている。団塊世代の大量退職で教職員に若い世代の割合が大きくなる中、若い世代の教職員に長時間勤務の負担がのしかかっている状況がうかがえる。とはいえ、月45時間を超える時間外勤務はどの年代でも行われており、61歳以上でも平均で60時間56分だった。

 若い世代の教職員については、育児の問題があることも、今回の調査で示唆された。回答者に育児や看護・介護の有無を尋ねたところ、育児について29.2%、看護・介護について7.8%がそれぞれあると答えた。糀谷氏は「家族への責任を負っている教職員が回答者の37%を占めている。教職員には若い世代の割合が大きくなっており、調査結果を見る上で重要なポイントになると考えている」と説明している。

 文科省によると、21年10月1日時点で、全教には教職員3万921人が加入しており、そのうち教員は2万8516人となっている。教員全体(83万5592人)に対する加入率は3.4%。新採用教職員の加入率は1.0%。

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