文科省の「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」は1月20日、第10回会合を開き、最終まとめ素案について議論した。素案では、職員室に固定された校務用端末からしかアクセスできないなどの現状の課題を踏まえ、次世代の校務支援システムはパブリッククラウド上での運用を前提に教務・保健・学籍などの管理を行い、その他のクラウドツールと柔軟に連携する、さまざまなデータを集約する基盤(ダッシュボード)の構築を進めるといった方向性が示された。その上で、こうした次世代の校務DX(デジタルトランスフォーメーション)のモデルケースの創出、「校務DXガイドライン」(仮称)の策定など、今後取り組むべき施策をまとめた。
最終まとめ素案では、「自宅(テレワーク)や出張先での校務処理ができず、ワークライフバランスの改善が困難」「教育委員会ごとにシステムが大きく異なり、人事異動の際の負担が大きい」「学習系データと校務系データとの連携が困難」といった課題を把握した上で、①働き方改革②データ連携③レジリエンス――の3つの観点から、次世代の校務DXの方向性を整理した。
具体的に解決すべき課題として▽校務系・学習系ネットワークの統合▽校務支援システムのクラウド化▽ダッシュボードの創出▽以上を安全安心な形で実装するためのセキュリティーの確保――を挙げ、「パブリッククラウド上での運用を前提に、教務・保健・学籍などに関する機能を中核とし、その他の機能は校務支援システムとは独立したクラウドツールが担うという役割分担のもと、両者が必要に応じて柔軟に連携することが望ましい」「各種ダッシュボード機能の実装によって散在しているデータが分かりやすい形で統合的に参照可能となる」などの方向性を示した。
同時に、情報セキュリティーの観点から「利用者ごとに情報へのアクセス権限を適切に設定するとともに、①アクセスの真正性②通信の安全性③端末・サーバの安全性――の観点から、端末とクラウドサービスを提供するサーバ間の通信を暗号化し、認証により利用者のアクセスの適正さを常に確認しなければならない」など留意点を指摘した。
今後取り組むべき施策としては、次世代の校務DXのモデルケースの創出、「校務DXガイドライン」(仮称)の策定、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂などを挙げた。文科省はこうした取り組みに対し、今年度第2次補正予算で11億円、来年度予算案で8000万円を計上している。
現時点で校務系・学習系ネットワークを分離した形でのネットワーク環境や、自前サーバ(オンプレミス)を前提とする校務支援システムを調達・運用していて、すぐに環境整備に取り組むことが難しい自治体でも、汎用(はんよう)クラウドツールを活用した情報交換や会議資料のペーパーレス化、スケジュール管理のオンライン化、保護者への連絡・情報交換でのクラウドツールの活用、帳票類・業務の見直しなど、できるところから校務の情報化を積極的に進めることを求めた。
委員からは「自宅残業などの『見えない』化が横行している。情報流出の観点だけでなく、健康管理の観点からもまだまだ課題があることを強調するべき」「システムを入れて『終わり』ではなく、有効活用を目指して組織化し、好事例を共有するなど、導入後の効果を最大化することが必要だ」「校務支援システムが導入されている自治体でも、残業自体が特段減っているわけではない実態がある。学校自身が自律的に、無駄な部分を効率化することを考えていかなければいけない」など、さまざまな意見が寄せられた。
堀田龍也座長(東北大学大学院情報科学研究科教授、東京学芸大学大学院教育学研究科教授)は「私たちが今回、最終まとめを出すにあたって一番大事にしたいのは、先生方の気持ちだ。先生が働きやすくなり、子供たちのために全力を尽くすということがしやすくなるために実現しようと思っていることが、やたら細かいレギュレーション(規制)になって現場を苦しめているので、このあたりをもっと自由にし、民間や社会、家庭で普通に使われているクラウドのシステムを、学校でうまく使えるようにしていきたい」と結んだ。有識者会議は次回会合で、最終まとめの取りまとめに向けた議論を行う。